竜の山の小石
カラミス王子が出て行ってばたんとドアが閉まった。
「痛かったー。めっちゃ痛かった。くすん。くすん(泣)。今迄誰にも叩かれた事なんか無いのに……」
めそめそと泣く。
「魔族の事を間抜けとか馬鹿とか、何回も言った。……御父上まで馬鹿にして……。馬鹿って言った人が馬鹿なんだからね! そんな事も知らないのかしら!」
「……くそ!!カラミスの野郎、絶対に許せん!」
最後は叫び声になる。
めらめらと復讐への闘志を燃やす。
くねくねと芋虫の様に体を動かす。壁を使ってひょいと立ち上がる。体幹強度は半端ない。
とことことサイドボードまで行くと後ろを向いて不自由な手先で石を手に取った。
さっき、オダッチに貰った石である。
◇◇◇◇
時間を少し戻そう。
(良く韓流ドラマで使う技。さっきは言っていないのですが、実はこんな事が有ったのですよ。的な)
「こんな事なら石を持ってくれば良かった」
そう言ったサツキナにオダッチは言った。
「サツキナ様。爺さんがくれた石じゃ無いけれど、竜の岩山の石ならあります」
「えっ? 何で?」
「記念にひとつ拾って来たんですよ。御守りにでもしようと思って。手頃な大きさですよ。
雑のうに入れて置いたのを忘れてそのまま持って来たんです」
「オダッチ、それを試してみた?」
「いや、まだ」
「じゃあ、ちょっと貸して」
そんな訳でオダッチはカラミスが来る前にサツキナに石を手渡していたのだ。
◇◇◇◇
石は赤子の握り拳程度の大きさでお握りみたいな形をしていた。
「これを使ってこの縄を切る事は出来ないかしら?」
サツキナは考える。縄は緩みなくきっちりと結ばれている。
サツキナは後ろ手に石をぎゅっと握って念を込める。
「竜の岩山の石よ。私を助けて」
目を閉じて心から願う。
アンジェ・リリカちゃんの顔を思い浮かべる。ザベル婆さんの顔も思い浮かべる。ヨハンの、ダンテ王の、ロキやウスルや、アジ。ルイス・アクレナイト侯の顔。ネオサルト大神官や国の重臣達。乳母のセナや侍女のマリア。
そして幼い頃に亡くなってしまった母親の面影を脳裏に描く。
ダッカの森の神様に祈る。ゼノンの神よ。お願いだから私に力を。
願いを込めて石を握る。
そうやって握っている内に石が温かくなってきた。
「おや?」と思って石を置いて見ると石がほんのりオレンジ色に光っていた。
「オレンジ色は『火』かしら……?」
サツキナの母は「火」と「風」を扱う魔族だった。
もしかしたら、その力がほんの少し私にあるのかしら?
サツキナはそう思った。
また目を閉じて石を握る。
「竜よ。ダッカの森にすむ神々よ。お願いだから、私に力を」
石が熱くなってきた。
「あっちち!!」
サツキナは思わず手を離した。石は赤く輝きを増していた。
「これじゃ、サイドボードが燃えちゃう。何かいいい物は……」
テーブルの上にあったカップのソーサーが目に入った。カラミスの使ったナプキンも。
サツキナはナプキンを使って赤く輝く石を掴むと素早くソーサーの上に置いた。
赤い石に腕を縛った縄を付ける。縄がちりちりと焦げて焼けて行く。
腕が熱い。それでも我慢をして縄を焼く。
「もう少し、もう少しで……」
サツキナの額に脂汗が滲む。
かさっと音を立てて縄が切れた。サツキナは慌てて焼けた縄を払う。
火傷をした手首に水差しの水をどばどばと掛けた。
「後でオダッチに薬を貰わないと。痣になっちゃう」
そう呟いた。
石は熱を失ってオレンジ色に変化していた。
サツキナは石を両手で持つとそれを額に当てた。額がほかほかと温かい。
ブラックフォレストの神に、それから自分を待ってくれている人々に、そして竜とアンジェ・リリカ様、おじい様に感謝を捧げた。
「しかし、火を扱う魔族がいちいち火傷していたら体がもたないわね」
そんな事を言いながらそれをズボンのポケットに入れた。
サツキナは立ち上がると剣を手に取った。そして忍び足でドアの外を伺う。ドアは鍵が掛けられていた。その向こう側には人が立っているのがドアの隙間から見て取れた。
サツキナは椅子に近寄るとそれをぎゅっと握る。
かっと目を見開くと椅子を高く持ち上げた。大きく息を吸い込む。
「このォ、勘違い野郎!!」
そう叫ぶとドアに椅子を叩き付けた。




