EP56.冬の思い出
さて、空中都市のクエストを終えてからまた少し経ち、十二月へと入っていた。
十二月初旬としては珍しい初雪の日のこと。
「…雪かあ」
「…雪だな」
「?雪がどうかしたのか」
写真部の部室の窓から雪を眺めて俺と涼海がそんなことを言っていると、速野が首を傾げながら訊ねる。
最近、結衣乃がいなくなって以来、速野の誘いで俺と涼海と涼海、リン、偶に姉貴も一緒に昼食を摂るようになっていた。
「あぁ、雪は…結衣乃が好きだったんだ」
「そうだったんだ。知らなかった」
「まあ、リンさんが来て半年、雪が降るシーズンじゃなかったからね。…雪が降って、いつもの街の気配がが全然違うものになるのが好きだったんだって」
「そうかあ。…なんとなく分かるな」
思い出すのは中学二年の冬の記憶。
「剣義ー、すずちゃーん!雪だよ!!」
「あー、はいはい。そうだな。…ったく、どんだけ雪好きなんだよ」
「綺麗だもんね。…寒いけど」
「全くだ。…大丈夫か?」
「うん」
「ほら、二人とも!こっちこっち!」
「…おう!」
「今行くー!」
学校の帰り道、雪にはしゃいでいる結衣乃に苦笑しつつ、俺と涼海は神社のすぐ近くの公園へと入る。
そこには、地面にも遊具にも雪が積もっていて、近くの河原も白く変わっていた。
「まあ、確かに普段とは違う感覚でなんか新鮮で良いよな」
「でしょでしょ!あ、そうだ!久々に雪合戦しようよ!」
「…良いけど、組み分けは?」
「そんなの私とすずちゃん対剣義に決まってるでしょ」
「えぇ〜結衣乃はさておき涼海に勝てるかぁ?しかも二体一とか卑怯だぞ!」
「私なら勝てそうってことかな?聞き捨てならないね!すずちゃんやっちゃえ〜!」
「え?う、うん!」
「いや、お前がやらないんかい!…って、うげっ!」
困惑しながらも雪をそこそこ速球で投げて来る涼海と、それを必死に避けようとする俺。そしてその光景を見て楽しそうに笑っている結衣乃。
…今でも大切な、俺達三人の思い出だ。
放課後、涼海は委員会の仕事があったため、俺は一人で帰っていた。
俺はなんとなく、昼休みにも思い出したあの公園へと足を運ぶ。
雪合戦の後、制服に付いた雪の粉を払って、自販機であったかい飲み物買って、三人でベンチで座って飲んだんだよな。
その当時から変わらずあるベンチの上の雪を払い、俺は腰掛ける。
「え?剣義コーヒー飲めるようになったの?」
「ん、まあな。なんか気付いたら飲めるようにになってた」
「凄い…大人だ…」
「別にお汁粉もミルクティーも悪かないと思うが…」
俺がホットのブラックコーヒーを飲んでいると、お汁粉を持った結衣乃がそれに気付き、ホットミルクティーを飲んでいた涼海が感心する。
それに俺は答え、その後も三人でワイワイと話していた。
これもまた、俺達三人にとって大切な、忘れられない記憶……思い出だ。
………大切で、かけがえのない思い出のはずなのに、なんでこんなに思い出すのが辛いんだろうな。
この場所でそんなことを思い出していたからだろうか、俺の頬を温かい液体が伝っていく。
「…俺、何泣いてんだろ」
そう言いながらも、頰を伝う涙は止まらない。
結衣乃がいなくなった今、俺がしっかりしなくちゃならねえと思い、ここまでやってきたが、一度想いが溢れると駄目だな。止めらんねえ。
俺は公園で暫く一人、涙を流した。やがて涙が止まると、俺は立ち上がる。
「…待っててくれ、結衣乃。俺達が必ず迎えに行くから」
そのためにもっと、強くなる。そしていつか結衣乃を助け出してみせる。
もう何度目かも分からない、けれど今までより強く、俺はその決意を言の葉に乗せて送り出した。




