問いかけ コルとモナの二人のやり取り
聞き終えたモナは驚きに瞳を丸くしたまま、コルの顔を見つめた。何からどう訊けばいいのか、わからずに問い倦ねている。
「コルさん、昨日の森の主の話って…」
何も言わずにコルは眼だけで答えた。相変わらず察しが良いモナの読解力に頭が下がる。お茶のお代わりを注ぎつつ、コルはそっとモナに問いかけた。
「モナちゃん。君なら森の主はどうすれば良かったと思う?」
キョトンとした瞳にモナの眼差しが変わる。次第に考え事で下がっていく視線と並行して、ぶつぶつとモナの口から独り言が漏れ出てきた。
「…なんで最初に言葉を教えなかったんだろう。」
意思の疎通、はコミュニケーションを図る上で重要だ。その方法は一筋縄ではいかないものだ。言葉が当たり前のように通じる事が、どれだけ恵まれているか。
少し意地悪な質問をしてしまったかもな、とコルは感じた。僅かな申し訳なさでモナを見つめる。
暫く考え込んで虚空を見上げる彼女の感性は、他の人間とは少し変わっている。もしかすれば、昔に自分が出した答えとは違うものを返してくれるかもしれない。淡い期待を抱く自分に思わず、コルは苦笑いを浮かべた。
散々悩んだ挙句、モナは音を上げた。
「コルさぁん、幾ら何でもそれは無理だよぉ。」
答えなんて出る筈が無い。もやもやした気持ちだけが残り、モナはくしゃくしゃに顔を顰めた。コルは宥めながら手土産の木の実を小鍋に詰めた。
「済まなかったね、モナちゃん。暫くは俺も忙しくなるから、祭が終わったらまたおいで。」
鍋一杯の実を持たせると、モナを送り出す。押される背に、モナは振り返ってコルに尋ねた。
「ねぇ。コルさんはいつも何処に行ってるの?」
「それは、内緒。」
相変わらず指を立てて、口唇の前にかざす。微笑みを浮かべるコルに、いつもはぐらかされてばかりだ。
モナは悔しさが残る胸の内をキュッと堪えて、町へと戻っていった。
いつものルーティンに戻ったコルは、再び森の若主の元へ訪ね行く。幾ら親しくなっても、流石にこれはモナには見せられない。
ゆっくりと樹幹を撫でる。黒々とした艶髪のような手触りを受け止め、コルは大切に扱った。微かな緑光でコルに応えるように煌めく森の若主は、黒髪の樹皮をさざめかせ、光の粒を放出させる。
もし、この光景を見たらモナは喜ぶだろう。だが、どうしてもコルには拭いきれない不安があった。
この地へ辿り着く前の、とある町外れの広場で聴いた、ある男の一人語りがコルの耳に蘇っていく。




