第95話 過去編⑥
魔人王が死ぬと『破壊の衝動』はリセットされる。
それは攻め込んできて居る平民や大部分の兵は影響を受け、戸惑う者、撤退を試みる者がほとんどだった。しかし、国に残って居る兵、特に王都の守備をして居る兵は元々『破壊の衝動』に浮かされているものは少ない。
勿論そういった兵には王を倒された事に呆然とし戦意を無くしてしまう者も多かったが、復讐に燃える者もいる訳で僕達の王都脱出はかなり困難な物となった。
王宮を3人で抜け出た後、三手に分かれる。
これはすでに決めてあった事だ。
誰が残っても恨みっこ無し。
そしてその賭けに勝ったのは僕一人だった。
王都を抜けて待ち合わせの場所に行くと陽動部隊の方も残っていたのは二人だった。
三人は悟られぬ様に旅を続け何とか人間の国まで帰還することが出来た。
僕達は隊長の国であるザイン皇国に来ていた。
ザイン皇国の首都はお祭り騒ぎだ。
僕達は勇者として歓迎された。
死んだものたちの墓標も建てられて弔われた。
ここから1ヶ月はお祭りが続く様だが僕は早々に辞退した。
早く王国に、真雪の所に戻りたいのだ。
旅立ってから既に8ヶ月は経っている。
僕は急いで移動して海路からルナに渡った。
ルナからはアーティファクトを用意できないか頼んだのだが、そこで凱旋のパレードをしてくれと頼まれた。
早く帰りたい僕は難色を示したが、簡単で良いので馬車で移動して民衆に顔見せして欲しいと言われ断れなかったので数日掛けていく事になった。
聞いた話ではトーレス王国は無事らしい。
勇者の被害もほとんど出ていないとの事で安心した。
しかし、帰還の途中国境の山脈の間深い谷がある場所で野営をしている時だった。
僕のテントに一人の少女が現れた。
その少女は真雪だったが別れた時と明らかに変わっている部分がある。
お腹が膨らんでいるのだ。
入って来るなり彼女は言った
「隼人、逃げて!」
彼女の話を聞くと、クラスメイトの皆んなは全員殺されたらしい。
魔人ではなく、王国の人達に。
祝賀会で飲み物に薬を混ぜられて動けないところをやられたと言う事だ。
真雪は妊娠していたので別室で休憩をしていて助かったらしい。
もしくは生まれる子供を狙っていて見逃されたのかもしれない。
何とか逃げ出したが、どうやら隼人の事も襲うと言う話を耳にしたのでここまで来たと言う事だ。
そうした話を聞いている時突然テントが燃え上がった。
僕は彼女を連れて外に出る。
すると半裸の男が五人ほど取り囲んでいた。
一瞬魔人かと思ったがツノとか模様が雑すぎる。
今まで散々魔人を見てきた僕には一目でわかる下手な変装だが、あまり見たことが無い人なら騙されるかもしれない。
僕は変装魔人に切り掛かった。
これでも魔王を倒した僕の剣はそうそう見切れるものでは無い。
一人目を切り倒そうとした瞬間目の前が爆発した。
どうやらトラップを仕掛けるスキルらしい。
シールドで緩和したが貫通するのか衝撃は襲って来る。
もう一人の男が素手でシールドを叩くこれまた貫通攻撃か、僕の体が弾け飛ぶ。
勇者対悪を万全にしているのだろうもう一人が両手でシールドを圧迫するとシールドが壊れる。
そこに極大魔法が打ち込まれた。
しかし、その魔法と僕の間に真雪が入り込んだ。
真雪にシールドはここまでの移動で既に限界だったのだろう、魔法を防ぎきれず魔法は彼女の全身を焼いた。
即死だった。
僕は声にならない叫び声をあげて偽魔人に切り掛かる。
しかし、シールドに阻まれてその剣は届かなかった。
真雪はそのまま崖の下に落ちて行く。
僕はそのまま絶望の淵に沈んだ。
奇跡
あると言えば有るし無いと言えば無い。
どんな事も奇跡と思えば奇跡だし、必然と言えば必然だ。
隼人と真雪の死は覆せない。
しかし、まだ死んでいない者がいた。
二人の子供が胎児でありながら覚醒したのだ。
そして彼女は生を求めてシールドを張った。
それは母体を守る者では無かったが、胎児を守るのには十分だった。
真雪の死体は谷底の川を流れ南の海岸に流れ着いた。
胎児の目覚めたスキルは『吸収』
生命維持にそのスキルは活用された。
そして港町の子供のいない夫婦に拾われる。
それが数世紀を経て皇帝になる者の先祖だった。
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まぁ難産でした。
ススムに入っている情報は、ここまでのストーリーではなく事件の概要です。
前回の勇者が王国を乗っ取ったので、それを恐れた王が召喚した勇者を皆殺しにしたと言うやつです。
ススムは生き残りがいるんじゃ無いかと思ってます。
少しでも面白いと思われましたらモチベーションにもなりますので、ブクマや評価をよろしくお願いします。
とにー




