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無限回廊と幼馴染  作者: 名梨野公星
第四章:決意の冬
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EP73.メテスの世界


「あの子は、優しい子でした」


 新年を迎え、俺達は今、ある世界へとクエストでやって来ていた。

 この世界は──かつてメテスが生まれ育ったと言う世界だ。


 目の前で話をしてくれているのは、メテスの実の両親だ。

 どう言う経緯でこうなったのか。話は少し遡る。


「…ここが今回のクエストの世界か」


「ようこそ、来てくださいました」


「あなた達が、私達を呼んだのですか…?」


 俺達がやって来たのは、ごく普通の民家の庭先だった。そして俺達の背後から声を掛けてきたのは、今回の依頼人であるメテスの両親だった。二人は俺達にこう質問を投げ掛ける。


「あなた方はメテス・クロノオと言う男と会ったことがありますか?」


「!」


「メテス…」


「…あります。あなた達は?」


 メテスの名前に俺達が驚きつつも向こうの正体について探りを入れると、目の前の二人は穏やかな笑顔を浮かべて自己紹介をする。


「申し遅れました。私はメテスの父…アロ・クロノオです」


「同じく母のサウザ・クロノオです」


「メテスの…両親!?」


「こんな所ではなんですから、中はどうぞ」


 そう言って歩き出す二人に、俺達は視線を一瞬交錯させ、二人の後に続く。

 中に入ると、リビングと思わしき場所に通され、ソファや椅子に座るように促され、俺達は別個に座る。


「申し遅れました。俺は群星剣義です」


「月見涼海です」


「枠生リンです」


「流シュウトです」


 それぞれ名乗ると、どこか驚いたように二人は目を見開き、しかしすぐに平静に戻ると、話の本題に入る。


「あなた方をこの世界へ呼んだ理由はメテスが今、何をしているのか知りたいからです」


「今、何をしているのか…ですか」


「はい。…あの子は少し前に置き手紙だけ残して居なくなってしまったんです」


「あいつは…」


 一瞬真実を伝えるべきか迷ったが、俺は決意し、口を開く。


「…メテスは今、無限回廊というものに辿り着き、亡くしてしまった幼馴染を取り戻そうとしています。…多くの人の命を、奪いながら」


「!」


「…やはり、そうでしたか」


「分かってたんですか?」


 何故か納得したような、そんな沈痛さを醸し出している二人に、涼海は疑問を呈する。


「あの子の手紙に『異世界へ行く』という言葉があったことと、日記にも似たようなことが書かれてたんです」


「『無限回廊』という言葉も書かれてありました。それに、最後のページにはこう綴られていたんです。『手段は選ばない』『後戻りは出来ない』と」


「そうですか…」


「…あなた方も、メテスに何かされたんですよね」


「…俺達はあいつと出会って、戦った末に友人が無限回廊の中に閉じ込められました」


「俺は…元いた世界を滅ぼされました」


「あの子がそんなことを…」


「すみませんでした。謝ったって許されることではありませんが、これも全て親の監督不行き届き故です」


 メテスのやって来たことを聞いた二人は深い悲哀の表情を浮かべ、俺達に謝罪してくる。


「あなた達が悪いわけじゃないですよ」


「そうですよ!」


 申し訳なさそうにしている二人に、俺とリンが口々に宥める。


「…昔話をします。メテスは…あの子は…優しい子でした」


「あいつは本当に幼馴染のメイちゃん。メイ=コートアのことを大事にしていました」


「物心ついた時から一緒にいました。メイちゃんは快活な性格で、ぼんやりとした所のあるメテスのことをいつも引っ張って行くような子でした」


「メテスはのんびりしていて、大人しい子でしたが、人一倍優しくて、困った人には手を差し伸べるような子でした…いや、もしかしたらそう思いたかっただけなのかもしれません」


「今にして思うと、もしかしたらその優しさはメイちゃんあっての、メイちゃんの真似をしてのものだった気もします」


「そしてあの日、メイちゃんを失ったメテスは一見すると変わらず穏やかに見えました。…けど、私は、私達は気付けなかったんです。その裏にあった…感情に」


 そう言うサウザさんの声は、震えていた。


「そうでしたか…」


「勝手なお願いなのは分かっていますが、どうか、息子を、メテスを止めてもらえませんか?」


「…俺達は、元々そのつもりでした。ただ…」


 ただ、その先の言葉が出せなかった。俺達にとってメテスは倒すべき敵だ。しかし、目の前に居る二人にとっては大切な子供なのだ。

 何より、俺の判断を鈍らせたのは、メテスが根っからの悪人ではないと言うこと。あいつ自身、大切なものを取り戻そうと必死に足掻いてもがいているのかもしれない。そう言う意味では、俺や涼海、リンとは同類とも言える。


 チラリと様子を窺うと、涼海も、リンも、流すらも複雑そうな顔をしていた。

 俺はそんな光景も含めて考えつつ、一度深呼吸をして息を整える。


「…ただ、次あいつと出会った時、俺達はあいつと命を懸けて戦うことになるでしょう。…それは、向こうも同じです」


 直接的な言い方こそ避けたが、言いたいことはつまり、止めるということはあいつの命を断つということに繋がる。そういう意味であるということ。

 それを聞いた二人は優しく、しかしどこか悲しそうに告げる。


「分かっています。本当は別の方法だって探したいです。ですが、そんな悠長なことを言ってもいられません。これ以上誰かの命を奪わせないよう、止めてやってください」


「実は…日記にあなた方の名前も出てたんです。それで、さっきあなた方がその本人だと知って、私達は確信しました。…あなた方なら、メテスを止められると」


 俺達はこの瞬間、理解した。あの二人は誰よりも強い覚悟をもう、とっくの昔に決めていたのだと。

 この日、俺達にはまた、メテスと戦う理由が出来たのだった…。


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