楽しい船旅
一行はサスの港町に来ていた。
サスは小さな港町である。ブルーナーガやイエローフォレストの船はインディグランドを遡って直接王都に近い港から入港する。ここで陸路を取ると王都までかなりの道を行かねばならない。ここは船に食料や日用品などを積み込む経由地として使われる事が多かった。
その港に船が入港して来た。オルカ国からの迎えの船だ。船にはオルカ国の紋章であるシャチを描いた旗が翻っていた。ブルーナーガ海上連合国家の旗も翻っている。
船は食料やら水やらを積み込む。オルカ国はここから船で10日間かかるそうだ。
サツキナ達はそれに乗り込んだ。
船は大海原に向かって旅立った。
「やはりシャーク宰相の次男坊というのは実在するのですな」
オダッチが言った。
「さあな。行ってみないと分からない。イエローフォレスト王国の罠で無ければいいが」
あくまでもルイスを信用しないカラミス王子は言った。
「それに本人にどこか不都合があるとか……養子に出すというのには何か深い訳があるはずだ」
「魔族を嫁になんて言う人はそんな理由があるのかも知れないわね」
サツキナは言った。
カラミス王子はあっさりとそう言ったサツキナを見る。
「あなたはそれでもいいんですか?」
「仕方が無いわ。だから結婚の条件としてウチの後ろ盾になって欲しいと言う積りよ。それならイエローフォレスト王国も迂闊な事は出来ないわ」
「後ろ盾なら私の国も出来るだけの事をしましょう」
カラミス王子は言った。
「あなたは私の命を助けてくれたのだから」
サツキナは王子を見る。
「有難う。すごく心強いわ」
サツキナは彼の肘に手をやる。
◇◇◇◇
「私はこんなに大きな船で旅をするのは初めてよ。大海原を旅するのは心がのびのびとするわね」
サツキナは船の縁に手を置いて大きく息を吸い込んだ。
「あそこに見える島は何かしら?」
「あれはクシリ島でしょう」
カラミス王子は答える。
「すごく大きな島ねえ」
「クシリ島はレイ国の領土です。ウミガメの産卵場所があるのですよ」
「ふうん……あなたって何でも良く知っているわね」
サツキナは感心した様にカラミス王子を見る。
カラミス王子は嬉しそうに言った。
「有難う御座います。……僕はあなたと一緒に来る事が出来て良かった」
「私もカラミス王子とお知り合いになる事が出来て本当に良かったです」
サツキナはにっこりと笑った。
「ごほん」
オダッチが咳払いをした。
「サツキナ様。そろそろその男みたいな恰好はおやめになってちゃんとドレスを着てください。サツキナ様は婚約者にお会いになるためにここまで来たのでしょう。旅行じゃ無いんですよ。どうかブラックフォレスト王国の王女らしく美しく装ってくださいよ」
「降りるまでには綺麗にしておくわよ。それよりもお腹が減ったわね。食事はまだかしら」
サツキナはそう言うと部屋に向かった。
「何だ。オダッチ。折角いいムードだったのに邪魔をするな」
カラミス王子が言った。
「サツキナ様は婚約者に会いに行くんですってば。目的を分かっていますか? カラミス王子。楽しい船旅じゃ無いんですよ。間違ってもぶち壊す様な真似はしないでくださいよ」
「分かっている」
カラミスはそう言うと「ふふん」と笑って部屋へ行ってしまった。




