EP25.幼馴染の家庭事情
さて、リンが来て一日が経った。一先ず俺の両親、群星千里と群星翔矢の二人の記憶は既に書き換えた。
そして今日は涼海の家族と結衣乃の家族の記憶を書き換える。何せ家族ぐるみの付き合いだからな、いつ記憶に食い違いが起こるか分かったもんじゃない。
幸い今日は土曜だし、今朝届いたメッセージによると、結衣乃の姉も家にいるらしいので、絶好のチャンスという訳だ。
10時過ぎ、リンを連れて家を出る。
「あれ?剣義、どっか行くの?」
「ん?ああ、今から涼海と結衣乃の家行ってリンを紹介しようと思って」
「ああ、そういうこと。いってらっしゃい」
掃除中の母さんに見つかり、声を掛けられたが、別にやましいことはしてないし、素直に答える。
「いってきまーす」
「いってきます。…で、良いんだよな?」
「そ、家を出る時はそう言うんだ」
どうやら向こうの文化では家を出入りする時に何か言う文化は無いようだ。
するとリンはキョトンとした顔で尋ねる。
「じゃあ帰ってくる時は?」
「ただいま、だな。因みにいってきますにはいってらっしゃい、ただいまにはおかえりと返すんだ」
「成る程。ただいま、いってらっしゃい、おかえり…うん、覚えた」
「あ、それと、他の人の家に行く時はお邪魔します、帰る時はお邪魔しましたって言うんだぞ?」
「お邪魔します、お邪魔しました、か。…よし、これも覚えた」
そんな話をしている間に月見家の前に着く。俺の家から行くんだとこっちのが近いからな、先に月見家にやってきた。
玄関前のチャイムを押すと、少しの間の後、誰かが応答する。
『はーい。あ、群星君』
「よう、リンを連れてきた。開けてくれるか?」
『うん』
少し待つと、鍵の開く音がして中から涼海が出てくる。
「いらっしゃい。群星君とリンさん」
「ああ、お邪魔します」
「お邪魔します。…って、リンで良いのに」
「別に良いでしょ。私はこれで」
まあ、涼海ってそんなすぐに人との距離を詰めるタイプじゃないしな。仕方ないのだろう。
リビングに入ると涼海の母、月見波羽さんと、同じく父の月見海人さんがいた。
「群星君、いらっしゃい。今日は僕達に何か用があるみたいだけど、どうかしたのかい?」
「ええ、紹介したい人が居まして。リン」
俺の後ろからリンが出てきてにこやかな笑顔を浮かべて二人にそれぞれ握手する。
「初めまして!留学生の枠生リンです!」
すると、バッチリ記憶操作にかかった海人さんと波羽さんは「あぁ〜あの」と言って状況を理解する。
「初めまして〜。涼海の母の波羽です。よろしくね?」
「初めまして。涼海の父親の海人です。娘とも仲良くしてくれると嬉しいな」
「お父さん…そういうの良いから」
無事に記憶を書き換えることに成功し、しばしの間談笑していたが、そろそろ結衣乃の家にも向かわないといけないので、話を切り上げ立ち上がる。
「じゃあ、そろそろこのあたりで。この後、結衣乃の家にも行かなきゃならないので」
「あらそう?じゃあまたね、リンちゃん」
「また遊びに来てね」
「はい。また連れて来ます」
そう言って月見家を後にしようとすると、涼海に引き止められる。
「あ、待って。私も一緒に行くよ。丁度いい機会だからこれ返しに行こうかなって」
そう言って参考書を出す涼海。ま、そういうことならいっか。
「じゃあ行くか。お邪魔しました」
「お邪魔しました」
「いってきます」
月見家を出て、今度は朝日家に向かう。結衣乃の家は涼海の家と程近い所にあるマンションだ。
「着いたな」
「おおー!立派な城だな!ユイは姫か何かなのか?」
「ううん、違うわ。これはマンションって言って多くの人が集まって暮らしているのよ」
「ふーむ、そういうものなのか。なかなか面白いな、この世界は」
エントランスに入り、チャイムの前に立つと、502の順にボタンを押し、呼び出しボタンを押す。
『はーい、お、剣義達か。今開けるからね〜』
「あぁ、頼む」
自動ドアが開き、中へ進む。
「凄いな!ドアが自動で開いたぞ!」
「これは自動ドアって言ってね、触れなくても開けられるのよ」
そしてエレベーターのボタンを押すと、少しして一階にエレベーターが降りてくる。
「これは?」
「エレベーターってんだ。これに乗れば楽に上に登れるのさ」
エレベーターに乗り込み、5のボタンを押す。
「これも自動ドアか」
「そうだな。正直あんまり意識してなかったけど」
「着いたみたいね、降りるわよ」
そして朝日家の前に行き、チャイムを鳴らす。
「いらっしゃーい、ってあれ?すずちゃんまでどうしたの?」
「あぁ、これ返そうと思って」
「あー、こないだ貸した参考書ね。ありがとう」
「ううん、こっちこそ」
朝日家の玄関を過ぎ、リビングに向かう。そこには結衣乃の父と母である朝日晴輝さんと、朝日陽奈乃さんの二人がいた。
「おっ!剣義、よく来たな!」
「いらっしゃい。…あれ?その子は?」
「あ、紹介します」
リンはいつものごとく二人の手をそれぞれ握り、目を合わせ、人当たりの良い笑顔を浮かべる。
「初めまして晴輝さん!陽菜乃さん!枠生リンって言います!」
「もしかして、留学生の?」
「はい!」
「よろしくね」
よし、上手くいったな。すると、後ろから小突かれたので振り向くと、そこには結衣乃にどこか似た顔立ちの女性が立っていた。
「…何だ、姉貴か、驚かせんなよ」
「珍しーじゃん、うちに来るなんて、何?どうかしたの?もしかして私に会いたくなっちゃった?全くもー可愛い奴め!」
「ちょっ!お姉ちゃん!」
「…春瑠乃さん」
そう、結衣乃に似ている謎のテンションの高い女性の正体は朝日春瑠乃、結衣乃の姉だ。ただ、顔立ちは似てるってだけでめちゃくちゃそっくりかと言うとそうでもない。後、結衣乃と違って美人系だ。
…ま、こんな性格なんで俺は姉貴と呼んでいる。
「今日は姉貴に会いに来たんじゃないんだよ。コイツを姉貴達に紹介しようと思って」
「その子は?」
すると、リンは記憶操作を姉貴にかける。
「こちら、留学生の枠生リンちゃん。うちにホームステイしてんのさ」
紹介すると、姉貴はプルプルと震えたかと思うと、突然リンに抱きついた。
「!!?」
「やだー!この子がリンちゃん?可愛すぎ!私は朝日春瑠乃、結衣乃の姉よ、よろしくね!」
いきなりのことで混乱し、放心状態のリンを姉貴から引き離す。
「いきなり抱き着いたりしたら、驚くからやめてくれって言ってるだろ、姉貴」
「それもそうね、ごめんごめん、つい可愛い子が現れてテンション上がっちゃった」
「そう言えばもうお昼時だし食べていったら?」
「じゃ、お言葉に甘えて」
「お願いします」
「良いね」
俺も涼海も腹減ってるし、リンも顔には出してないが、賛成してるし食べていくことにした。
因みに出て来たのはなんか矢鱈とお洒落なパスタだった。
…そして昼食中も次々と質問を繰り出す姉貴に、流石のリンもタジタジだった。すげーな姉貴、魔王を言葉だけで押してやがる。
…朝日家はコミュ強の一族。結衣乃の能力の高さの所以を垣間見た。




