1-44 やっと帰ってこれた
「勇悟、だね」
名前を呼ばれたことが意外だった。
まだ眠ったままの優姉を抱きかかえながら、俺は言葉が出なかった。
さすがにボロボロになった制服のままで会うわけにもいかないので着替え済み。
今になって思うが、姿を変えて元に戻るとちゃんと服もそのまま。それか受けたダメージそのままにボロボロになっているかで、不思議だ。
ボロボロになってるのは今のところ俺だけだが、そらが同じになってもそれはそれで困るので深くは考えないでおく。
目の前にいるのは皇の叔父さん。
幼い頃の姿ならともかく、今の俺を見て諏訪勇悟であるとわからないはずの人が俺の名前を口にしていた。
嬉しいはずなのに、心の中にわずかな警戒心がともる。……そんなはず、ないのに。
「安心しろ。この人は関わりない」
後ろから小さく母親のつぶやきが聞こえた。
少し振りかえると、まるで追いはらうように手を前後にふっている。早く行けということらしい。
「……叔父さん」
「不思議だな……いつも病院で見ていたはずなのに、久しぶりと感じるなんて」
その言葉にまたチラリと母親に視線を送ってしまう。
気にするなとばかりに手を雑にふっている。
……信用していいものか。
隣にいるそらにも目をやると、そらも首を縦にふっていた。
視線をもどすと、叔父さんは俺をちゃんと見ていて、その目は俺のよく知る穏やかで思慮深い瞳だった。
それが、少し濡れているように見えたのは気のせいじゃない。
「ひさし、ぶりです」
これがもし嘘でも、俺はかまわないと感じた。
俺は、俺の家族を疑ったりしたくない。
「そうだね、本当に久しぶりだ。それから――お帰り。よく帰ってきたね」
目がうるみそうだった。けど、なんとかこらえて、俺は笑った。
こんな時には泣くよりも、そっちの方が多分良い。
「ただいま、叔父さん」
けど、多分その時の俺の顔は泣き笑いみたいになっていたんじゃないかな。
目が覚めて三日。
俺はやっと自分の家に帰ってこれた。




