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無限回廊と幼馴染  作者: 名梨野公星
第四章:決意の冬
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EP79.甘い季節


 …1月が終わり、2月に入って今日で一週間。少し前に群星達が行っていたという世界での体験のインタビューを終えた俺、速野貴斗は気になることが出来始めていた。


 ゲーム制作も順調に進んでいる今日この頃において、俺の頭を悩ませているのは一週間後に迫った“バレンタインデー”である。

 一応、俺は複数人でのグループにいるので、その中の女子から義理チョコくらいは貰えるだろう。そこは別に心配してない。

 問題は…ハル先輩がチョコを渡してくるかどうかなのだ。

 ハル先輩こと朝日春瑠乃は俺の写真部における先輩だ。俺とハル先輩、二人だけしかいない写真部でこの二年を過ごしてきた。しかし、それももうじき終わる。ハル先輩は今年の3月…もう後三週間程したら卒業していくからだ。


 さて、肝心のバレンタインチョコだが…去年はくれた。くれた、のだが…。

 まあ、この際正直に言ってしまうと、滅茶苦茶不味かったのだ。

 甘いけど苦くて、何故か辛味と塩味が効いていて、その奥には仄かに酸味があるという味の大混雑、謎のフレーバーだったのだ。

 で、去年朝日さん達と関わるようになって彼等の話を聞いているうちに、俺は一つの結論に行き着いた。

──ハル先輩は料理の腕が壊滅的だ。

 下手とかではなく壊滅的。その域に達していると言って良いだろう。


 まあ、ここまで散々に言ったが…別に欲しくないわけじゃない。と言うか貰えなかったら貰えなかったでやっぱりそれは寂しい気もするのだ。とは言え今年もアレを食うのは…と慄いてしまう。そんなジレンマにここのところ悩んでいたのだ。


「…で、俺を呼び出したと」


「そうなんだよ。お前の方からそれとなーく言ってくれないか?」


 因みに今はやまと屋に群星を呼び出して話をしていた。この時間は客が少ないから使わせてもらっていたのだ。

 今は自由時間らしく暇そうなリンと流も話を聞いている。


「ねーねー、バレンタインって何?」


「ん?バレンタインってのは2月14日。つまり来週にあって、この日本では女の子が好きな人にチョコを贈る日と言う扱いになってるな。まあ、今時は友達にチョコをあげたりする方が主流だけど」


「成る程、じゃあシュウトはアタシにチョコ作って!」


「何でだよ。女子が贈る日なんじゃねーのかよ」


「えー、だってシュウトの作るお菓子美味しいし!それに…」


 急に真面目な態度でリンは告げる。


「アタシ、男女差別良くないと思うんだ」


「急にどうした。…仕方ねえな、作ってやるよ」


「やったー!」


 何故か二人がわちゃわちゃしてそのままどっか行っちゃったので、俺は咳払いをして話を元に戻す。


「で、頼めないか?群星」


「…まあ、良いけどさ。一つだけ教えてほしい」


「んだよ」


「お前は──」


 その後に続いた群星の言葉に俺は驚くが、同時に彼に()()()()をするチャンスだと悟る。


「…なら、お前も教えて欲しい。お前──」


✳︎✳︎✳︎


 バレンタインが一週間後に迫った日の夕方、私こと月見涼海はスマホと睨み合っていた。スマホにはトークアプリのトーク画面が表示されている。相手は群星君で、目の前には送る直前のメッセージ。


 文面は『来週の土曜、一緒に水族館に行かない?』



 私もそろそろ覚悟を決めなくては。結衣乃はとっくの昔にこのステージへ上がっている。


 大きく深呼吸をして、私はゆっくりとスマホの画面をタップする。メッセージが送られたことを確認しても、気を抜けない。数分の間、画面を見たまま固まっているとやがて既読が付き、そこから少しして返信が来る。


『良いよ。どこの水族館へ行きたい?』


 私はそのメッセージに対し、慌てて返信を打ち込む。


『隣町の水族館。小1の時に行ったとこ』


 私のメッセージにもすぐ既読が付き、群星君から返信が来る。


『あそこか。久々だな』


 そう、今回私が選んだ水族館は、私達にとって大きな意味を持つ場所なのだ。

 群星君とやりとりしながら、私はあの時のことを思い出す。

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