EP9.禁断の果実
…この世界にやってきて三週間が経った。
なんとかちらほらと黒き霧にまつわる情報が集まりつつある。
そして今日は涼海と結衣乃は服なんかを買いに行っていて、手持ち無沙汰だ。
自室でのんびりと魔法陣に入れて持ってきた漫画を読んでいると、誰かが部屋の扉をノックする。
「はーい」
返事をしながら扉を開けると、そこには肩まで届く金髪と、緑色の瞳の可愛らしい女の子が立っていた。確かこの子って…。
「王様の城にいた子か?」
「はい。城で使用人をしているセルラと申します。勇者様達にお渡ししたいものがありまして、王様に頼まれて持ってきました!」
元気な子だな。にしても渡したい物ってお宝とか?ちょっと気になるな…。
「それはご苦労さん。後の二人は出かけてるからさ、用なら俺が聞くよ」
「はい!実はこれを勇者様にお渡ししたくて!」
そう言って彼女は手提げ鞄から木箱を取り出す。
「これは?」
「開けてみてください!」
「?分かった…ってうわっ!なんだこれ!?」
セルラに言われるままに木箱を開けると、中からは金ピカに光っている林檎のような物が出てくる。
セルラはこちらを真っ直ぐ見て説明を始める。
「こちらは1000年に一度、王の城にある聖なる神樹になる伝説の果物。その名も禁断の果実です」
禁断の果実!?ゲームとか小説とかで出てくることはあるけど…これがあの禁断の果実だってのか?
「い、所謂知恵の実とかって言われるやつか?」
ちょっと震える手で禁断の果実を指差しながら聞くと、セルラはニッコリと頷く。
「良くご存知ですね!流石勇者様です!」
「いや、別に大した事じゃ…。っていうかこれを持ってきてどうするの?」
質問しつつ、味見してみようと禁断の果実を一口だけ齧ろうととすると、セルラが慌てて止める。
「お、お待ちください!禁断の果実は食べる事で凄まじい力を発揮し、食べた者を超強化する効果はありますが、その効果は強力すぎる為、耐性の無い人間だと自らの力の急上昇に耐えられず、そのまま消滅してしまいます!」
その話を聞き、慌てて禁断の果実を顔から離す。…まだ食べてなくてよかった〜。消滅なんて御免だね。
「あ、危なかった…」
「すみません。私がもっと早く言ってれば…」
「いやいや…俺が悪いんだし、そんな気にしなくても良いよ?…まぁ使うかは分からないけど有り難く貰っておくよ」
嘘だ。この話を聞いて俺の頭に一つの仮説が生まれた。
そして俺は、多分こいつを食べることになる。
そしてセルラが帰って二時間ほど後に涼海達が帰ってくる。
「ただいま」
「たっだいま〜!剣義ぃ〜一人でお留守番寂しくなかった〜?」
「うわウゼエ!」
帰ってきた途端に酔っ払いの如き鬱陶しさで絡んでくる結衣乃に対し、顔を顰めてそう言うと、ケラケラと笑いながら「夕飯食べに行こ?」と誘ってくる。
「良い店でも見つかったのか?」
「うん、とっておきの店」
「まぁ、涼海までそう言うならそうか。行こうぜ」
「だね!あ、あと黒き霧について有力な情報を手に入れたよ!」
「お、マジで!?」
「でもまぁまずはご飯食べてからにしよ!」
「そうね、群星君、行こ?」
いつになくテンションの高い二人に連れられてやって来た店の料理は確かに美味かった。
何といってもこの唐揚げが美味い。いや、異世界だから実際には唐揚げでは無いと思うが・・・。
他にはソースカツ丼のような物やビーフシチューのような物もある。特にビーフシチューは独特なスパイスを使ってるらしく、ちょっと嗅いだことの無いような匂いだが、何とも食欲をそそらせる良い匂い…。もう腹一杯で食えないのが残念だ。
にしても色々あるなあ、俺達の世界で言うところの定食屋みたいなところなのだろう。
全員食事を終え、宿屋に戻る。そして、情報共有の時間。涼海の部屋に集まり、話を始める。
まずこの三週間で集まった情報の整理をする。
一つ目、事件の被害者は若い女性にかぎられていて、例外は見受けられなかった。という事。
二つ目、襲われた人の中には殺されてしまった人も居れば生き残っている人も居て、生き残った人は殆どが無傷。
三つ目、事件が起こるのは決まって新月の日。
この三つが事件にまつわる情報として集まった物だ。
「…で、新しい情報って?」
「うん、襲われた人の新しい共通点が見つかったのよ」
「共通点?」
「そう。襲われて、生き残った人の証言によると、さっき私達が食事をしたあのお店。あそこで食べた後に襲われてるの」
「!まさか…今日って!」
「そう、新月の日なの。って訳で、そろそろ行こっか!
因みに王様には今夜決行って伝えておいたから」
「準備良いな」
「勿論。ただ買い物してたんじゃ無いのよ」
「さっ!行くよ〜!黒き霧討伐作戦!開始〜!」
かくして、黒き霧との戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
…何か引っ掛かるのは、俺の気の所為かなぁ…。