1-12 ちょっとした昔話。嫌な顔せず聞いてくれ。
ちょっとした昔話をしよう。
大事な話だ。そんな顔をしないでおくれよ。
この杜人という土地の成り立ちを知っているかい?
ここは元々、古くからの住人と外からやってきた人間とが集まってできた集落らしい。
はじめはほんの小さな村でしかなかったが、方々から人が集まって、気づけば一大集落になっていたのだとか。
それで人々がこんな田舎の土地にやって来ていたのには理由があった。
平安時代の後期、武士階級が生まれるくらいの頃合いか。
争いに巻き込まれ土地を失った人々が食べるものも住む場所も失い、途方にくれる中である噂を聞いたのだとか。
この山を超えた先にとある村落がある。
そこは古くから住まう人々がおり、そこには戦の火もとどかず、皆が平穏に暮らしていると。
そして、話を聞いた皆はその土地を目指した。
そうしてたどり着いたそこは確かに聞いたとおり、食料に困る者はなく、皆が平穏に暮らす場所だった。
けれど、その土地にたどり着き、暮らしていく内に人々は知ったのさ。
そこには恐ろしい物の怪がいて、またそれを祓い鎮める存在がいることを。
曰く、かの妖、穢れを運びて人を喰らうものなり。
曰く、喰らわれたもの、悉く消え失せ、覚ゆる者ただの一つもなし。
曰く、かの妖、尋常にて見ること触れること叶わず。
曰く、然れどかの巫、消え失せし者忘るることなし。
曰く、かの者、かの妖悉く祓い鎮める者なり。
曰く、然れどその姿、尋常にて知ること叶わず。
げに恐ろしきは知れぬことなり。
故にこいしけがれと呼ぶ他なし。
げに恐ろしきや、こいけがし。
げに慈悲深きは巫なり。
その身にて穢れを受け、鬼となりて祓い鎮めん。
しかし、我ら尋常にてその姿知ること叶わず。
かくも慈悲深きものよ。
かくも悲しきものよ。
かくも恐ろしきものよ。
我ら鬼の塚にてかの者達を偲ばん。




