ダンテ王、怒る。
「何だと!!」
ヨハンの話を聞いていたダンテ王は驚いて立ち上がった。
大神官ネオサルトも目を丸くしている。ロベルトもあんぐりと口を開けて驚いている。
「リエッサ王妃……だから、サツキナをあんなに欲しがったのだ。しかし賄賂とは。我が国の王女を……何という無礼な……馬鹿にするにも程がある!!」
ダンテ王は拳を握り締める。
「しかし、ジィド辺境伯がその様なお人だったとは……」
ネオサルト大神官は茫然としたままだ。
「間違有りません。長男のラミスから聞きましたから。ジィド辺境伯の領地は不穏な雰囲気に包まれています。隣国のサラース男爵とのトラブルが深刻なのです。どうしてリエッサ王妃は援軍を派遣しないのかと不満の声があちらこちらで聞こえました。
リエッサ王妃はジィド辺境伯を懐柔するのに必死なのです。ジィド辺境伯は俺達が蒔いた罠に引っ掛かって、きっとリエッサ王妃に詰め寄ったのでしょう。だから、リエッサは次の手を考えたのです。きっとシャルルの嫁と言いながら、ジィド辺境伯の領地へ行ってしまえば何とでもなると思ったのでしょう。ジィド辺境伯は息子達に対してもかなりの支配力を持っていますから」
ヨハンの言葉にダンテはわなわなと震えた。
「息子の嫁と言って、実は自分が横取りをする積りなのか! ジィド辺境伯は儂よりも年上では無いか!! 色ボケ爺め!!」
「リエッサ王妃。忌々しい女狐め。ええい!! あのスズメバチに二度と我が国の地を踏ませるな!
汚らわしい。我が神聖な土地が穢れる。とんでもない女だ。あんな毒婦ならジョレス国王もリナ王妃も毒殺されたという噂も信じられるという事だ。ロベルトよ。残りの400万ビルドは支払わぬ。決して。決して払わぬ。
その金を使って軍備を増強するのだ。すぐに国王軍将軍と策を練るのだ。いや、待て。将軍を呼べ。儂から話を伝える」
ロベルトは慌てて部屋を出て行く。
「ヨハン、この話は森番には?」
「アジとザベル婆さんには伝えました。他言は無用と言って。アジは口が堅いがザベル婆さんはしゃべるかも知れません。アジもザベル婆さんも頭から火を噴いていましたよ」
ヨハンは笑った。
「森番以外には決して知られぬ様にせよ」
ダンテは言った。
ヨハンは頷いた。
「それにダンテ王よ。もうひとつ情報があります。ジィド辺境伯の御長男ラミス殿がクーデターを起こしたらしいです。俺達がカーラ鉱山を去った後で。サイコロ通りのボンド商店で聞きました。遣いガラスがやって来たらしいです。その後、お家騒動がどうなったかは分かりません」
そう付け足した。
「ヨハン、サツキナがそろそろオルカ国から戻るであろう。サスの港に迎えに行け。兵士を連れて。サツキナがアクレナイト侯の兵士に拉致でもされたら大変な事になる」
ダンテ王がそう言うとヨハンは「御意」と言って頭を下げた。
「大神官よ。神官達に他言無用としてこの事を伝えよ。そしてイエローフォレストの信者がゼノン神殿に来る時には注意をして欲しいと言ってくれ」
ネオサルト大神官はため息を吐いた。その様な事はしたくは無いのだ。ジィド辺境伯とリエッサ王妃の為にイエローフォレストの信者が不利益を被るのは不条理である。清廉な信者は沢山いるのだ。だがしかしここは頷くしか無かった。
ロベルトが将軍を連れて戻って来た。
「ロベルトよ。 これは戦になるやも知れん。すぐに軍備を増強するのじゃ。 金はあの400万ビルドを使う。船が必要なら直ちにそれに取り掛かる」
普段はぼーとしていて、やれ愚鈍な王よとか、のんびりさんとか、釣りしか能の無い王などと揶揄されているダンテ王にしては鬼神の様な働きである。
そしてダンテ王は憤りと普段やり慣れない行動をした為にこの後血圧が上がって2日程寝込むのだった。




