1-46 ……本当に勝手
「あ、いた」
誰もいない廊下を歩いていると、この数日で聞きなじんだ声がした。
振り返ると、そこには私と同じ鏡映しの顔がある。
「久遠寺さん、どうかしたの?」
「あ、えっと……話があるような、ないような」
こちらから声をかけるとなんとも曖昧な返事が返ってくる。モジモジと言おうか迷っている様子だった。
「わたし、がんばるから!」
しばらく言い出すのを待っていると、意を決したように前に身を乗り出してきた。
思わず目をしばたいてしまう。
「……えっと、違ったらごめんね。でも、言っておかなきゃって思って。わたし、ぜんぜん自信もできることもそんなにないけど、でもがんばってちゃんとやってみせるから。だから、だからね……見ていてほしい」
何を言いたいのか言葉になっていないのに、その瞳だけは真剣で、真っ直ぐに私を見ている。
その瞳に、その顔と同じ私が映っている。
同じはずなのに……まったく違う。
「そ、それでさ、今日もいっしょにお昼ご飯――」
「ごめんなさい。この後行かないといけなくて」
自分でも思いがけない嘘をついた。
その後の言葉も聞かず、私は彼女の前から逃げるように立ち去ってしまう。
こんな、避けるような真似をするつもりなんてなかった。
自分でも言葉にできない感情を、あの子にぶつけてしまった。
最後、ふりかえる直前の顔はさびしそうで。
……そんな顔をさせるはずじゃなかったのに。
「……本当に勝手」
あの子も、私も。
期待するわけにはいかない。
それはきっと私も、あの子達も蝕む毒になる。
たとえ蝕まれるのだとしたら、それは私一人で十分。
――それが私の役目なのだから。
誰もいない廊下には私の足音だけが響いていた。
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