第55話 3つの選択
「うーーん」
デバイスを見て俺は唸った
「どうしたの、ススムお兄ちゃん?」
執務室のソファーで寛いでいた春花が尋ねる。
「仕事の邪魔しちゃダメでしょ。」
隣でお茶を飲んでいるイヴが春花を嗜めるが……
執務中に寛いでる君たちは……
うん、邪魔になって無いね
推しを見ながら仕事をするのは俺の精神衛生に素晴らしく貢献してるし何より癒される
「先日ダンジョン内で暗殺事件が起きてね、それをどうしようかなと。」
などと正直に言うと二人は驚いて
「ダンジョンでそんな事するんですね。」
「それで犯人は?」
「犯人は分かってるけど、まぁいつでも処分できるが……色々考えが有ってね……」
「ススムお兄ちゃん、また悪い顔してる。」
「ほっとけ」
春花の軽口を相手にせずに俺は思考に沈んだ
とは言え思考加速があるので一瞬だが
まずはライトの事だが、勿論蘇生してアイテムボックスに居る
そのお陰でオンラインショップのデバイスで彼のデーターが解るのだが。
彼は覚醒勇者だ。
まずは俺が調べて確信に至った覚醒勇者に付いて説明しておこう。
覚醒勇者と言うのは召喚勇者の子孫が力に目覚めた者の事である。
勇者とて一人の人間だ事が済めば生活が有り子孫を残す
現在王国に居るCランク冒険者の殆どがこの覚醒勇者だ
この世界にも隔世遺伝と言うものがある。
確率は一万分の1と思われるが……
但し、王国はこの事を秘匿していると思われる
特に召喚勇者の耳には入らないようにと
まぁこの事は、つまり前の世界には戻れないと言う証明でもあるからな。
勿論耳に届いてしまった場合の言い訳も予想出来る
この世界が気に入って残った勇者の子孫と言えば納得は難しいが理解はできる
俺は帰れるとしても残る気満々だが
ライトの話に戻るが、彼が覚醒したのは3歳の時だ
覚醒と同時にステータスが跳ね上がり様々なスキルを身に付けている。かなり優秀な先祖だったようだ。
特筆すべきはユニークスキルだ
スキル名『虚空』
このスキルは忍者の隠匿と似ているが格が遥かに違う
隠匿が無いように振る舞う効果が有るのに対して、虚空は無かった状態にしてしまう効果が有る
このスキルは使い方によってさらなる進化を遂げるだろう、素晴らしいチートスキルだ
但しライトが不幸だったのはこのスキルの存在を知る前に発動して自分のスキルとステータスの一部を消してしまったことだ
それを解くためには術者がスキルを理解して解除を宣言するか、術者が死亡するかしか無い。
奇しくも今回殺されてしまった為にスキルが解除されたのだ。そうでなければ例えオンラインショップのデバイスでも確認する事はできなかっただろう
ステータスに関しても勇者は大体普通の人間の10倍程のステータスが有る
常人の1レベルが10前後なのに対して100以上のステータスを持つのだ。
彼のステータスは120程なのだが虚空は三桁目を消してしまって居た。その為常人より少し良いステータスになって居たのだ。ただそれ故に学校の成績は良かったのだろう。
さてどうしようかな。
間諜の忍者の報告によると侯爵領から使者が出発したそうだ。。
もうあまり時間はない。
こうなったら本人に聞いてみるか……
俺はイヴ達に席を外してもらって、ライト君を取り出した。
そしてライト君に事の顛末を詳しく聞かせる。
ライト君は静かに聴いていた。
「さて、どうするかね?」
俺が尋ねるとライト君は
「ススムさんはどうしたら良いと思いますか?」
と尋ねてきた。
「自分で考えろ……と言うには難しい問題か……良いだろう、今から幾つか選択肢を出してあげよう。ここから選んでも良いし、参考にして自分の答えを出しても良い。」
「解りました。」
「まず一つ目は全てを明らかにして王宮に報告する事。最も正論だがこれをやるとまず侯爵家はお取り潰しになるだろう。君がCランク冒険者だと判れば領地はいずれ継げるかもしれないが実績をあげて陞爵される迄は代官を置く形に成るだろう。」
「父はどうなりますか?」
ライトの問いに俺は答える
「侯爵ほぼ確実に死罪だな。5男と7男の件は明らかに共謀だからな。君にとって救いなのは侯爵は君の時は反対していたと言う事だ。結局夫人に押し切られたようだが、君の装備、あれは侯爵の最後の賭けだったのさ。賭けたのは俺にだ。俺がもう少し実力が無くて浅慮だったら侯爵の賭けは成功してたのかもね。」
ライトはうなづいている。
元々聡い子だったのが覚醒して知力が上がったお陰で理解力は格段に良くなってるな
「では二つ目だ。何も無かったことにするだ。たまたま助かった事にしてしれっと家に帰るんだ。事件の記憶は思い出せないように振る舞えば良いだろう。家に帰ったら覚醒している事を伝えれば良い。家族は喜んでくれるだろう。内心は別にしてな。これが1番丸く収まるが逆にしこりは1番深く残る。一時だけなら良いかもしれないな。」
ライトは静かに聴いている
「そして三つ目だが……君は行方不明のまま、俺が慰謝料を払う。君は俺に仕える、だ。慰謝料は100ミスリル金貨位かな。」
「そんなぁ」
ライトが初めて大きく反応する。
「安いか?安いとは思うけどな、あんまり高いと後面倒な事に成りかねないぜ。」
「いえ逆です。高すぎるような。」
「俺は君にそれだけ価値を感じているって事だ。1000ミスリル金貨だって惜しくない。」
俺はそう言ってライトを見つめる
「それで、どうするかい?」
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果たしてライトの回答は?
少しでも面白いと思われましたらモチベーションにも成りますのでブクマ、評価よろしくお願いします。
とにー




