第202話 魔素障害
時間は少し遡る。
ハーツ領、領都ダグハーツ。
領主であるボルザーク・ハーツは領主館の執務室で考え事をしていた。
彼には悩み事があった。
彼の末娘であるシメリアの体調のことだ。
シメリアは魔素障害の病に侵されていた。
魔素障害はそれ自体が致命的な病では無い。
ただ魔素によって魔力の循環が滞ってしまうため免疫や他の病に対する抵抗力が落ちてしまうのだ。
この病自体は成人が掛かった場合、そこまでの成長で得た魔力を少しづつ消費する事になる。
それ以降成長する事はなくなってしまうが深刻な状況になる事は少ない。
特に鍛えた冒険者であれば以降前線で活躍することは難しいが、普通に暮らすだけなら何の不便も感じないだろう。
ただし、幼子のうちに掛かってしまうと話は別だ。
そこまで得た魔素が無いためにかなり厳しい状況となる。
もしこれが庶民の幼子なら数年を待たずして命を落としてしまうだろう。
この病に対する治療方は一応有る。
魔石から抽出する魔素を薬として与えるのだ。
魔石を大量に消費するのでかなり高額になってしまう上にあくまで一時凌ぎの延命でしか無いのだが、ハール子爵はそれを選択して徹底的な健康管理を行った為ここまでシメリアは生きてこれたのだ。
ただ薬を飲むとある程度動けるのだが一定期間でまた薬が必要となる。
そのインターバルがだんだん短くなっているのだ。
それはシメリアが成長して必要な魔力が増えたことが原因だ。
彼女のレッドラインはだんだん近づいていた。
医者の見積もりだと後一年といった所だと聞かされていた。
そんな時
彼は古い友人をリビングに迎えていた。
会うのは5年ぶりとなるミスリル級冒険者のデルラインだ。
風の噂だと彼は冒険者を引退して後進の教育係をしているとボルザークは聞いていた。
そんな彼が訪ねてきて何を話すのかと思ったら話の内容は驚愕する物だった。
彼が引退した原因は魔素障害だと言うことだ。
だが彼ほどの冒険者であれば魔素障害は恐れる病気では無い。
無理は出来ないが銀級冒険者の指導くらいなら難なく熟るのだ。
その日も銀級冒険者を引き連れて中級ダンジョンを潜っていたのだそうだ。
そしてある程度深くまで潜った後そろそろ帰還との話になった時に銀級冒険者がネームドモンスターを見つけたのだ。
ただ幸いそのネームドモンスターはアクティブな種類では無かった。
ネームドモンスターは実はノンアクティブの魔物が多いのだ。
皆に指示してそのまま撤退する様にしたのだが、魔物を発見した若者が魔物に攻撃してしまったのだ。
功に焦ってしまったのだろう。
ネームドモンスターは恐ろしく強く、病に侵される前のデルラインならともかく今の状況ではとても歯の立つ相手では無かった。
程なくパーティは全滅したのだった。
「しかし、俺はルアシーンの病院で目が覚めた。何と救助にあって助かったと言うことだ。しかし、スキルに超記憶がある俺は覚えている。俺達は確かに全滅した。俺が最後まで生きていたから分かる。他の物達は明らかに死んでいた。そして俺も明らかに致命傷だった。」
デルラインはそこまで話すと大きく息を吐いた。
「そして重要なのはここからだ……何と俺の魔素障害が治ってしまったのだ!」
そのセリフを聞いた私は稲妻に撃たれた様な衝撃を受けたのだった。
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とにー




