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1-31 まさかもしかして人ってこと?

「遅い!」

 変身、そして最初の一言目は感謝の言葉でもなくて言われのない怒鳴り声だった。

『こっちも必死でさがしてたんだよ!』

 感覚の中で言い返すわたし。食堂で鬼脅の気配を感じて、しかもそれが近く——この学校の中にいるとわかって、わたしはすぐに食堂から飛び出した。

 ゆきとおきにはうまく説明もできずに出てきてしまって後でなんてフォローすれば良いだろう?

 そうして感じるぞくぞくするような嫌な感じを探すも、それはどうにも動いていて、しかもすごい速さで場所を変えていた。

 だから、中々追いつくこともできず、元々の運動不足もあって、たどり着いた時には死んでしまいそうなほど息があがっていた。

 そこで知らない女の子に腕をつかまれてどうしようか迷ったけれど、目の前のゆうの姿にすぐに決心して腕をのばした。


 

 我ら汝ら鎮める鬼よ。こひ——けがれの一切合切、祓い清めるべし。



 またあの声が聞こえて、ゆうとわたしは真っ黒なヒーローの姿に変身していた。

 あんなに距離があったのに、一瞬だった。

 改めて、まるでわたしは球体のような姿に変わって、ゆうの開かれた胸の中、心臓の位置におさまっているとわかる。

 開かれたゆうの胸には本来あるはずの心臓は見えず、ぽっかりと開いた空洞の中に元からそこにあったかようにわたしが吸い込まれて、姿を変えていった。

 『鎮鬼』。

 聞かされた名前で呼ばれる姿に、なんの迷いもなく今日はなることができた。なんとなく成り方がわかった気がしている。

 ゆうの力になる! 

 そう強く願うと、そうなれるのだとわたしの根っこの部分で理解できていた。

 だっていうのに、がんばって助けに来た相棒への最初の言葉が『遅い』ってひどくない⁉︎

 助かったって思ってるよ。感覚の中でぜんぜん感謝してるようには思えない言葉が聞こえたけど、たしかに感謝も感じることができたので今回は許してあげよう。

「とにかく今はこいつだ」

 ゆうの言葉にわたしもすでに感じとっている鬼脅に集中する。

 それは今までの形のわからないものでなく、はっきりとしたひとつの姿になっていた。

 まるで大きな鳥のよう。けれど、わたしの知る限り、あんなに鋭くて大きなツノをもった鳥は知らない。ついでに大きさからいえば鳥というより図鑑にのってたりする翼竜に近い感じがする。

 言葉にできない鳴き声が聴覚を震わせる。

 こんなにも大きな音をだしているのに、周りの窓ガラスとかがまったく震えたりしていないのが不思議だった。

 たぶん、これが普通では感じ取れないということなんだとわかった。

「とにかく勢いをつけられたらまずい。一気にやるぞ!」

 意気込むゆうだけど、わたしは目の前の鬼脅から感じる他のなにかが気になっていた。

『ゆう待って! なんか、前とちがうよ』

「見りゃわかる! 前はこんなにはっきり形になってなかった」

 そうじゃなくて!

 うまく言葉にできないけれど、目の前の鬼脅は前の二体とはなにかが違う。

 なに?

 それがわからずに前と同じように倒してしまってはいけない気がする。

 考えているうちに大きく翼のような部分をひろげて、舞い上がり、一気にわたし達へと急降下してくる。

 速い! けど、すでにとらえた動きに身体となったゆうはすぐに反応して、身をかわす。

 そして、かわしざまに渾身のパンチ!

 

 ——た——いよ。


 え?

 今、なにか……。

 翼の一部をくだかれて、大きく鳴く鬼脅。

 それを好機とゆうは一気に決着をつけようと地面をける。

『だめ‼︎』

 それをわたしの声が制止する。

 自分でも思わず出てしまった声だった。

 驚いたようにゆうがつけた勢いをころそうと地面を足でこする。

 けれど、その生まれてしまったスキに鬼脅は広げた翼をおおきくなぎはらってきた。

「あぶ、ねぇ!」

 間一髪、ゆうがそれを飛び上がるようにかわす。

『いきなりなんだよ⁉︎』

 ゆうの責めるような声が感覚に響く。

『聞こえなかった? 今、なにか、あの鬼脅から……』

 わたしの言葉にゆうはわけがわらからないみたいだ。

 気のせい?

 

 ——わ——よ——や——た——けて——。


 また。

 気のせいじゃない。

 なにかわたしの感覚に伝わってくる。

 ぼんやりとして、はっきりと感じ取れないからわたしからゆうに伝わっていないのかも。

『聞こえる! 人の声みたいな……これ……す、けて。助けて?』

「助けて? なんであいつがこっちに助けなんて求める?」

 ゆうの戸惑いは当然だと思う。わたしだって、ただの怪物としか思ってなかった相手から声が——しかも助けてなんて聞こえてくるなんて。

 でも、わたしの知ってる特撮ドラマとからなら、よくある。

 でも、そんなまさか。

 そんな本当にドラマみたいな展開があって良いの?

 しかも、わたしが思った通りなら、この後どうすれば良いのかまったくわからない。

『ゆう、もっと近づいてみて。そしたら、もっとはっきりわかるかも』

 わたしのお願いにゆうは迷ったようにも思えて、けれどすぐにその通り目の前の鬼脅に近づいていく。


 ——こ? こ——い。い——だ、たす——て。

 

 ぼんやりとしていた声がだんだんとはっきりしてくる。

 

 ——こ? わたし、どこにいるの? こわい、まっくら。こわいよ。たすけて。やだ、わたしがわたしじゃなくなる。やだやだやだ。こわいこわいこわいこわいこわい。

 

 形のない今のわたしの聴覚にはっきりと聴きとれた。

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