EP80.水族館での出会い
私と群星君が初めて出会ったのは小学一年生の最後のイベントとして用意されていた水族館への遠足だった。
私は皆と一緒に回っている途中でお手洗いに行きたくなったのだが、人見知りな性格なこともあって言い出せず、一人で行ってしまったのだ。しかし、こっそり抜け出したため誰も気付かずにそのまま行ってしまったらしく、戻った時には誰も居なかったのだ。
「みんな、どこ…?」
私が途方に暮れていると、背後から私に声を掛けてくる人がいた。
「あれ、おまえなにしてんの?」
「え…?」
私が驚いてそちらの方を見ると、そこには男の子が立っていた。その子には見覚えがあって、この時点では少なくとも偶に見かける隣のクラスの人、という認識だった。
「あれ?おまえたしか…3くみだったよな?」
「う、うん。…3くみの、月見すずみ……」
「そっか。オレは2くみのむれぼしつるぎ。すずみもまい子か?」
「も、ってことはむれぼしくんも?」
「ああ。トイレいってたらおいてけぼりだぜ」
「ほ、ほかの人にいわなかったの…?」
自分のことも棚に上げて、そう尋ねる私に、群星君は一瞬キョトンとした様子を見せてから「あ」と声を上げる。
「かんっぜんにわすれてたぁ!!そうだ、オレなんもいってねえ!」
「ええ…」
自分は恥ずかしいからと言わなかった癖に、一丁前に引いている当時の私である。とは言え、一考もしてないのはそれはそれでどうかと思うけど。
「そ、そういうすずみはどうなんだよ」
「わ、わたしは…わたしもお手あらいにいってたんだけど、その…いうのはずかしくて…」
「?なんだ、すずみもいっしょか!まあ、しょうがねえし、二人でみんなをさがしにいこうぜ?」
「う、うん。…いいの?」
私に手を差し伸べて来た群星君に、私はおずおずと問う。すると、群星君はくしゃりと笑って言うのだ。
「ったりめーだろ!むしろ一人じゃさびしーからな」
「だ、だったら…。うん、わたしもいく。いっしょに!」
「おう!」
そうして私達は二人で水族館の中を回りながら先生や他の皆を探し始めた。
「わ!大きなたこ!」
「本とうだ!すげー!でけー!こいつたこやきにしたらなんこぶんになんだろ!」
「たしかに…いっぱいできそう」
私は珍しいことに群星君とはすぐに仲良くなれた。タコの水槽を見てはしゃいでたこ焼き換算してみたり…。
「これは…ウ…ツボ…?なんかこえーかおしたうなぎみてえ!かっこいい!」
「えぇ…?ニョロニョロしててヘビみたいだし、きもちわるくない…?」
ウツボが何か分からずに困惑してみたり…。
「すごい、きれい…」
「まじですげえ…!くらげってこんなにキレーなんだな」
クラゲの水槽ではその美しさに感嘆したり…。
友達とこんな風に遊んだことの無かった私にとっては、まさに夢のような時間だった。
だけど、楽しい時間というのはいつかは終わるものだ。
私達の場合、それはちょっとした広場みたいな場所で訪れた。
群星君と共に様々な魚が展示されている少し広いスペースにやって来たタイミングで、向こうから駆け寄ってくる人に気付く。
「あ、居た!二人とも一緒に居たのか…良かった!」
「先生!」
「3くみの先生!」
近寄って来ていたのは当時の私の担任の先生だった。
「全く、涼海ちゃんも群星君も、先生達凄く心配したんだよ?勝手にどっか行っちゃダメだよ」
「「ごめんなさい…」」
先生に怒られた後、私達は皆と合流したその時、群星君を女の子──結衣乃が出迎える。
「つるぎ!」
「あ、ゆいの」
「あ、じゃないよ!わたしがどれだけ心ぱいしたと思ってるの!」
「わ、わりい…」
結局、この日はこれ以降話しかけるチャンスも無かったので、それっきり。だけれど、私はずっと群星君のことを気にしていた。
ペンギンショーを見ている時も、お弁当を食べる時も、帰りのバスの中でも、夜にベッドの中でも気付けば群星君のことを考えていた。
そしてそれから少し経って、二年生になってすぐのクラス替えでら私達は同じクラスになり、交流を持つようになって今に至ると言うわけだ。
あの時の記憶は、今でも私にとって宝物になっている。




