1-45 どっちにもなれるんだろうなって
はやいもので、わたしが杜人市にやって来てもう四日目。
まだ四日目。もう四日目。
どっちにも思える。
なんだかいろいろありすぎて、短かったような長かったような、曖昧な感覚になる。
けど、時間が進んでいくのはたしかで、明日からは月が変わって十月になる。
残っていた夏の暑さもなくなってきて、朝起きると少し肌寒く感じる気もする。けれど、日が昇るとまだそれなりに暑さを感じるそんな曖昧な季節。
今のわたしとおんなじ感じ。
ヒーローみたいな力を手に入れたけど、普段のわたしは前と変わらない運動も勉強も苦手な高校生で。
どっちが本当のわたしなんだろう、みたいなことを考えてしまう。
どっちでもない気もする。
でも、どっちにもなれるんだろうなって。ゆうを見ていて、なんとなく思った。
けど、今はとにかく、
「……またすぐテスト〜」
……わたし、この前受けたばっかりな気がするよ。
せまり来る中間試験にわたしの心は真っ暗だ。
「あ〜、そらって編入試験があったんだっけ?」
机につっぷすわたしをゆきが見下ろしている。なぜだか、その目は同情しているみたいな感じだ。
「同情するなら点おくれ〜」
「なにそれ?」
嘆くわたしの声にゆきは笑う。
「それよりさそれよりさ」
わたしの嘆きなんてどこ吹く風。ゆきは空いている前の席に腰かけて、ずいっと顔をよせてくる。
「昨日の非常ベル騒ぎ。なんか突然、窓ガラスがわれたらしいんだってさ」
ひそひそと話すゆきの顔は楽しそうで、その目はどこかキラキラと輝いている。
ゆきって実は陸上部じゃなくてオカルト研究部なのでは?
これって絶対なにかあるって! そんな感じでグイグイ来るゆきに押され気味になってしまう。
ゆきって、ドログロシリーズとか好きそう〜。
あの知る人ぞ知る特撮ホラー映画を思い出す。主人公であるドログロがそのヘドロの体でどんどん人々を飲みこんでいくっていう内容だ。
……ちっちゃい時に見て、トラウマ。しばらくお母さんにいっしょにトイレまで来てもらったのは良い思い出です。
「ドログロ?」
……あ。声に出てた。
ゆきがキョトンとした顔で見ている。
あ、やばい。どうしよう、正直に言う?
イヤな思い出が頭の中でよみがえる。
大丈夫。きっと大丈夫。変な嘘なんてつかなくていいんだ。
「知ってるの⁉︎」
けど、ゆきはわたしが口を開く前に驚くようにさらに体ごと机越しにせまってきた。
思わずといった感じでのけぞってしまう。
「う、うん……知ってる」
予想外の反応にビックリだった。
あれ? 知ってる?
「なになに? どこまで見た?」
「え、っと……ぜんぶ」
「マジ⁉︎」
やるなぁ……とまるで汗をぬぐうような仕草でわたしを見るゆき。
「……もしかして、ゆきって特撮好き?」
勇気をふりしぼって聞いてみる。
「あ〜……あたしはそっちじゃないんだ」
けど、その答えは否定だった。
「あたしはホラーとかオカルト系かな〜。ロマンだよね。そらは特撮好きなん? どんなん好きなの、教えて教えて」
興味津々といった様子でゆきは食いついてくる。
パチパチと目をしばたかせて、なんだかうれしくて顔がにやけてしまう。なんか……ホッとした。
それから、ひとしきり好きな映画とかの話をして、今度いっしょに上映会! ということになった。
怖がることなんて最初からなかった。
それから、ちょっと勇気をだしてみて、
「あ、あの⁉︎」
近くにいたクラスメイトの女の子に声をかけてみる。
ちょっと声ひっくりかえっちゃった。
「い、いっしょに、ご飯どう……かな? ですか?」
ゆきはちょっと笑いをこらえている。
あ〜! 笑うな〜!
声をかけた子もすこしの間、ビックリしたような顔をしていたけど、小さく笑ってからうなずいてくれた。




