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2-24 初の空中散歩。いやスピード出過ぎ!

 そらの声にすぐさま起きあがる。

 そして同時に、そらと感覚がつながり、黒い『鬼』の姿へと俺は変わっていた。

 そばにいた優姉が息をのんだのがわかった。

 こうやって間近で姿を変えるのを見るのは初めてだっただろうし、驚きはするだろう。

 そして、つながった感覚から鬼脅の気配――だがそれはまだ存在はしていない、これから生まれようとしているもの。

 ツバメと呼ばれた黒装束が言っていた先の気配っていうのはこういうことか。

 場所は……住宅街の向こう。この高校からは少し距離がある。だが、全力で向かえば間に合わない距離でもない。

「ん、おねーちゃんもてつだってあげる」

 そう思っていると、とてとてと志穂さんが近づいてきた。

 そして、昨日目にした羽根付きリングへ姿を変える。なにをするつもりかと思っていると、中心部分のリングが突然直線へと形を変え、俺の身体――肩部分にからみついてくる。

 そして、ぴったりとまるで元から身体の一部だったかのように固定された。触れた部分に圧迫感はなく、本当に自分の一部のようだ。

『今日はとくべつサービス。タクシーつき』

 そんな気の抜けた声が感覚に響いたかと思えば、

「どぅわぁぁっぁぁあああぁぁ!⁉︎」

『わぁぁあああぁぁああぁぁぁ!⁉︎?』

 俺とそらの悲鳴が重なり、一気に俺の身体が宙に舞い上がった。

 しかも速い! すっごい速い!

「――こら、私を置いていくな‼︎」

 そんな優姉の叫びも瞬く間に小さくなっていった。

『空! 空飛んでるよ‼︎ わたし、そらだけに‼︎!』

 猛スピードで空を舞う現実に興奮しているのか、恐怖なのかよくわからないそらの声が響く。

『さっきも飛んでたからだいじょーぶ』

『さっきのは意識だけだったからーーー‼︎』

 志穂さんの気の抜けた声への答えは絶叫だった。やはりあまりの速度に空を飛んでいることへの感動よりも恐ろしさが上回っていたらしい。

 そして、瞬く間に目的の場所へとたどりついてしまった。

 海沿いに面する海浜公園。

 平日の昼ということもあってか人通りはまばら。しかし、感じる気配ははっきりと感覚に流れこんできていた。

『じゃあ、がんばれ』

 その声と同時にからみついていた志穂さんが変じたリングが俺からほどけ、一気に身体が落下していく。

「おぉぉぉぉぉ‼︎!⁉︎」

『あぁぁっぁあああぁあ!⁉︎?』

 また俺とそらの叫びが重なる。

 そして、けっこうな衝撃とともになんとか着地する。レンガを意識した色合いとデザインをした周囲の地面が着地の衝撃に揺れる。

 離れた場所にいた人影がその突然の揺れに、地震か? と驚きの声をあげていたのがわかる。

 いきなり降ろすか? しかもあんな高さから?

 上を見ると、すでに志穂さんの姿はない。

 ……やっぱり、あの母親にしてあの姉、ということなのか。

 違うところで今後のことが不安になってしまった。

「……とにかく、こっちをなんとかするか」

 気を取り直して、周囲に注意を向ける。

『……わかる。志穂さんが教えてくれた感じ――あそこ』

 それは今、俺達の着地の衝撃に驚きの声をあげていた人影。年齢は三十後半くらいか、散歩にでも来たような風体の恰幅の良い男性だ。

 気配はそこから流れこんでくる。

「――あなた達」

 そこに俺達と同じ黒色、しかし細身な姿の『鬼』が現れる。隠塚だった。

「どうしてここに……」

 俺達がいることが意外だったのか、あの丁寧口調を忘れてつぶやく声が聞こえてきた。

「俺達もただぼぉっとしてるわけじゃない。信頼は行動で勝ち取るってのを実行中だ」

 俺の軽口に隠塚は黙っている。白布をかぶっていた時と同様に表情が見えない黒い硬質な相貌は感情を見せようとはしない。

「……彼女ね」

 空を見上げる隠塚。そこにはなにもいないが、志穂さんのことはどうやらお見通しらしい。

「ここに来たのであれば仕方ありません。――こちらの手を煩わせることがありませぬように」

 けっこう直球で言うじゃないか。

 そんなことを言われたら、俄然見返してやりたくなる。

『ゆうってけっこう負けず嫌いだよね。けど、今は争うんじゃなくて、いっしょに協力するんだからね』

 わかってるさ。

 ホントかなぁ、というつぶやきはさておき、いつ現れてもいいように気を緩めないようにする。

 それからしばらく、なにも起きない時間が続いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おきちゃんが協力して一緒にやっていきたくなるように、したい!そっちの方向へもっていきたいですねー(*'ω'*)
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