2-16 全力でやったらそりゃ痛い
結論だけを言えば、全力で引っぱたかれた。
コンビニを舞台にした怪獣対羽根付き大型リングの一戦がひとまず終わりを告げ、姉であるはずの人物に呼ばれた声に短い叱りの言葉をもらった後だ。
それまでしがみついていたそらが自分のほうへと無理矢理俺の身体を向かせ、全力の一撃をくれた。
「あんなの――! あんなのもう絶対にダメ! あんな、あんな、自分をボロボロにしちゃうようなこと絶対にしちゃダメ!」
涙が浮かんだ瞳はまっすぐに俺を映していて、俺の頬をはった手とその身体は小さく震えていた。
なれてないはずなのに、そんな力いっぱいに平手なんてしたら痛いはずだ。
……そうさせたのは俺だと、すぐに自覚する。
俺っていう人間は本当に単純すぎる。
あんな見え見えの挑発に頭に来て――周りが見えなくなるなんて。
「……ごめん」
「本当に……わかってる?」
浮かんだ涙もぬぐわずにそらが言葉を重ねてくる。
「……本当に、悪かった」
それしか言葉が出なかった。
「なら……許す」
ぐしぐしと涙をぬぐいながら言われる。
そして、今までの音を聞きつけたのか、ざわつく人の声が聞こえてきた。
「とりあえずいこ。姿かえて」
俺達の様子を黙って見ていた小さな姿が、言葉と同時に再び羽根付きリングに姿を変えた。
ぎゅっと両手を握られた感触に顔を戻すと、そらがまた俺を見ていた。
「相棒なんだから」
真剣な目と声で告げられる。
「ああ」
俺は短く返事をする。
同時に黒い『鬼』の姿と変わっていた。
それからは特に目立った事件もなく、ざわつく人々からは認識できない存在となった俺達は即座にその場を後にした。




