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無限回廊と幼馴染  作者: 名梨野公星
第三章:波乱の秋
45/111

EP45.何を取るか


 あれから、俺達はメテスの用意した宿舎に泊まり、今後の事を話し合うことにした。


「…んで、どうする?メテスに協力すれば俺達も旅してきた事実が消えるんじゃないか?」


「多分ね…そしたらきっと、今まで私達が巡ってきた世界で危機から救ったことは無かったことになっちゃう。それに、リンさんとだって出会わなかったことになるよね…」


「そうだな。俺達が干渉して助かった命も多いだろうが、それも無かったことになる」


「でもさ…私は賛成かな」


 ポツリと呟くように結衣乃はそう言って、少し申し訳なさそうに目を伏せつつも、話を続ける。


「多分、多分だけど…世界と世界は交わらない。それが最も正しい在り方だと思うんだよね。

それに、メテスさんを見て確信したけど、他にも私達みたいな異界を救う為に戦ってる人達がいて、その人達だってきっと数多く命を失ってる。逆に、異界の存在が介入することで悪い結末を辿った世界だって沢山あると思うの」


「悪い結末って…例えば?」


 リンの質問に、結衣乃は真剣な顔付きで答える。


「例えばなんだけど、良い人だけが異界に行く力を得られるとは限らない。

悪い人間だっている。そんな人が強力な力を手にして異界に行ったら…どうなると思う?」


「…侵略や虐殺なんかの行動をとっても不思議ではないな」


「!」


「……」


 結衣乃の問いの意味が分かり、俺は答える。確かに、その可能性はある。…というか、確実にあるだろう。


「だから…私は止めるべきなんじゃないかって、そう思った」


「でも…それで私達が助けてきた人達を見捨てるの?」


「見捨てるんじゃないよ。…そもそも知らなかったことになるんだから」


「!!でも…」


「涼海、落ち着け。俺は正直…結衣乃の意見に賛成だ」


「群星君まで…」


「ツル…。実は、アタシもそれで良いんじゃないかって、思ってる」


「リンさん…。二人はなんで?」


「俺は、大体結衣乃と一緒だ。…そりゃ、リンと出会ったことが無かったことになるのは嫌だけど…これが多分正しい形だし、どっちを取るかなんだ。干渉で救われた世界か、干渉で破滅した世界、そのどっちかをな」


「アタシはほら、ツル達と出会えてほんとに良かったと思ってる。でもメテスの幼馴染を助けてあげたいって思ったの」


 俺とリンがそれぞれの考えを伝えると、涼海も黙り込んでしまった。

 こいつにとっては…いや、俺達にとっても苦渋の決断になるだろう。それは例え、どちらを選んだとしても。


 だけど、だからこそ俺達はメテスに協力する道を選んだ。その理由は他ならぬ涼海なのだ。

 そもそも一人の少女が背負い込むにはあまりに重過ぎるものを、あいつは背負ってきた。

 世界を、多くの命を救い、守らなきゃならない。そんな重圧を、あいつはずっと抱えてきた。

 俺達だって、それを全く感じない訳じゃない。だけど、俺や結衣乃はそのことを深く考えないようにしてきた。救えなかった命のことを軽く見るつもりはないけど、顧みることは、少なかっただろう。


 でも、それがある種普通なんだろう。割り切りでもしなければ、心がもたなくなる。

 命を救うプロの人達だって、日々強い重圧を感じているのに、それを素人の子供がやるってんだから、そうもしなけりゃやってられない。

 冷たいように感じるかもしれないけど、どうしようもない。

 だけど、涼海は違った。あいつは不器用で、心優しいからこそ、一人で受け止めてしまった。

 俺達は涼海が心を痛めているのが分かっている。だからこそ、涼海がこれ以上辛い思いをしてほしくないと思ってこの話をしたのだ。


 リンも恐らく、そんな俺達の考えに気が付いたのだろう。


「少し…考えさせて」


 そう言って私は、ベランダに出る。

 分かってる、分かってるのだ、その世界のことはその世界の中で解決すべきってことも、群星君達が私のことを心配してくれてああ言っているのも、全て分かってる。

 自分が救えなかった命が頭を過る。

 その度に思った。それは私の力不足だと。

 分かってる。全てを救うのなんて無理だと。

 それでも、諦めきれない。私がそう思うその理由はきっと、最初に行ったあの世界の出来事があったからだろう。


 すると、ベランダに群星君が出てくる。


「涼海…」


「群星君。…さっきはごめん。分かってるの、皆の方がきっと正しいって」


「それでも救いたい…そういうことか?」


「うん。…話、聞いてくれる?私の…最初に行った異世界のこと。

結衣乃にもリンさんにも、聞いて欲しい」


「…バレてたか」


「結衣乃、リン、聞いてたのか」


「まあね」


 涼海の言葉に、結衣乃とリンが扉を開けて入ってくる。


「…じゃあ、聞かせてくれないか?お前の話」


「私にも、教えて欲しい」


「アタシもだ!」


 俺達の言葉を聞いた涼海は微笑むと、目を瞑り…そして目を開くと語り始める。


「これは、私の初めてのクエストの話なんだけど──」

 

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