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1-15 いや、なにもないのかよ⁉︎

 そうして連れてこられたのは駅前のモールだった。

 久遠寺・兄には見送りに行ってくるとつげ、そらも一緒だ。

 母親の車に乗せられ見えた街中は今日が土曜日ということもあってか、九月の末の夏の暑さも去りつつある季節に歩く人並みは多いように思えた。

 モール内に入り、気づいた。

「……なにもない?」

 正確にはなにも起きていない、か。

 昨日あれだけの轟音をひびかせながら、巨体の触手で揺らされていたモール内だが今目の前に広がるのは変わらず綺麗に整えられたものだ。

 思えば気にかける余裕もなかったせいか、なにも考えていなかったがあれだけ暴れられたらモール内はめちゃくちゃでニュースやSNSで騒がれていてもおかしくないはずだ。

 だというのに、モール内はなにも起きてなどいなかったかのようにいつもと変わらない。

 そらも俺と同じなのか、あたりをきょろきょろとしながら驚いた様子を見せている。

 そんな俺達をおもしろそうにながめ、母親は再び俺達を車に押し込んだ。

「……で、どこに向かってるんだ?」

 さっきから詳しい話はなく、ただ車に揺られるだけの状態に思わず声に棘がでてしまう。

「まぁ、焦るな焦るな。せっかくの休みなんだからゆっくり行こう」

 対する母親は気にする風もなく、ハンドルを握っている。

 手応えのない反応につい苛立ってしまう。

「まあまあ……えっと……手、にぎる?」

 俺の様子に苦笑いを浮かべるそらが俺の手に自分のを伸ばそうとする。

「……大丈夫だよ」

 すっとそこから自分の手をひく。……あんまり人前で握られてばかりなのも、なんというか、困る。

「お、照れてるな。はは、ウブだねぇ」

「照れてねぇよ!」

 これだと照れてるって言ってるようなもんだ。思わず反応してしまった自分の頭をかく。

 俺の様子にそらも変わらず苦笑気味だ。

「お前……案外落ち着いてるな」

「わたし? ……ん〜、そうでもないよ。わけわかんなくて、頭がこんがらがってるもん。けど……」

「けど?」

「なんていうか……考えてもしょうがないかなって。わけわかんないなら、もうそのままなるようになれ〜! って感じかな」

 なるほど? わかるようなわからないような、けど確かに今はイライラしていてもしょうがない。

「それになんか、ゆうが危なっかしくてそれどころじゃないっていうか」

 はあ? それはお前のほうだろ。

「それはお前のほうだろ」

 あ、つい口にも出してしまった。

「わたしのどこが危なっしいのさ〜⁉︎」

「いきなり目の前で大泣きしたり、テンション上がって叫んだり?」

「あ……あれは、しょうがないの。テンション上がるのは熱い想いを抑えられないっていうか、泣いたのは……」

 そこで照れくさそうに黙ってしまう。

 ……ちょっと意地が悪い言い方だったか。

「仲がいいな、本当に。昨日会ったばかりとは思えないね」

 俺達の会話を聞いていた母親が楽しげに口を開く。

「うるせえ。で、どこまで行くんだよ? さっきから街の中を走ってばっかだ」

「短気は損気だぞ。——ほら、着いた」

 そういって車が入ったのは街の一角にあるコンビニだった。

 手慣れた様子で車をとめ、母親は降りていく。

 その後を俺とそらも追うが、……なんでコンビニなんかに?

 ここになにかがあるっていうのか?

「………もしかして、秘密アジト?」

 一瞬目を輝かせてそらがつぶやいていたが、結果、そこは秘密アジトでもなんでもなかった。

 その後について行った俺達に、

「なに飲む?」

 と陳列された飲料の前で聞いてきた母親は俺とそらの分と一緒に自分のコーヒーをレジで精算した。

 そして、店を出て、とめた車の上に腕をもたれながらコーヒーの紙コップを口につける。

 つられて俺はお茶、そらは桃風味のミネラルウォーターを一緒に喉に流し込む。

 はぁ〜、と3人のそろった息が出る。

「いや、なにもないのかよ⁉︎」

 思わずつっこんでしまった。

 あまりに自然に入って出たもんだから、俺もつられてしまった。

「お前……良いツッコミだな」

 母親の関心したような言葉が、なんか恥ずかしい。

「わたし、ずっこけた方が良いのかな?」

 こけんでいい。

 ははは、と笑う母親。……なんなんだ、一体。

「いや、悪い悪い。ちゃんと昨日の続きを話すつもりだったさ。だけど、その前に久しぶりの息子との時間だ。少しくらい、良いだろう?」

 薄く笑いかけられ、俺は言葉がすぐには出なかった。

 ……その言い方はずるいだろ。

 俺の様子がおもしろいのか、また母親は笑う。

「ゆう、照れて——」

 そらも俺の様子をからかおうとして、


 突然、顔を真っ青にして、自分の身体を抱きしめた。

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