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1-26 寒気がしたのはこわいからじゃない

 都市伝説? まだ来て三日しかたっていないし、街の噂みたいなのはぜんぜん知らない。

「知らない? じゃあ教えてしんぜよう」

 芝居がかった調子で話はじめたゆきの話は、簡単にいえば、わたしがもう聞かされたものとほぼ同じだった。


 この杜人では時折、誰かがいなくなる。

 しかも、誰もそのいなくなった人間のことを覚えていない。

 だから、誰もいなくなったと気づかないし、気付けない。

 ならどうしていなくなったと知ってるいるのか。

 ふと気づいてしまうのだ。

 わたしの母親は誰? 父親は? おじいちゃんは? おばあちゃんは? 友達は? おにいちゃんは? おねえちゃんは?

 いるはずの人間なのになにもわからない。思い出せない。

 たしかに一緒に暮らしていたり、会っていたり、その痕跡は残っているのに。 


 そんな体験談らしい話が噂となって、杜人市には広まっているらしい。

 それはきっと——わたしが二度出くわした、悠子さんから聞かされた、あの怪物のせい。

 ゆきが言うには、ネットの掲示板とかSNSで一時話題になったんだとか。

 自分の両親がいなくなった。けど、両親がどんな名前でどんな顔だったか、なにもわからない。

 そんな奇妙な行方不明事件。事の発端はこの杜人市に住む中学生か高校生からの通報らしい。

 結局、その話は真相はわからずじまいで終わっているけれど、いわゆるオカルトとか都市伝説マニアの間はでは有名だったりするのだとか。

「こいけがし」

 思いがけない言葉を耳にして、驚いてそれを口にしたおきの顔を見る。

「この杜人に古くから伝わる昔話よ。今の話はたぶんそれが形を変えて、人から人へ伝わっていったんじゃないかしら」

 そして、おきもその昔話を教えてくれた。それは悠子さんから聞かされた話と同じ内容のものだった。

「え〜、あたし知らないよ」

「昔話といっても、童謡みたいなものではなくて古い文献に記されたものみたい。一般にはまったく知られていないと思うわ」

「それを知ってるおきは何者って話?」

「一応、昔からこの杜人にある家の人間ではあるから、子供の頃に聞かされたりしたのよ。それに一般には知られていないといっても昔からこの土地に住んでいる人はたぶん知っていたりするんじゃないかしら。それこそ悪さをしないように子供に語り聞かせるお話みたいに。私が知ってるのもそんな感じよ」

「でもさ〜実際に通報があったって書いてあったし」

「それはどこで知ったの?」

「ツブヤイター」

「根拠が何ひとつないわね」

 え〜そんなことないし〜、と不満げなゆき。ちなみにツブヤイターは投稿型のSNSで私も配信情報とかのチェックに使っている。

 けど、わたしはおきの話を聞きながら、別のことが頭をよぎっていた。

 悠子さんから聞いた巫という人。

 昔からこの杜人でみんなを守ってきた人だった言ってた。

 なら、きっと同じように昔からこの場所に住んでいて、しかも大きな所だっていうおきの家はその巫っていう人となにか関係があるのかもしれない。

 もしかしたら隠塚っていう名前の人達がその本人かもしれない。

 もっと考えれば、目の前のおきだって——。

 いやいや、それはさすがに考えすぎかも。そうだったら、すごい熱い展開かもとは思ったけどさすがにないかも。

 ん〜、自分の特撮ヒーローの定番展開へのアンテナはどうにもならないけど、自重はしないとな〜。なにせこっちは人の命もかかってる。ちゃんとしなきゃ。

 ぱちぱちと自分の顔を軽くたたく。

「どしたの? あ、こういう系苦手だった?」

 突然のわたしの行動にゆきがちょっとおどろきながらあやまってくる。

 しまった、今のはいきなりすぎたよね。……反省。

 なんでもない大丈夫、と苦笑いするわたし。

「ごめんなさい。雪路が調子にのって変な話をしちゃって」

 おきもそう言ってくれる。

 うん、さっきのはわたしの考えすぎ。


 そう思おうとした時、あのぞくりとする寒気がまたわたしを襲った。

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