EP71.満を辞して年越し
…さて、俺達がクエストを終えて戻ってきたのは、来た時と同じ大晦日の夕方である。
そして俺はリンと流と共に自宅に戻り、涼海も自宅へと帰る。
因みに今いるのは神社である。元々俺の家と涼海の家、結衣乃の家に程よく近いのでよく来ていたお馴染みの場所であり、やまと屋にも近い為、丁度良い待ち合わせスポットとして使っていた。
で、何故リンと流の二人と共に帰ろうとしているのかと言うと、実は大和さんがお正月の三が日までは店を閉めているからお正月休暇ということでその間は我が家に宿泊することになっていた。
三人で家に帰って来ると、母さんが出迎えてくれた。
「お帰り、剣義。それとリンちゃんとシュウト君もお帰り」
「ただいま、母さん」
「ただいま!」
「…ただいま」
すっかり我が子のようにリンと流を可愛がる母さんに、リンは元気に、流は照れ臭そうに答え、家へと入る。
「もう夕飯は出来てるから、順番にお風呂入って来なさい」
「はーい」
「分かった!」
「分かりました」
母さんの言葉に三人で返事を返すと、風呂の支度をし、順番に風呂に入ると、年末のお笑い番組を見ながら夕飯を食べ始める。
その後夕飯を食べ終えると、テレビを見ていたのだが、まあリンがよく笑う。これでもかと言うくらい笑う。
その隣に仏頂面でテレビを見ている流が居るもんだから、その温度差もまた凄い。その光景だけでちょっと笑えるレベルだ。
「…リンはよく、そんなに笑えるな」
「えー、だって面白いじゃん。あはは。それよりシュウト、全然笑ってないよねー」
「ん?いや、普通に面白いが?」
「顔に出てないだけでリンと似たようなもんかよ」
確かにやけにガン見してるなと思ったけど。
俺がそんなことを思っていると、電話が鳴る。…涼海?
「ちょっと電話…。おう、どうした涼海」
「今、大丈夫だった?」
「ん?ああ。ま、俺はそこまでガッツリテレビ見てるわけじゃないしな。どうしたんだ?」
「いや、ちょっと…声が聞きたいなー…って。ダメかな?」
「…別に良いぜ。少し話すか」
「うん!」
涼海の提案に乗っかり、通話を開始する。
「…今年、色々あったね」
「だな。…本当に色々」
「5月だよね…群星君が私達の秘密を知ったの」
「ああ。…もう半年以上も経ったんだな」
「あの時は群星君、どうすれば良いか分からなそうで不安げだったよね」
「仕方ねーだろ、実際に異世界に行くことがあるなんて夢にも思ってねーんだから」
「まぁそうだよね」
5月。俺達は初めて三人で異世界へ行った。あの頃は本当に自分の弱さを突き付けられてたな。
「6月は…速野と出会ったりしたな」
「なんだかんだ彼には助けられてばっかりだよね…」
「だな。そういやあいつのゲーム、いつ完成すんだろ」
「…っていうか、群星君が無茶したのもその頃だよね」
「ああ…禁断の果実の時か…」
「私達、本当に心配だったんだからね。群星君が…死んじゃうんじゃないかって」
「……本当に悪い。反省してる」
「…うん」
6月。速野との出会いがあった。涼海の言う通り、あいつには助けられてる。自慢の友達だ。…まあ、言うと調子に乗りそうだから言わんが。
そして禁断の果実の一件。
あの頃の俺は深く考えていなかったが、今になれば二人の気持ちが痛いほど分かる。
「7月は…リンさんと出会ったりしたのよ」
「ああ。聖剣を手に入れたあのクエストでな」
「リンさんも出会った頃からに比べたら随分と周りのことを気に掛けられるようになったよね」
「ああ。最初は結構自由奔放だったから大変だったけどな」
「うん。それに群星君は聖剣を得て以来凄く強くなったよね」
「…そうか?まだお前達には届いてない気がするけれど」
「強くなったよ。だって最初は守らなきゃと思ってたのに、今は信じて背中を預けられるもん。…凄いよ」
「そっか。それなら良かった。鍛えた甲斐があったってもんだ。あ、後遊園地行ったよな」
「…楽しかったよね」
「ああ。また行こうな」
7月。リンとの出会いがあった。最初こそどうなるやらと思っていたが、今ではすっかり頼れる仲間だ。
そして、7月の頭には二人で遊園地に行ったりもした。今度は…三人で行きてえな。
「8月…特訓したっけ」
「あったね。そんなこと」
「んで、その少し後に夏祭りに行ったよな」
「私と群星君と結衣乃と春瑠乃さんと速野君とリンさん。その五人で行ったよね」
「ああ。あの時は逸れちまって大変だったよな」
「あったね。大変だった。…でも、その分花火が凄く綺麗に見えたかな」
「だな。後は…速野、姉貴とリンの三人と釣りに行ったり…動物園にも行ったよな」
「行ったねー。あの頃はリンさんが色んなことに興味を持ってたし」
「そうだったなあ。懐かしい」
8月。夏休みだったこともあり、沢山の思い出が詰まってる。
それにしても人生の中で一番色んな意味で濃い夏休みだったけどな。
「9月には新学期の始まって早々にリンさんのことで噂立てられたりしたっけ…」
「あー…主に俺がな」
「今更だけどお疲れ、群星君」
「どうも。…そう考えると、今は一人でしっかりやっていけてんだから、リンは凄えや」
「確かに」
9月。新学期が始まり、留学生と言う形でリンが俺達の学校に来た。その時の不用意な発言のお陰で謎の注目を浴びたのも、今となっては良い思い出だ。
「10月っていうと…文化祭か。速野脚本の桃太郎だな」
「主役だったもんね」
「お前だって姫役なんだから大分目立ってたろ」
「確かに。…私を助けてくれた時は、本当にかっこよかったよ」
「そ、そうか…」
10月。文化祭の出し物として速野が脚本を書いての桃太郎の演劇をやったっけ。
本番では舞台の背景が倒れるトラブルはあったけど、それでもまあ、なんとかなった。
…その時のことを褒められると少し照れ臭いが。
「11月は…」
「………メテスとの戦いと、結衣乃が無限回廊に…」
「……結衣乃、帰って来るよね?」
「……当ったり前だろ。俺達が…迎えに行くんだよ」
「…うん」
11月。涼海が口籠もってしまうのも無理はない。結衣乃が居なくなってしまったのだから。
不安そうに聞いて来る涼海に、俺は敢えて力強く答える。涼海もきっと、ずっと抱えてきたのだろう。
「…12月に入って、俺達には流っていう仲間も出来た」
「うん。…皆での歓迎会とか、クリスマスパーティーとか、楽しかったよね」
「ああ」
12月。流が加わり、色んなイベントを経て今に至る。
…こうして振り返ると、本当に色んなことがあった。まだまだ目標には遠いけど、いつか、必ず…。
そんな決意を秘め、俺達は激動の年を終え、新年を迎えようとしていた。




