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リエッサ王妃 1

 イエローフォレストの王宮ではリエッサ王妃が苛々としていた。


 10日を過ぎたのにまだルイス・アクレナイトは帰って来ない。

 何か不慮の事故でも起きたのだろうか? リエッサは不安になる。

 だから、父の兵士達を連れて行けと言ったのだ。それなのに、百戦錬磨の強者達だしこの方が気易いからと言ってアクレナイト家の家臣を30名程連れて行っただけで……。

 私の大切なルイスに何かあったらダンテ王もブラックフォレストも許さない。

 自ら軍を率いてあの国を蹂躙してやる。

 そう思った。



 10日で500万ビルドなど絶対に無理だ。だから奴らはサツキナ王女を人質として差し出すしか無い。王宮まで連れて来て、その後、頃合いを見計らって賊に襲わせる。噂では剣も弓矢も相当な腕前らしいが、元々武器等持たせはしない。そしてそのまま獣のジィド辺境侯に贈る。彼はサツキナ姫を檻に入れて調教するかも知れない。

 噂では先ごろ亡くなった女は檻に入れていたという事だ。

 サツキナ姫は美しい肌がボロボロに荒れ、あのたっぷりとした黒い髪が抜けて見すぼらしい姿になるだろう。あっという間に彼女は老ける。それこそ私よりも早く老けるだろう。

 政治に口を出す生意気な小娘にはいい薬だ。


 ダンテ王は愚鈍な王だ。サツキナ姫が連れ去られたとしてもイエローフォレスト国では何も出来ない。彼はすぐに娘を探し出す事を諦めるだろう。それに息子のロキがいるのだからそれで良しとするのだろう。彼は面倒な事や不都合な事は見えない振りをして通り過ぎて行く男だ。行方不明の娘などすぐに忘れる。



 これでジィド辺境伯は文句も言わずに増税に応じる。今迄の0.5割増し。

 それに前王ジョレスの喪に服せなどと面倒な事も言わなくなる。

 しかし、あんな小娘一人に増税に応じるとは。

 劣情に囚われた男と言うのは愚かなモノだ。彼はもうそろそろ還暦だと言うのに。

 ずっと私を阻害し排除しようとしていたのだが、サツキナ姫の話をした途端に掌を返した様に私の計画に乗った。

 昨年、ブラックフォレストの大神殿に行って偶然サツキナ姫を見掛けたらしい。


 ジィド辺境伯は女を見下している。女が男の上に立つのは天の摂理に反すると本気で思っている。

 だから現在私が国を仕切るのが許せないのだ。本来なら自分こそが王になるべきだと思っているのだろう。

 あんな差別主義者&偏執狂&変態に国を任せたら大変な事になる。あの家の息子達も父を見て育っているから同じ様な考えを持っている事だろう。


 隣国グリンデルタのサラース男爵と事有るごとにもめている。軍を派遣すると言ったら余計な口出しは無用と怒り出した。ジョレス国王が亡くなった途端に女の癖にとこちらを見下し、勝手な采配を振るっている。

 格下のグリンデルタ国のそれも男爵クラスを押さえる事も出来ぬとはその力量が自ずと分かるというモノだ。サラース男爵を使ってうまく彼を貶める事は出来ぬかと思って様子見をしている所だ。

 彼は馬だ。鼻先に人参サツキナをぶら下げて、馬車馬の様に働かせてやる。そして必要が無くなれば排除する。



 ルイス・アクレナイトと結婚する事により貴族筆頭の勢力者アクレナイト家は私の後ろ盾になった。

 アクレナイト家は古くから続く由緒ある侯爵家だ。広大で豊かな領地を持ち、海洋に面しているからブルーナーガとの商売も活発だ。ブルーナーガ商人の船団はアクレナイト侯爵の領地にある港に入港する。またはインディグランド川を遡って王都まで直接やって来る。インディグランド川の通行税を徴収するのはアクレナイト家の仕事だ。それは8割方税金として国に納められる。後の2割は施設料及び手数料だ。

 それだけでも莫大な富がアクレナイト家に落ちる。だが、彼等は何と言ってもブルーナーガの海賊が跋扈する大海に乗り出してそれを取り締まり、我が国の富を守ってくれる。その海戦技術は格段に高い。船も多数保有している。

 アクレナイト家には忠誠を誓う有能な騎士が数多集まる。古くからの家臣も多い。

 だが、私の父ハアロ大将軍の軍にはとても及ばない。何しろハアロ大将軍は陸軍としてはこの辺りの国々で一番なのだから。


 アクレナイト家の息子と婚姻関係を結ぶとなればかなりの富と力が私に舞い込む。

 ジョージ・アクレナイトが私に息子を差し出したのは、私に対する恭順の意を示したからだ。アクレナイト家はルイス・アクレナイトがある限り私を裏切る事は無い。

 陸軍のハアロ家。

 海軍のアクレナイト家。

 強大な力が私の手中にある。



 そんな事を考えていると女官がやって来た。

「リエッサ様。お肌のお手入れのご用意が出来ました」

「あら、そう?」

 リエッサが立ち上がるのを女官は助ける。

「お腹に大切なお世継ぎがいらっしゃいますから」

 彼女はそう言った。

「きっとルイス様に似た凛々しい男の子でしょう」

 女官は微笑む。


 長い廊下を歩いていたリエッサ王妃の所にフロレス武官が急ぎ足でやって来た。


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