2-10 そんな顔、見たくなかった
息つく暇もないっていうのは、きっとこんな感じなんだ。
優奈と巫の人の戦いを見せられながら、わたしはただ眺めているだけしかできない。
正直なにがどうなっているのかわからない。
最近目や耳がよくなった気がするけど、そんなものでは追いつかない速度にわたしの理解は追いつかない。
本当は止めたいけど、優奈の顔はなにを言っても聞いてはくれなさそうで、ゆうは優奈が追いつめられそうになる度にぎゅっと手に力がこもっていた。
それでもなにも言わないのは、優奈のことをわかっているからなのかな?
特撮だと仲間同士のはずが争うなんてよくある展開だけど、実際に目の前にすると心臓をぎゅっとつかまれたようなイヤな感じが消えてくれない。
本気の本気で相手を倒そうとしている優奈と迎え撃つ巫の人を前に、わたしはなにもできない。
ゆうの心臓になって感覚をとどける以外になにもできないわたしには、二人の間にわってはいることもできない。
すこし、胸がざわつく。
結局はなにもできないと言われているみたいで。
知らず、手に力がこもっていた。
いつまで続くのかと思った戦いも終わりは呆気なく。
おろした髪のひとつひとつを鋭い刃物にした優奈。それが触れる寸前――巫の人は大きく後ろに飛んで避けていた。
素人のわたしでもわかるくらいに強いはずの優奈よりも、さらにもっと巫の人は強かった。
わたしとゆうなんて足元におよばないくらいに。
けれど、優奈はただやられるだけじゃなかった。
白い布が落ちていく。
それは巫の人の顔を隠していたもので、
「一矢は報いたな――隠塚」
疲れはてた――でもなにかやりとげたような笑みを浮かべている優奈の声が聞こえる。
ひらひらと舞っていた白い布が静かに地面に落ちる。
その布が隠していた顔は、わたしとまったく同じ、鏡にうつしたみたいなうりふたつ。
隠塚おき。わたしのクラスメイトがそこにいた。
「この場にて名乗らせて頂きます」
すこしも表情を変えないで、深く頭をさげながら発する声は場違いなくらいにきれいに響いていて。
「今代が隠塚の巫――おきと申します。本来であれば社にてお目見えいたしまするものをこのような場になってしまったこと、どうか御容赦を」
やっぱり……そうだったんだ。
ずっと感じていた。聞こえる声は違うはずなのに、ずっと知ってるなにかを感じていた。
きっとそうなんじゃないかと思っていたけど、そうじゃなかったら良いと思っていた。
だって、どんなに学校で会えなくても、ちょっと避けられてるみたいだったとしても。
「……私の誘いを断り続けるわけだ。そんな役目を負っているなら生徒会どころじゃない」
優奈がなにかを納得したみたいにつぶやいている。
「御役目は秘する事。お伝えできずにいた事、お許しください」
そんな――そんななにも感じていないみたいな冷たい顔見たくなかった。
「御二方も含め、お伺いいたします」
また優奈に頭を下げていたおきが顔をあげて、
「貴方様方に御覚悟は御有りか?」
ゆうも、優奈も、わたしもなにも言わない。
わたしは……布の下からようやく見れた瞳にともる底冷えするような冷たさに言葉がでなかった。
「答えは変わらない」
そんな目を前にしても、隣に立つゆうの声は変わらなかった。
「俺はやる」
「私もだ。伝えたとおり、この力、ゆうと戦うために使う」
優奈ももう疲れきっているはずなのに答える声は力強い。
わたしも――。
「わたしもおなじだよ!」
二人の声に勇気をもらってちゃんと答える。
わたし達の答えを聞いて、おきはなにも言わずに黙っている。
その表情はやっぱり変わらなくて、怒っているのか悲しんでいるのか、なにもわからない。
こんな時にもっと感じられたらいいのに……。
ついそう思ってしまう。
「皆様の御覚悟、しかと御受けいたしました」
不意におきが口をひらく。
「ツバメ」
誰かを呼ぶように口にした時、その人はもうそこにいた。
黒い改造作業着を着た姿――鬼脅になった優奈との戦いの時に助けてくれたクロツバメさんが音もなく現れていた。
「彼に従っていただけますよう。鬼を得たとは言えど、貴方様方は真に『鬼』となってはおりませぬ。故に彼と共に自らを祓い静める身と為すことをまずは御考えを」
一体どこに隠れていたのか、それともずっとそばにいて、わたし達が気づかなかった? だとしたら、やっぱりすごい達人だ。
「では此度はこれにて」
そう言って役目は終わったとおきはこっちに背をむける。
「あ――お、おき!」
思わず声をあげる。
けど、ふりかえったその目に見つめられて、わたしは一言も口にすることができなかった。
「あ、え、えと――」
そうしている間におきはなにも言わずにわたしから視線を外し、そのまま立ち去っていく。
「私も失礼いたします」
琴音さんも一礼をしておきの後を追っていった。
「連絡をする。それまで待て」
やっぱり無理に出してるような低い声でつげて、クロツバメさんも気づけば姿を消していた。
残されたのはわたし達三人だけ。
それまで聞こえてこなかった人の声が遠くから聞こえてくる。
「……とりあえず、帰るか」
ゆうの声が聞こえたけど、しばらく動くことができずにいた。
自分と同じ顔をうつすおきのなにも見せてくれない冷えきった瞳が、頭にこびりついてはなれてくれなかった。




