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1-7 其の黒い姿、かくも妖しき鬼の様
そこにあるのはなにか?
仮にその浮遊体に感情があるのだとしたら、そんな考えが浮かんでいたのかもしれない。
さてかように小さきものを潰してしまうのは造作もないこと。
そう言わんばかりに自らの一部を振るい、思いのほかしぶといそれらに三度と振り下ろそうとした。
だが、変わった。
二つあった小さきものが突然、姿形を変えてしまったのだ。
それはなにか? あれはなにか?
二つの片われが一方に吸われたかと思えば、
面妖な、そこには一匹の鬼がいた。
いや、鬼というてもツノはない。それに顔もない。
のっぺりとした黒い黒い相貌があるだけだ。同じく腕も、脚も、胴もどこもかしこも真っ黒ではないか。
かように面妖なものがあるだろうか?
ゆらゆらと浮遊体は推しはかるように浮かんでいる。
だが、たしかなことはそれは捨て置くわけにはいかぬもの。
なぜなら、ほら見てみるが良い。
こちらを喰らわんと、今や今やとうかがっているではないか!