表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/40

サツキナとカラミスとルイス・アクレナイト

これは果たしてラブコメだろうか……。

最近、そう疑い始めた作者。

もしかしたら文芸、ヒューマンドラマかも知れない……。

「カラミス王子。お茶は如何ですか?」

 美しく装ったサツキナはテーブル向こうのカラミスに声を掛けた。

「頂きます」

 カラミスは答えた。

 サツキナは優雅な仕草でカップにお茶を注ぐ。

 カラミスは「有難う御座います」と言って口に運ぶ。


「ドレスは久しぶりだわ。これは母のドレスなのよ。ドレスはこれ一着しか持って来ていないのよ」

 サツキナは言った。

「大変お綺麗です」

 カラミス王子は目を伏せて言った。

「鞭なんかで打たれたら血で汚れてしまう所だったわ……」

 サツキナがぼそりと呟く。

 カラミスはびくりとする。



「額の傷は前髪を下ろしてしまえば目立ちませんわ。火脹れがちょっと出来た位ですもの。……大した事が無くて良かったですわね」

 サツキナはそう言ってにっこりと笑った。

「……お陰様で」

「私の腕に出来た火傷はそれはひどい物ですのよ。ご覧になります? これで私は夏でも長袖を着なくてはなりませんわ。私の夫になる方は誰がこの様な事をやったのかとお怒りになるでしょうね」

 サツキナは包帯を巻かれた両手首をカラミスの前に出す。

 カラミスは汗をたらたらと流す。

「まさか、この腕の醜い火傷の所為で結婚が駄目になってしまったりしたら……、その時はカラミス様。あなたのお国もどうなるか分かりませんわねえ」

 カラミスは青い顔でサツキナを見る。

「でも、背中にムチの傷跡があるよりはマシかしら? ほほほ」

 サツキナは笑う。

 目は笑っていない。


「ご、御免なさい。僕が悪かったです。うんと、うんと反省しています」

 カラミス王子はぶるぶると震える。

「ふうう……」と息を吐いてサツキナは外を見る。

「オルカ国はまだかしら……」

「も、もうすぐだと思います。もうすぐ。もうすぐです」

 カラミス王子は言った。



 カラミスの両足首はアンジェ・リリカちゃんの髪で結ばれている。髪の毛一本であるがそれはそれは丈夫なスチールである。

「カラミス様。これはアンジェ・リリカ様の髪ですの。この髪一本であなたの足を縛ります。両手は開放して置きますね。不便でしょうから。宜しいですか? この髪は絶対に切れませんから」

 そう言ってサツキナはナイフで髪を切ろうとする。

 髪は切れない。逆にナイフの方が刃こぼれをした。

 カラミス王子はがたがたと震える。


「取れない様に唐草結びにして置きますね。ああ、唐草結びと言うのは森番の薬草を縛る時の結び方です。複雑なので外すのにちょっとしたコツが要るのですよ」

 サツキナはそう言うとオダッチや従者に押さえ付けられ、ぎゃあぎゃあと泣き叫ぶカラミス王子の両足首を縛った。

「外す時には私が外して差し上げます。これでも私、指先は器用なのですよ。コレ、あなたでは外れませんからね。無理すると足が切れて無くなってしまいますから。この髪は超極細のウルティムス鋼と一緒ですから。お気を付け遊ばせ」

「……」

 カラミス王子は真っ青になる。

「勘弁してください。御免なさい。本当に済みません。許してください」

 額を床に擦り付けて平謝りである。

 サツキナはにこにこと笑ってそれをスルーする。

「移動する時にはぴょんぴょんうさぎ跳びですよ。物は考え様ですわ。筋トレだと思えば宜しいのではないでしょうか?」

 そう言ってほほほと笑った。



 レッドアイランドのクルー達はサツキナ姫の恐ろしさを身に染みて理解した。逆らうと船が沈没してしまうかも知れない。

 血まみれ姿で怒髪天を突くばかり仁王立ちしたサツキナの姿は目に焼き付いた。

 片腕を失った男の襟首を掴んで引き摺る姿も。まさに地獄の黙示録である。

 時にはそれが悪夢となって夢に出て来てうなされるクルーも少なくなかった。


 サツキナはカラミスが商人を脅かして無理やり船を用意させた事を知ると商人達の命の保証を彼に誓わせた。それから自分が怪我をさせた男についても生涯あなたが面倒を見る様にと言った。

 カラミス王子は一も二も無く了承した。


 そしてそこから航路を変えてオルカ国に向かう様に指示をしたのである。だが、オルカ国へ行くには水も食料も足らない。サスからミスラまでは約1週間。だが、ここからオルカ国へ行くには10日間掛かるのだ。だからグレートクリフにある港に一度寄って不足分の水や食料を補給する事にしたのである。



