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3-14 板挟みな俺。ついでに聞きたいことがある

 その後のことを言えば、特に目立った事件もない。

 隠塚の前に来たはいいものの、まるで初対面にするかのように俺の背中に隠れてべったりだったそら。それがおずおずと時間をかけながらも俺の前に出るのを辛抱強く待った。

 隠塚も隠塚でなかなか俺の背中から出てこないそらにどうしていいのかわからず、互いに変な緊張が走っていた。

 そして、その間に挟まれる俺。

 そらの希望でなるべく人がいなさそうな場所を選び、結果母親の研究室に隠塚には来てもらったわけだが、

「お前達は授業抜け出してまで何をしているんだ?」

 ちょうど良く連絡がついた母親は変わらず本と資料の山に埋もれている部屋で立ち尽くす俺達を見て、半ば呆れ気味に口にしていた。

 もう半ばは多分、おもしろがっている。主に俺を。   

 そうしていつまで続くかと思われた同じ顔の少女達の無言のやり取りは、

「おき! ごめん!」

 意を決して俺の前に出たそらの一言で終わりを迎えた。

 その後はまぁ、互いに言葉を交わして仲直りといったところ。

 無事に二人の関係が破綻することは防がれた。ひとまず、だが。

 そして、そらが隠塚にも見つけることができなかったのは『鬼』としての力のせいらしい。

 俺と違い、どうやらそらは一人でも力をちゃんと使えるようで、隠塚曰くかなりの強さなのだとか。

 で、そらの力は改めてなんなのかだが、

「この子の力は感覚の拡張。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、五感を含めた感覚の全てを方向を問わず広げることができる。それはそこに存在するものしないものを問わず、そらが『認識』したものであればなんでも感じとって認識できるわ。それはもちろん人間だって例外じゃない。そらが皆に意思を伝えたり、あなたと感覚を共有させたりできるのもその性質のおかげ」

 そして、隠塚は自分の力がそらと同種であることを認めた。

「似た力を持った『鬼』が現れるのは珍しいことではないの」

 なんでも何代も続く巫の役目の中、やはり一人だけですべての鬼脅に対するのは難しかったらしく、特に江戸時代やら明治くらいからは人口が一気に増加したこともあり、今の俺達のような巫を陰ながら支援する『鬼』達もいたのだとか。

 とするなら別に隠塚が巫の役目は自分だけのものと口にする理由がわからないが、そこを深掘りするつもりは今はなかった。

 それで、その『鬼』達の中で似たような力を持っていた人間もけっこういたのだそうだ。

「かといって私がそらのように諏訪君と感覚をつなげられるかといえば、そういうわけではないわ。言ってしまえば、貴方達は特殊なの。二人で一つの姿になれるのもそうだけど、力を共有できることも」

 で、同種の能力を持っているから完全に同じことができるかというとそういうわけではないらしい。

 俺達が特殊と言われて、そらがなんとなくうれしそうな気がしたのは――たぶん気のせいじゃない。

「多分、貴方達の特殊な状態は諏訪君の能力が関係していると思う。正直、諏訪君の力が正確にはなんなのか――私にも把握はできていないの。琴音の『増幅』にも似ているけれど、自分の中に他者を取り込むなんて聞いたことがないわ」

 ここに来て、まさか俺の謎が増えるとは。

 それはともかく当初の話に戻ると、鋭敏になった耳が不意に聞いてしまった言葉でそらの意思とは裏腹に力が暴走。隠塚に顔をあわせたくないというそらの意識を反映し、周囲の人間の認識から自分を見えなくしていた、というのが隠塚の予想だった。

 ちなみに俺がそらを見つけられたのは、何度も感覚を共有することで俺に対してはそらの影響力が弱まっていたのかもしれない、ということだった。

「それか――」

 小さくつぶやきながら隠塚は一瞬だけ俺に視線を向ける。が、それ以上は続けずにひとまずは説明は終わった。

 ……なんとなくだが、隠塚が言おうとしたことは予想できる気がした。けど、掘り下げる気はなかったので俺も何も言わない。

 ちなみに当の本人は隠塚の言い回しを理解するのに必死だったようで最後のつぶやきは聞こえていなかったらしい。というか、イマイチ理解してるのかあやしい顔してるが……大丈夫なのか?

「そら……私は、あなたを傷つけるようなことはしたくない。これだけは本当よ。信じては……もらえないかもしれないけれど」

 そして最後に隠塚はそう告げた。その表情はどこか怖がっているようにも見えて、やっぱり今までの隠塚からはらしくない表情。

 けれど、きっとそれは俺がそんな隠塚を知らなかっただけで、隠塚もそらと年の同じ少女なのだと今さらながら再確認させられたようだった。

 ……それにしては腕っぷしがすさまじいと思わなくもないが。

「……諏訪君、なにか失礼な事を思っていない?」

 それに変わらず俺の考えを読んだみたいに言うのは怖いので止めてほしい。

「ゆう〜」

 隣のそらがじと目で見てくるが、さっきまであんな落ちこんでいたのにけろっとした様子だ。

 ……まぁ、中身はまだ全然解決できてないだろうから、後でちゃんと話をしよう。

 そんなわけで優姉達にも連絡はしてあるので、皆もそらの無事を知り一安心。そらはチャット内で謝り倒すこととなっていた。

 そんなこんなで日も暮れてきたわけで、今日は珍しく鬼脅もこれ以上現れる様子もなかった。

 それじゃあ帰るかとなるんだが、確認しておきたことが一つある。

「朝から俺達を見張ってるみたいな奴らのことはわかったのか?」

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