1-43 何故止めたの?
「俺はあの二人に力を貸す」
二人が連れて行かれた後、訪れた私に彼は今までと同じく短く告げた。
「……元々、そう伝えるつもりだったわ」
「なら問題ない」
その返答も短く端的だった。
「何故、あの時止めたの?」
私がこの場にたどり着いた時、彼はその身を貫かれ、下手をすれば二人共々命を失っていたかもしれない。
だというのに即座に動こうとした私を目前の黒装束は制した。気配のみを飛ばし、手を出すな、と。
「あそこで倒れるならそこまで。立ち上がるなら共に並ぶ。そう考えただけだ」
返答は変わらず端的。そんな言葉、答えになっていない。
どうしてあの二人を危険にさらしたのかを聞いているのに。
貴方であれば、彼があそこまで傷つくことなく場をおさめられたはず。
昂ぶる胸の内を抑える。たとえそれを口にしたところで目の前の彼は答えを変えない。
それがわかっているからこそ、怒りにも似たこのざわつきはおさまらない。
「お前はどうする?」
そうして今度は問い返される。
「役目を果たすのみよ」
返された問いへの答えは決まりきっていた。
そうか、と変わらず短い言葉に、
「だが、一人で負うには限界がある」
思いがけない続きを口にされた。
その言葉に私は返さない。
「それもお前が決めることか」
そう言って、彼は姿を消す。
一人残され、私は知らず、唇をかんでいた。
胸の奥にあるざわつきは消えてはくれない。
それは先程の怒りとは違い、べったりと私の全身にこびりついていた。




