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リエッサ王妃とダンテ王

 その朝、ダンテ王は寝床の中でリエッサ王妃の提案について考えていた。

「ダンテ王よ。私とルイスの結婚式も残す所1か月半になった。華燭の儀にはご招待を致しますので是非ご臨席を賜りたい。ところで折り入っての相談と言うのはのう……」

 リエッサ王妃は言った。


「近く我が国のジィド辺境伯が王都にご子息のシャルル殿をお連れになってやって来る。もしもサツキナ姫がまだどなたともご婚約をされていなければ、その折にシャルル殿とお会いしご婚約をされては如何だろうか? ジィド辺境伯はネオサルト神官もご存じの様に熱心なゼノン教の信者であられる。立派な人物で多くの領民の尊敬を受けておる。それにカーラ鉱山を持つ、我がイエローフオレストでも1,2を争う程の富豪者である。シャルル殿は三男であるが、見目麗しくまた優しいお人柄と聞く。

 ブラックフォレスト王国の王女が嫁ぐには遜色の無い縁だと思うが……ところで、サツキナ姫はもうそのレッドアイランドの第三皇子とのご婚約を……?」

 リエッサは疑り深い目でダンテ王を見る。



「……いや、まだはっきりと決まった訳では無いが」

 ダンテ王は言葉を濁す。

「サツキナ姫は姿が見えぬがどちらに?」

「カラミス王子とお出かけじゃ」

「ほう、して行き先は」

 しつこく詮索をするリエッサ王妃に顔を顰めてダンテ王は返した。

「どこでも良かろう。そなたには関係が無い」



 リエッサは椅子に寄り掛かると気を取り直して言った。

「決まっていなければシャルル殿に嫁いでも良いのでは? 我が国にサツキナ姫が嫁いでくればブラックフオレスト王国とイエローフオレスト王国の同盟はより健固になる」

「同盟など結んでおらぬ」

 ダンテ王は返した。

「同盟を結んでおる相手国に3か月以内に800万ビルドを払えなどと言う国が有るだろうか」

「だからサツキナ姫が我が国へ嫁げばいいのだ」

「サツキナを人質に寄越せと言う王妃の提言など儂が聞くと思うか?」

 ダンテはリエッサを冷たく見る。



「サツキナ姫がシャルル殿と婚姻を結べば、残りの300万ビルドは免除しよう」

 リエッサ王妃は言う。

「サツキナはイエローフォレストへはやらぬ。貴殿はどうしてそんなにサツキナ姫が欲しいのだ?」

「お互いの平和の為だ」

「サツキナが嫁がなくても平和は築ける。そなたにその気が有るならのう」

「……ジィド辺境伯の領地へ行けばサツキナ姫は裕福になる。こう言っては何だが、王よ。魔族の王女など、他の誰が嫁に欲しがるだろうか?」

「無礼であろう!」

 ダンテは怒りを露わにする。

 リエッサはくすくすと笑う。

「これは失礼。私はどうも率直に物事を言い過ぎる」

 ダンテ王は憮然とする。


「そんなに怒るな。ダンテ王よ。私はサツキナ姫とブラックフォレスト王国の為を思って言っておるのだが……。私の好意を受け入れられぬとは頑固な王よ。まあ、良い。ジィド辺境伯がやって来るまではまだ間がある。ゆっくりと考えた方がよい。後々の事も熟慮してな。私の話を断ると色々と支障が起きるのでは無いのか? 

 では、私は国へ戻る。折角500万ビルドをご用意いただいたのだ。持ち帰ろう。もしもサツキナ姫とシャルル殿の華燭の儀が実現するのなら、その500万ビルドはそっくりお返ししよう」

 リエッサはそう言った。

 ダンテ王はあっけに取られる。

「800万を無しにすると?」

「そうじゃ。それにきっとジィド辺境伯からは莫大な結納金が支払われる事だろう」

 リエッサ王妃はにっこりと笑う。

「……」

「そして二度とそなたの国に無理な税は課さぬと約束しよう」

「無理な税と自認しておるのだな」

 ダンテ王は嗤う。

「よい。500万ビルドを持ち帰れ。リエッサ王妃よ。持ち帰れるならばな」

 ダンテ王はにやりと笑って言った。




 リエッサはアクレナイト家の船に100万ビルドとアクレナイト家の家臣、それに馬や武器を積んで帰って行った。とても500万ビルドは船に積めなかったのである。



 ダンテ王が示した部屋には銅貨が部屋一杯に積まれていた。

「全て1ビルド以下の硬貨でご用意した。船が来るのに時間が掛かったから丁度良かった。

 硬貨は国民に号令して小銭を寄付してもらったのだ」

 ダンテ王は呵々と笑った。

 1ビルド硬貨は500円玉程度の大きさと重さがある。1枚7グラム。それが100万枚で7t(多分)。

 リエッサは唖然とした。そしてダンテ王を憎々し気に見詰めた。

「この様な子供じみた嫌がらせをするなど……」

「どちらが嫌がらせだ?」

 ダンテは言った。



 そしてくすくすと笑うジョージ・アクレナイトを見て

「こんな年増の根性悪のスズメバチに大切な息子殿を差し出すなど、アクレナイト侯よ。そなたの息子殿も憐れよの」

 と言った。

 ジョージは「いえ、その様な事は」と言ってふふと微笑む。



「ダンテ王。今、年増と言ったか? まことに礼儀を知らぬ王よ。呆れるわ。だが心配するな。大丈夫だ。私はルイスを宝物の様に可愛がっているからな」

 リエッサは返す。

「私の腹にはルイスと私の愛の結晶がいるのだ。この子が次期国王になる」

 リエッサは愛おしそうに腹を撫でる。そんなリエッサをジョージは目を細めて見ている。

 ダンテ王は呆れた様に空を仰いだ。


 アクレナイト家の家臣は大汗をかきながら硬貨を舟に運んだ。リエッサはイライラしながら作業を見守った。ダンテはにやにやしながらそれを見守る。

 そして彼等は帰って行った。



 ◇◇◇



 宰相のロベルトがノックをして入って来た。

「お早うございます。ダンテ王。今朝もご機嫌麗しゅう」

 ロベルトは頭を下げた。

「……ロベルトよ。800万ビルドを諦めてもリエッサ王妃はサツキナが欲しいらしい。

 何か裏があるとは思わぬか?」

「ダンテ王。サツキナ姫は婚姻の為にブルーナーガに向かわれているとリエッサ王妃には?」

「言っておらぬ」

「して、リエッサ王妃は何のお話を?」

「うむ。……」

 ダンテは寝床に座ったまま、リエッサ王妃の提言をロベルトに説明した。



「サツキナ姫をイエローフォレストのジィド辺境伯の所に? 三男のシャルル殿ですと?」

 ロベルトは言った。

「イエローフォレストなどへ嫁がせる訳が無い。敵国になど……」

 ロベルトは暫し考える。

「ダンテ王。昨夜ヨハンが戻ったとさっき遣いガラスが来ました。今日にでも城へ来るそうです。丁度良かった。ヨハンの意見を聞きましょう」

 ロベルトは言った。




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