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無限回廊と幼馴染  作者: 名梨野公星
第四章:決意の冬
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EP81.先輩後輩のバレンタイン


「あー…遂に当日か……」


 群星に相談を持ち掛けてから早くも一週間が経った。そして結局複雑な心境を抱えたままこうしてバレンタインを迎えたと言うわけだ。


 因みに今の心境としては不安6の期待4と言ったところだ。聞いた話じゃ今日群星と月見さんはデートに行ってるらしいし、俺も負けてられねえのは分かってんだけどな。一歩、また一歩と歩きながら俺は、ふと一週間前の前の会話を思い出す。


『お前は、姉貴のことが好きなのか?』


 あの時の群星の言葉は予想外だった。けれど、あいつがそんなことを態々聞いて来たあたり、それだけあいつが俺とハル先輩の関係について気を揉んでいるってことで、それはつまり俺達のことをそれくらいには大切に思ってくれている証なのだろうと思えて嬉しかった。

 さて、俺の親友からの質問の答えを思うその前に、俺とハル先輩が初めて出会った時のことを思い出す。


 入学して間もない頃、部活紹介の日に何枚かの写真をスライドで見せるだけの簡素な発表をしたハル先輩を見て、その写真に強く心惹かれたんだ。そしてその日の放課後、俺は早速写真部を部室を訪れた。


『あの、写真部ってここですよね?』


『ええ。もしかして、入部希望者ですか?』


『いや、まだ部活どこに入ろうか考えてるところで…それで見学して欲しいと思いまして』


 少し寂れた写真部の部室で佇むハル先輩はやけに綺麗に見えて、ドキッとしたのを覚えている。そしてハル先輩は俺の言葉を聞くと嬉しそうに笑いながら了承する。


『そういうことね。どーぞどーぞ!是非見てってよ』


『ありがとうございます』


『あ、そう言えばまだ名乗ってなかったよね。私は二年の朝日春瑠乃。君は?』


『俺は速野貴斗です』


『貴斗君ね!見れるものは写真くらいしかないけど…遠慮しないで見てってね!』


 そう言ってハル先輩は自分の撮った写真を取り出してくる。それを見ていると、何だか暖かい気持ちになるのを感じて、少し不思議だった。


 結局他に入りたい部活もなかったこともあり、俺は写真部に俺は入部して、ハル先輩との関わりも増えていった。


 俺は単に「先輩」と呼んでいたが、次第に「ハル先輩」へと呼び方が変わっていった。ハル先輩と話していると、ハル先輩の写真を見ている時と同じくらい、いや…それ以上に暖かい気持ちで胸が満たされていくことに気付いたのは、入部してすぐの時だった。


 そんなこんなで二人で過ごして来たこの二年間は、俺にとっては紛れもなく宝物だったと言えるだろう。


 さて、ハル先輩とのこれまでを振り返った上で、質問の答えに移るか。

 大丈夫、俺の心に揺らぎは一つもない。俺は、ハル先輩のことが好きだ。多分この先あれ以上に好きになれる人もいないと思えるくらいには。


 俺が自分の気持ちを確認したのと同時、俺は歩みを止める。


 やって来た先は、学校の部室棟の中の一室。幾度となく通って来た写真部の部室前だ。

 ハル先輩に呼び出されて、俺はここにやって来ていた。


 意を決して引き戸を開けると、そこにはハル先輩が佇んでいた。見学に来たあの日と同じように。


「あ、貴斗君」


 ハル先輩は俺に気付くと、瞳を細めて微笑む、ただそれだけで、俺の胸は高鳴ってしまうのだ。


「…今日土曜ですけど、ここ使って良いんですか?」


「開口一番それ?…大丈夫だよ。表向き(・・・)には部活だから」


 俺の質問に、クスリと笑って答えるハル先輩。そりゃあ大切ですよ。邪魔が入ったら堪ったものじゃない。


「さて、貴斗君。あげる」


「ありがとうございます」


 俺がチョコを受け取ると、期待するような目でこちらを見る。一瞬緊張が走るが、俺は包装を解いてチョコを取り出す。少し形は歪なので、手作りだと分かる。


「じゃあ、頂きます」


「どうぞ」


「…おっ、美味しいです!」


 口に含むと、広がる確かな甘さと、それを引き立てるほろ苦さ。何だかホッとするような、そんな味のチョコだった。


「良かった〜。いや、私そう言うの下手っぴだからさ〜」


「…自覚あったんですね」


「どう言う意味さー」


「…ま、今年は剣義にも言われちゃったし、リンちゃんと一緒にシュウト君から教わったの」


「あー、あいつ菓子作り上手いですもんね」


 そう返事しながら、俺は内心群星に感謝する。本当にありがとう。


「まあね。今年は…絶対に失敗したくなかったから」


 何気なく放たれたその言葉に含まれたニュアンスを、俺は読み取る。

 俺は群星ほど鈍くないつもりなので、ちゃんと分かる…はず。それでもやっぱり怖いし、自信も中々揺らいでしまう。それでも心を奮い立たせて、俺は声を上げる。


「あの、ハル先輩」


「どうしたの?」


「チョコ、本当に美味しかったです。ありがとうございました。それで…俺、先輩に言っておきたいことがあります」


「言っておきたい、こと?」


「…俺、ハル先輩のことが好きです」


「…え?」


 俺の言葉に、状況をイマイチ飲み込めずに固まってしまうハル先輩。そこに俺は言葉を続ける。


「最初に出会ったあの日からきっと、俺ずっと先輩のことが好きです!…だから、俺の恋人になってください!」


 俺が真剣にハル先輩を見据えてそう告げると、ハル先輩は目を大きく真ん丸に見開く。そんな動作すら愛おしい。

 そう思って返事を待っていると、次第にハル先輩はジト目になり、頬を膨らませる。…あれ?なんか怒ってる?何で?俺がそう思った瞬間、ハル先輩は口を開く。


「ずーるーいー!私が先に言おうと思ってたのに!!なんで先言っちゃうかな!?」


「え?な、なんかすみません…」


「でも嬉しかったら許します!…私も好きだよ。大好き。貴斗君。私で良ければ、喜んで」


 怒ったかと思えば、嬉しそうに、それでいて恥ずかしそうにはにかみながら俺の告白を受け入れるハル先輩。

 こうして、俺達は恋人同士になったのだった。


 …に、してもだ。あの子供っぽい怒り顔からの照れ顔のギャップはズルいって…!そんなことを思いながら、俺達のバレンタインは過ぎ去っていく。

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