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1-27 いきなり来られたら誰だって逃げる

 とにもかくにも学生となった俺は午前の授業を——自分でも不思議だが特に問題もなく、つつがなく終えることができた。

 夢の中だったはずなのに、俺はその中で受けていた授業の内容をちゃんと知識として覚えている。

 考えてみると十年前から寝ていたなら、俺の頭の中は小学一、二年生と同じはずとうことだ。

 だというのに、今のところ授業内容でつまずくところもなし。相変わらず、理系科目は苦手だが、それは夢の中と同じ。

 なんというか、よくわからなくなる。

 皆は俺を知らないのに、俺は皆を知っている。

 実は今いる俺は別の世界から迷いこんだ俺みたいなことを言われても信じてしまう気さえした。

 ……鬼脅に襲われたっていうのが原因なのか?

 考えてもわからない。なので、ひとまずこのことは保留しておくことにする。

 とりあえずはむかえた昼休み、メシをどうするかが直近の問題だ。

 特段、変わったところもない男の転校生に寄ってくるような人間はおらず、今日は一人メシかと考えていたが、ありがたいことに淳宣が声をかけてきてくれた。

 俺のことは覚えていなくても、その性格は変わらないらしい淳宣は食堂に俺を誘いつつ、道すがらあれやこれやと質問攻めにしてくる。

 気になることにはとりあえずつっこんで、すぐに飽きる。それが俺の知る淳宣という人間で、人付き合いに関してはその人懐っこい調子もあってか悪くないタイプだ。

 多少、やりすぎる時があるのは……まぁ、今はなにも言わないでおく。

 さて、淳宣には杜人にはずっといたが、わけあって休学していて今日から復学したと説明した。

 ぼかした俺の言い方になにかを察したのか、深くは追求されることはなかった。こういったところもなんだかんだこいつが憎まれない一因なんだろう。

「ここの食堂はけっこううまいんだぜ。大学側のも良いけど、こっちの定食だっていけるぞ!」

 今日はたしかフライの盛り合わせだな! と見知った食堂自慢を聞かせてくれる。

 俺も知ってるけど、なんだろな、何度も食べた記憶はあるのに実際に口にするのは今日が初めて。自分でも自分の状態がややこしい。

 そうして、これからの学生生活に特に不安要素も見られず、例の怪物が現れたみたいな連絡もなにもない。初めてだけど初めてじゃない食堂の定食に少しばかり期待をはせていた。

 そこで出会ってしまった。

 別に忘れていたわけじゃない。同じ校舎の中にいるんだ。

 いずれは顔をあわせてしまうこともあるだろうとは覚悟はしていた。

 けど、言い訳にしかならないが、今はその覚悟を完全にポイ捨てしていたわけであり。

 つまりは完全な不意打ちだった。


 目があった。

 次に目を見張られ、そして、それが一気につりあがる。


「……やべ」

 俺は一瞬、迷ったものの即座に身をひるがえす。

 そして、足早に歩き始める。

「——おい、どこ行くんだよ? 食堂行かないのか?」

「悪い! 用事思い出した!」

 淳宣のひきとめる声にふりかえらず、返事だけを返す。

 今、立ち止まってはいけない。なにせ後ろから明らかに追ってくる気配がびんびんと感じる。

 しかも、けっこう速い。

 そうだよ、あの人、体格の割にめっちゃ足速かったよ。

 自然、進める足が速くなる。

 しかし、それにあわせて後ろの追い手も速度を合わせてくる。

 先日の一件で二度と顔を合わせるなといわれて、これだ。今、つかまればどうなるかわからない。

 そもそも、どう対応していいか俺にもわからない。

 今朝方決めた現実での覚悟なんてすでに全力スイングで投げ捨ててしまった俺だった。

 ……情けない。情けないが、今は許してほしい。

 そして、気付けば早足での逃走は徐々に走りに変わっていた。

「! 校内で走るな!」

 背後からせまる追跡者の怒鳴り声が響く。相変わらず、よくあんなでかい声が出せる。

 思わず、身がすくみそうになるが、とにかく近くの扉から外にでる。

 中がダメなら外へ行く!

 そして、一気に離そうと全力でかける。人にぶつかるのをさけるため、そして入り組んだ道で見失わせるため、校舎の裏をぬうようにして進む。

 しかし、そんな俺の目論見など関係ないと言わんばかりに、追跡する気配は一向に遠ざかる様子はない。

 やばい。マジだ。あの人、マジで俺を追い詰めるつもりだ。

 さすがに息があがりはじめる。

 『鎮鬼』なんていう力を持っているらしい俺だが、正直さして普通と変わりはないように思える。

 あるとしたら確かに頑丈さと怪我の治りは良いように思えるが、他の身体能力はいたって普通な人間の範疇でしかない。

 多分、俺が特殊な力をふるうにはそらの存在が必須なんだろう。そらが言っていた二人で一つというのはあながち間違いではない。

 ——ともかく今はそんなことは良い。

 どこまで走ったのか、全力で走りすぎて自分でも今どのあたりにいるのかわからない。

 そうして、ついに根をあげた俺の体力に足が止まる。膝に手をつき、あがりきった息を整えようと肺が上下する。

「……や、やっと……つか、まえたぞ」

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