 クルーは皆そこで下船を願い出たが、それはサツキナが許さなかった。

皆、手を擦り合わせてサツキナを拝んだ。

だが、サツキナは無情にも「ここで下船したら、皆、呪い殺してやる」と脅かした。


 誰もが震え上がった。

「その代わり、オルカ国まで行ったら給料を3倍にしてやる」とも言った。

 どうせ払うのはカラミス王子だ。

「腕を切り落とされた者だけはここで降りて治療を受けなさい。治療費は全てレッドアイランドカラミス王子の名で」

 サツキナは言った。


◇◇◇



「サツキナ様。3日後にはオルカ国に到着予定です」

 船長から話を聞いて来たオダッチが部屋へやって来てそう言った。


「まだ、3日も掛かるのね。……全くえらい遠回りをしてしまったわ。本当のオルカ国の船はどうしたかしら? 私達がいないので約束を破ったと思われて婚約を破棄されてしまったらどういたしましょう……。800万ビルド貰えなくなっちゃう。その時は、カラミス様がちゃんと私達を罠に掛けた事を説明してくださりますよね?」

「も、も、勿論です」

「それでも駄目な時は、仕方ありませんわ。レッドアイランドへ使いを出して損害賠償請求をしないと」

「わ、分かっています。分かっています。誠心誠意、対応させて頂きます」

 カラミス王子は冷や汗を流しながら答えた。



 ◇◇◇◇


 

  サツキナ達の乗った船が食料や水の補給の為にグレートクリフにある港に寄港していた頃、ルイスの乗った船がそこを素通りして過ぎて行った。

 僅か半日程の差でルイスはサツキナの乗った船と出会う事が出来なかったのだ。それは運命のいたずらと言うか、神の気紛れと言うか、作者の意地悪と言うか……。



 

 ルイスはミスラへ急いだ。

 お陰で船は一日早くミスラに着いた。

「サツキナ姫の乗った船はもう着いているだろうか」

 彼は言った。

 クルーは全員船から降りてサツキナ達の乗った似非のオルカ国貿易船を探した。

 だが、それは見付からなかった。


 彼等は港で働く人々に聞いて回った。誰もそんな船は入港して来ないと言った。

 船は国によって入港する場所が決まっている。ルイスはオルカ国の入港場所にもレッドアイランドの入港場所にも行ってみたが、そこで働く苦力(クーリー)達は、そんな船は見なかったと言った。


 ルイスは不安になる。心配で仕方が無い。

 誰よりも走り回ってサツキナ達の船の行方を捜した。


 まさか、転覆してしまったのか?

 古いから浸水して沈没してしまったのか?

 嫌な予感が胸に過る。


 こんな事ならやはり自分が一緒に行くのだった。

 酷く後悔した。

 ミスラの港に入って来る貿易船の船長を片っ端から捕まえて、オルカ国の国旗を付けた不審な古い貿易船を見なかったかと聞いた。 


 ブルーナーガからやって来た貿易船に乗った船長が言った。

「ひょっとするとあれかな? ブルーナーガに向けて航海している黒い貿易船と途中ですれ違ったのだ。グレートクリフからやって来た船だ。

 オルカ国とブルーナーガの国旗を付けていたが、あれはレッドアイランドの船じゃないかなと思った。あんな船はオルカ国では使っていない。随分古い船だった。もしかしたら海賊船かも知れないと思って近寄らなかったのだ」


 ルイス・アクレナイトは言った。

「それはいつの事だ?」

「5日程前の事だ。だが、やたら遅い船だったから、オルカ国にはまだ到着していないだろうな」

 ルイスは心から安堵した。何がどうなっているのか分からないが、多分それがサツキナの乗った船なのだろう。

「兎に角、生きていればいい」

 彼はそう思った。

 走って船に向かう。

 心が軽い。



 船に乗り込むと船長に言った。

「船はブルーナーガに向けて航路を変えたらしい。だが、それが本当にサツキナ姫の乗った船だという証拠は無いから、数名ここで降ろして後から来る船でそれらしき物は無いかどうか見張らせてくれ」

 船長は頷いた。


「では、オルカ国へ向かいます。しかし、アクレナイト侯。ここからオルカ国へは2週間程掛かります。サスの港を出てからもう9日が過ぎました。アクレナイト侯は流石にイエローフォレストへ帰らないと不味いのではないですか?」

 船長が言った。

「城を出てもう半月を過ぎた。父上に頼んだ船は既にブラックフォレスト王国に向けて出港しただろう。父上には出来るだけ時間を稼いでくれと手紙には書いたが……」

 ルイスは答えた。

「ブルーナーガを廻るとイエローフォレストに戻るのは1か月を優に過ぎてしまいます。リエッサ王妃が激怒されるのでは……」

 船長は心配そうに言った。

「また、錯乱状態に陥ってしまうと大変です。それに我々がブルーナーガに着いた頃には、もうサツキナ姫はブルーナーガを去ってしまっているかも知れません」


 ルイスはきっぱりと言った。

「いい。兎に角ブルーナーガへ行く。リエッサ王妃の事は父上がうまくやってくれるだろう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