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サツキナ・ピンチ !

 サツキナは両腕が動かせない様に後ろ手に縄で縛られ椅子に座っていた。

「その腕で魔法を使われてしまうと困るからな」

 カラミス王子は言った。


 オダッチとその他の従者も捉えられて別室に縛られて閉じ込められていた。

 サツキナを人質に取られたオダッチは剣を捨てるしか無かったのだ。



「そうだよ。サツキナ姫。この船はレッドアイランドへ向かっている」

 カラミス王子はサツキナの前で優雅に紅茶を飲みながら言った。

 ソーサーにカップを置くと白いナプキンで口元を拭った。

「ああ、悪いな。私だけがお茶を飲んで。サツキナ姫もお茶が欲しいかい?両手を縛られているから口移しなら飲ませられるよ」

 カラミス王子は微笑みながら言った。



 サツキナはぷいと横を見る。

「我慢出来なくなったら遠慮なく言ってくれ。しかし、私の演技力もなかなかのモノだろう?」

 そう言って笑う。

「あの、肩を震わせてルイスを罵倒する演技など相当なレベルであると思わないか?」

 今度は真面目な顔で言う。



「どうして、こんな事を」

 サツキナは信じられぬ思いでカラミス王子を見る。

「あなたを我が国へ迎えたいのだよ。あなたも是非行きたいって言っていたではないか。

 それが少し早まっただけだ」

 彼は顎の下に手を置き、笑顔でサツキナを見る。

「あなたを私の妻として迎えたいのだ」

 その言葉にサツキナは驚く。




「私にはジル王女と言う幼馴染がいるのだがね。勇猛果敢な女でね。その凄まじさと言ったらイエローフォレスト王国のスズメバチといい勝負だろう。隣国のサラマンダー王国の王女だ。私よりも3つ年上なのだが私を子ども扱いして小うるさい事この上無い」

「結婚相手を連れて行かないと、私はそのジル王女と結婚をする羽目になる。

 砂漠の女達は勇猛だ。姉のミランダ王女も恐ろしい位だ。だから29にもなるのに嫁の貰い手が無いのだ。姉もいつまでも私を子ども扱いしてあれこれと五月蠅く口を出す。本当に面倒で仕方が無い。だから早く結婚して子供でも作ればいいのに。全く持って……。ぶつぶつぶつ……」

 最後はぶつぶつと愚痴になる。



「その点、あなたはとても良い。あなたは美しくてしとやかで上品で全く私の好みだ。角が生えていているのがちょっと難点と言えば難点なのだが……。もしかするとその角の所為で第二夫人となるかも知れない。その時、正妃はジル王女になるだろうな。でも、私はあなたをとても愛しているから、第二夫人であってもあなたを蔑ろにする事は無いから安心して欲しい」


「それに私個人の意見を言うなら、逆にその角はあなたのチャームポイントだと思うよ。だから結婚式ではその角に花を飾ってあげよう。それともリボンが良いかな」

 カラミス王子は笑う。

 サツキナはぽかんと彼を見る。


「その間抜けな顔。笑ってしまうよ。だが、あなたにはそんな顔も似合うな。すごく可愛らしい」

 そう言うとカラミス王子はサツキナの頬に手をやる。

「さっきやり損ねたキスをしてやろう」

 そう言うと顔を押さえて無理やりサツキナの唇に自分の唇を合わせた。

 サツキナはその唇に噛み付いた。

「痛い!」

 カラミス王子は思わず唇を離すとサツキナの顔を平手で殴った。



 サツキナは椅子から転げ落ちる。

「何て女だ。野蛮な……あなたには躾が必要だな。私の国では夫に逆らう女はむち打ちの刑だ」

 カラミスは唇を拭いながら言った。

「見ろ。血が出てしまった。全く」

「あなたは夫なんかじゃ無い。ねえ。どうしてこんな事をするの?」

 サツキナは聞いた。

「私はあなたを助けたのでしょう? その恩は一生忘れないって言ったでしょう?」

「ああ。有難う。それは感謝しているよ。国に着いたらダンテ王にお礼の金を送るよ。まあ、100万ビルド程度かな? それ以上は無理だな。オルカ国とは違うから。君は100万ビルドで私に買われた。金で買われる事に異存は無いのだろう?貧乏な国だから」

「……」


「私はあなたの性格や容姿に惹かれもしたが、それだけではない。重要なのはあなたの魔力だ。私はあなたのその風を操る力が欲しい。その力があれば私の国はレッドデザイアーでも無敵の国になる」

「それは竜の山が無ければ無理だと言ったはず。今の私は風など起こせもしない!」

「それは嘘だ」

「どうしてそんな事を?」

「アクレナイトの船を焼いた雷、あれは、ロキかそれともウスルか……?」

 サツキナはびくりとする。



「その顔、図星だな。ふふふ。山が無くても魔力は発動するんだ。あなたは嘘を吐いている。だから両手は束縛させてもらったのだ。暴風など起こされても困るからな」

「ブラックフォレスト王国の図書館で魔族についていろいろと学ばせてもらったよ。

 誰もが僅かながら魔力を持つのだってね? 色々と興味深い事が本には書いてあったよ。間抜けでお人好しなダンテ王。好きに学ばせてくれて本当に有難い」

 カラミス王子は嘲笑う。

「魔族って間抜けだな」

 そう付け加える。


「兄も姉もよくやったと誉めてくれるだろう。強力な魔法を持つ魔族の王女を手に入れたのだから」

 爽やかに笑う。端正な顔が明るく輝く。

「これで私も一人前と認められる」

 ぐんと胸を張る。


 カラミス王子は立ち上がると倒れているサツキナの髪に手をやる。

「美しい髪だ。可憐な王女。……だが、鳥の様に全世界を俯瞰して正しい道を取るなど考えもしない、無知で世間知らずな女。大海原を旅したことも無いから陸に沿って航海している事にも気が付かない。まあ、確かに出来るだけ陸地から離れた航路をとってくれと船長には言ったけれどね。いつ気が付くかと思っていたんだ。

 重ね重ね愚かだな。魔族とは。王女も愚かだが従者も愚かだ。気が付かない振りをしていれば良かったのに。折角の船旅が台無しだ。つまらない」



「今夜は背中にムチをくれてやろう。その白くて美しい背中に。私のキスを拒んだのだ。その位の罰は受けて貰わないとな。

 ああ、そうだ。あなたはアクレナイト侯とキスをしていただろう? その分の罰も受けてもらおう。それは不倫の関係だからな。

 私以外の男と二度とキスをしてはいけない。それをしっかり体に覚えさせてやる。

 ちゃんとドレスを着て背中を開けて待っていてもらおうか。大丈夫。ドレスの着替えはちゃんと女がいるから。料理をする女だ。何しろ人手不足でね。まあ、着替えの手伝い位はできるだろう」

 カラミスはそう言って、はははと笑って部屋を出て行った。



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