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サツキナ・オルカ国へ

「サツキナ姫。遠い所をよくいらっしゃいました」

 オルカ国シャーク宰相が頭を下げた。

 サツキナは胸に片手を当てもう片手でドレスを摘まむ。頭を垂れて膝を曲げる。優雅な礼である。

 侍女を連れて来ていないので髪を結うのも化粧も自分で行った。



「ところで何故レッドアイランドの船で? 迎えの船を送った筈ですが?」

 サツキナはちらりとカラミス王子を見る。

 王子はにっこりと笑った。

「シャーク宰相。それは私から説明をさせて頂きます」

「あなたは……?」

「私はレッドアイランドの第三皇子カラミス・ブロンテです。父の葬儀の時にはご参列頂き有難う御座いました」

 カラミス王子は頭を下げる。



 シャーク宰相は驚いた顔をした。

「おお。あの時の若君ですな。これは失礼を致しました。てっきりサツキナ姫の従者かと……。レッドアイランド国の王子に対して大変申し訳が有りませんでした。これ、カラミス王子に椅子を」

 従者が運んで来た椅子にゆったりと座ってカラミス王子は説明を始めた。

 流石にアンジェ・リリカちゃんの髪は外してもらった。



「実はブラックフォレスト王国はイエローフォレスト王国から理不尽な要求を突き付けられていたのです。そしてこの度の縁談にはどうもルイス・アクレナイト、あのイエローフォレストのスズメバチの婚約者ですが、その影がちらついていたのです。そこで失礼ながら私は迎えの船はもしかしたら悪の手先ルイス・アクレナイトの画策が蠢いているのではと心配をした訳です。それで彼の裏をかくために、私は信頼の置ける我が国の船を使ってサツキナ姫を送り届けたと、そういう訳です。まあ、全ては杞憂でしたが。はははは」

 カラミス王子は笑った。



「貴国を疑った訳では無いのですが、なんせルイス・アクレナイトは信用が置けないので」

「ほう。しかし、アクレナイト侯はこの縁談には何も関係が無いのでは?」

 シャーク宰相は面白そうに言った。

「そうなのですが……。何か、陰謀の匂いが、あいや。これは失礼。私の考え過ぎでした。

 シャーク宰相。私が疑心暗鬼に陥り過ぎていただけの事です」

 カラミス王子は赤くなって下を向く。

 理屈に無理があるがどうにも仕方が無い。



「サツキナ姫。そう言う事ですか?」

 シャーク宰相の言葉にサツキナは答えた。

「御免なさい。シャーク宰相。私はレッドアイランドの船をオルカ国の船だとばかり思っていたのです。まさか、カラミス王子が()()()()私の事を考えてくれていたとは思いませんもの」

 サツキナはカラミスを睨みながら言った。

「……サツキナ姫には内緒で私が計画したのです。なんせ悪の手先ルイスがどこで網を張っているか分からなかったので。敵を欺くにはまず見方からと言うではありませんか」

 カラミスは偉そうに言う。

「成程。ところでカラミス王子はどうしてそこまでしてサツキナ姫を……その、もしかしたらサツキナ姫を……」

 シャーク宰相は言い難そうだった。



「御心配には及びません。私は実を言うとサツキナ姫に命を助けて頂いたのです。だからその恩返しとしてここまで一緒に来たのです。あくまでも友人として同行したのです。シャーク宰相の息子殿との婚姻を邪魔する積りは毛頭有りません。私はサツキナ姫の幸せを心から願っているのです。ねっ? サツキナ姫」

 カラミス王子はそう言ってにこやかにサツキナを見た。

「そ、そうそう。そうなんです。あははは……」

 サツキナは笑って誤魔化す。

「私はサツキナ姫と婚約を望まれるシンジノア殿をこの目で確認するという仕事をダンテ王から仰せつかったのですよ。是非、お願いすると王は私に言われました」



 サツキナはため息を吐いた。


「カラミス様。カラミス様はここから国にお帰りになるのですよね?(嘘ばっか言ってんじゃないよ。そんな事は一言も言っていないでしょう?)」

「まあそうですが……(いいじゃ無いですか。もう少しご一緒しても)」

「もう、お帰りになられても宜しいですのよ(さっさと帰れ)」

「いや、ここまで来たら是非そのシンジノア様とご対面を(是非お会いしたい)」

「あなた様に何の関わりが?(ふざけんな!)」

「サツキナ姫。何と情けない事を仰るのですか! 私はあなたの事をどれ程心配しているのか分からないのですか!!(まだ、帰りたくない)」

「あら? またうさぎ跳びをしたいと?(アンジェ・リリカちゃんの髪で縛るぞ! コラ!」

「くっ……(それは嫌だ」



 笑顔で語り合いながら、目は笑っていない二人の不毛な会話を聞いていたシャーク宰相は申し無さそうに言った。

「サツキナ姫。カラミス王子。申し訳が無いのですが……シンジノアは今朝から急用で出ておりまして、数日間は戻らないのですが……」

「「ええっ?」」

 二人は驚く。

「……なんてこった」

 二人の茶番を黙って見ていたオダッチは心の中で呟いた。



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