EP48.目覚める加護
私達三人と、邪竜との戦いは熾烈を極めた。その中で、次第に私達が邪竜を押し始めていた。だけれども、邪竜にはまだ、奥の手が残されていた。
ある程度まで追い詰めてた段階で、邪竜は一際大きな咆哮を上げた。それは凄まじい衝撃波となり、私達を襲った。
そしてその直後、突然強力な破壊光線を邪竜は口から放ったのだ。私とシフォンさんはなんとか軌道から逃れたものの、チヨコのみが衝撃波の影響で上手く動けず、取り残されてしまう。
「チヨコ!」
「くっ!お嬢様!!」
「ッ!」
チヨコの体が破壊エネルギーに飲まれる寸前で、シフォンがチヨコの体をその軌道から押し出すが、代わりに自身はもろに攻撃を受けてしまう
「シフォン!!」
「シフォンさん!」
「…お嬢様を…守れて…良かった…。二人、とも…後は、任せ…ました…よ……」
そう言い残して、シフォンさんは光の粒となり、消えてしまう。
「…そんな……」
「シフォンさんが…死んだ…?守れなかった…?
──!!チヨコ、危ない!」
「…!」
悲しみに暮れている暇も、呆然としている暇も与えてくれず、邪竜が尾を横に振るって薙ぎ払って攻撃を仕掛けきたため、私はチヨコを抱えて上に跳び、回避する。
チヨコを抱えたまま着地すると、チヨコはボソリと一言「…良くも」と呟くと、邪竜に向かって行く。
「?チヨコ、どうし──」
「良くもシフォンを!絶対に許さない!!!雷光!」
チヨコは怒りを露わにし、電撃を放つが、邪竜には避けられてしまう。
「チヨコ、逃げて!!」
「あ…!」
怒りで周りを見れなくなっていたチヨコはろくに動けないまま、邪竜の放った爪を真っ向から受けてしまう。
「チヨコー!!!…しっかりして、チヨコ!チヨコ!!」
「…私…何やってんだろ…シフォンに、怒られちゃう…。スズミ…ここは、逃げて…そうすれば…きっと……」
瀕死になりながらも、なんとか私を逃がそうとするチヨコの姿に、胸が苦しくなった。さっきまでシフォンさんがいたところを見ると、心が震え出した。
邪竜がトドメを刺そうと、破壊エネルギーのブレスを放つ。
その時、私は思った。もうこれ以上、誰も失いたくない。大切なものを壊されたくない。その強い感情が、私の体を突き動かす。
「スズミ…無茶よ…逃げて…!」
「……逃げない!!私は…こんなトカゲもどきなんかに、大切なものをこれ以上壊されたくない!!」
「スズミ…!!」
チヨコの前に立ち、邪竜の放った破壊エネルギーのブレスを睨む。すると、破壊エネルギーが私の体を飲み込み、そして貫く、その瞬間まで一秒とないような時に、私の体から金色の光が溢れ出る。
そして同時に、これまでとは比べ物にならない力が湧き出るのを感じ取る。
「!これは…!?」
「攻撃を…防い…だ…?」
邪竜のブレスは、確かに私に直撃し、その体を飲み込み貫いたが、私の体には傷一つ付かない。
「…こいつは、私が倒す!!」
何故かは分からなかったが、今なら…今の私なら邪竜を倒せる。私はそう確信し、邪竜に突撃していく。
邪竜はブレスを連射して私を迎え撃ち、私はそれを避けもせずに突っ込むが、矢張り私の体には傷一つ付かない。
そして、私は邪竜に近付くと、両手で何発も打撃を打ち込み続ける。すると、邪竜が大きくよろめき、私はその隙を突いて渾身の一撃を放つ。
「これでっ…最後!はあっ!」
邪竜は白目を剥いて倒れ、次第に光の粒となって消滅する。
「…邪竜を、倒した……?」
「チヨコ!大丈夫?すぐに病院に連れて行くから」
「…良いよ、スズミ。足元…見てみな」
「足元…?これは、魔法陣?」
チヨコに言われて足元を見ると、黄色い魔法陣が出現していた。
「きっと…スズミが帰るための…ものだよ…」
「…!でも、チヨコをこのまま放置しては…」
「良いよ。…私のことは」
弱々しく、しかし絶対に曲げないという強い意志を感じさせる声で、チヨコは言う。
「…もう、持たないから。…分かってるんだ…手遅れだって」
「そんな…!そんなこと言わないでよ!」
血塗れになりながら、チヨコは優しく笑って、私にこう言う。
「スズミ…背負う必要は、ないんだからね?私も、シフォンも、自分で戦うと決めて、実力が足りなかったから…こうなったの…だから、スズミが…背負わなきゃいけない…ことなんて…何一つ…ないんだよ?」
「チヨコ…。もう喋らないで、ほら、病院に連れて行くから!」
「スズミ…巻き込んで、ごめんね。……そして、この世界を…救ってくれて、本当に…ありがとう…。さようなら、スズミ」
チヨコはそう言い残すと、私の手を振り解き、そのまま倒れ込んでしまう。私もチヨコに近付こうとした、まさにその瞬間だった。
「チヨ──!」
私の体は突然眩い光に包まれて、私は意識を手放す。
目が覚めると、そこは懐かしい自室だった。日の光が差し込み、外で鳥が囀っていた。
何もかもがあの時のままで、私の体もあの日…中学一年の頃のままだった。
戦闘で受けていた傷もすっかり消えていて、まるで何もかもが無かったかのような感覚だった。
それで私は、さっきまでの出来事は全て夢だったのだと、長い悪夢だったと思った。
…いや、本当はあれが夢なんかではないと、私自身どこかで気付いていたのだ。でも、夢だとでも思わなければ、自分自身の心が…持たないから。
結局、あれが夢なんかではないと、私が受け入れざるを得なくなったのは、そこから間も無くのことだった。
「…って言うのが、私の最初のクエストの話」
「そんなことがあったんだ…」
「……話してくれてありがとな」
「アタシ、全然知らなかったや…」
涼海の話を聞いた俺達三人は、涼海が俺達が思うよりも大きく、重たい物を背負ってきたということを改めて実感していた。
「聞いてくれてありがとう。なんか、話してたら…ちょっと気持ちが整理できたかも」
「そうか?」
涼海はどこか穏やかながら、芯を感じさせる顔つきで言う。
「うん…決めた。私、無限回廊を止めるのに協力する」
「…良いのか?」
「色々と思うところはあるけど、救えなかった命を助けたいって気持ちは分かるから。…それに、これが本来の形なんだもんね」
「分かった。お前が良いのなら…俺達も反対する理由はない。決まりだな」
こうして、俺達四人は意志を一つにし、覚悟を決めたのだった…。




