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2-23 やっぱりおねえさんなんだ

 手短に言うと、すたすたとクロツバメさんは屋上の奥へと行ってしまう。

 ゆうと優奈も言われるままついて行ったけど、わたしとゆう別々なの?

 わたしとゆうは二人そろって力を発揮できるはずなんだけど……。

「じゃあ、やる」

 疑問と不安がわきあがってきたわたしに志穂さんが声をかけてくる。

 ゆうの血のつながったお姉さん。見た目からはゆうの方がお兄さんに見えるけど、何歳なんだろう?

 昨日はいろいろあって、話をすることもできなかったと思い返して気づく。

「お、おねがいします」

 そう気づくと、はじめての人――しかも年上と二人きりということに緊張してきてしまう。

「そんなキンチョーしないでいい」

 気づかれてた。

「ご、ごめんなさい」

 わ〜、どうしよ、余計に緊張が。そんな場合じゃないのに、自分でもどうしようもない人見知りがでてしまう。

「……ちょっとかがんで」

 そんなわたしの様子を見て、志保さんはぼんやりとした顔でこっちを見ながら口にする。

 ……お、怒らせちゃった? なっちゃんみたいにあんまり表情が変わらないタイプなのか、考えていることは顔からはわからない。

 けど、とにかく言うとおりに身体をかがませる。 

「もうちょっと」

 言われるままに志保さんのちいさな背丈にあわせげ、その胸くらいの場所まで頭をさげる。

 すると、わたしの頭にあたたかい感触がひろがる。

「だいじょうぶ。こわくない」

 志穂さんがわたしの頭を胸にだきよせて、まるで子供をあやすみたいになでてくれていた。

 ちいさいけど、あったかい手が優しくわたしの頭をなでてくれる。

 志穂さんの胸からつたわってくる体温も心地よいあたたかさで――お母さんもわたしが泣いちゃったりした時におなじようにしてくれたことを思いだした。

 さっきまでの緊張はいつの間にかとけてしまっていて。

「だいじょうぶになった?」

 身体をはなしたわたしに聞いてくる顔は、わたしよりも年下に見えるのにぜんぜんお姉さんなんだと感じた。

「……もう大丈夫。ありがとうございます」

 なんだか照れくさくて、顔が赤くなってるのがわかった。

 でも嫌じゃなくて、すごく、うれしかった。

「ん。それからケーゴじゃなくていい」

「うん……わかった」

 返事をすると、志穂さんはわたしの手をにぎってくる。

「よし。そらはすなおで良い子。そんなそらのために、おねーちゃんもがんばる」

 ふんすと鼻息を荒くする様子はやっぱり見た目どおり子供みたい。

 そして、志穂さんはわたしの両手をにぎって、

「そらはちょっとずつ『視える』ようになってる。でも『視える』をまってるだけじゃダメ。こっちからも『視』にいく」

 そう言いながら志穂さんは目をつむる。わたしもおなじように目をつむって、志穂さんの声に集中する。

「いきなりやるのはタイヘンだから、わたしがてつだう。わたしが『飛ばして』あげる」

 その瞬間、わたしの感覚が飛びあがる。

 今までみたいな全部の方向に感覚が広がっていくんじゃない。

 ある一つの方向にあつまるみたいに、わたしの感覚が宙に舞っていく。

「まずはゆー。これがゆーの感じ」

 ゆう。ツバメさんにボコボコにされてる。手も足もでなくてくやしいんだと思う。それでもあきらめようと思ってる感覚はなかった。

「こっちがゆーな」

 優奈もおなじみたいで、ツバメさんにかなわないのがくやしいんだ。けど、あきらめないって何度もむかっていくのは似たもの姉弟って感じがする。

「こっちはいいや」

 志穂さんはそう言って、ツバメさんは無視していく。あの人がどんな感じなのかちょっと気になったけど、今はとにかく目の前の感覚に集中する。

「ぜんぶ視ようってするとつかれちゃう。だから、視たいのだけおぼえて、さがせばいい」

 感覚がどんどん宙に浮いていく。

 そうして、志穂さんの力がなんなのかなんとなく理解できてくる。

「そらはいいセンス。ちゃんとわたしも視れてる」

 ちいさい男の子とちょっと年上の女の子。背丈はまだ女の子のほうがおおきくて、仲良く遊んでいる姉弟の姿――。

「でも、それはプライバシーのシンガイ」

 そう言われて、それ以上は視ることはできなかった。

「まずはおぼえる。そらが見つけたい人やものの感じ。おぼえて、それをぼんやりさがす。キンチョーしないでいい。ふかくもぐらなくてもいい。とおくからながめてるくらいでちょうどいい」

 宙にまうわたしの感覚がぼんやりと広がる景色をながめている。

 気の抜けた志穂さんの声がわたしの感覚からほどよく力をぬいてくれる。

「いた。今度はちょっとぞわってする。だから、とおくから視る」

 志穂さんの声と意識が、わたしの感覚をひっぱって一つの方向にむけさせる。

 ぞくりと、ちいさな寒気と全身がかゆくなるようなかすかな不快感。

 そこにはまだなにもない。けど、出てこようとしている。

 そのかすかだけど、はっきりとした感覚を忘れないようにする。

「よくできました」

 次の瞬間、わたしは元のわたしがいた屋上へともどってきていた。

 わたしの前にはがんばった子供をほめるように頭をなでてくる志穂さんがいた。がんばって身体をのばしているのがちょっとかわいい。

 それよりも――。

「ゆう!」

 すぐにすこしはなれた場所でしごかれているゆうにおおきく声をかけた。

 大の字に地面に倒れていたゆうが、何事かと顔をあげる。

「すぐ行かないと-! こいけがし-! しかも人が変わっちゃうのー!」

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