EP2.同行者
「これは、一体どうなってるんだ!?」
「群星君。これは、その…えっと、いや、でも今話しても…」
お互いに状況が飲み込めずに固まってしまう俺達三人。
その沈黙を破ったのは結衣乃だった。
「ご、ごめん!剣義、説明は絶対に明日ちゃんとするから!今日は、帰って貰っても…良い?」
「…分かった。俺も混乱してるし、今日はまぁ、帰るわ。あ、これ、ゴールデンウィークの土産。持って帰ってくれ。波羽さんにはもう渡してあるから」
そう言ってこの日は結局帰り、一人で色々考えてはみたものの、やっぱりあれが何で、二人は俺の知らない所で一体何をしてたのか、さっぱり訳が分からなかった。
そして翌日、結衣乃から俺に今日の放課後、地元の小さな神社に来るように、と言うメッセージが届く。
その神社は俺たちがまだ幼い頃によく遊んでいた、謂わば俺達三人の思い出の場所だ。
…で、今に至るって訳だ。真剣な顔をした涼海が話を始める。
「群星君。私達実は…異世界に行けるの」
「異世界?」
ファンタジーなんかでしか聞かない様な単語につい鸚鵡返ししてしまう。
すると、そんな俺の表情を見てか、少し寂しそうな、悲しそうな顔で涼海は続ける。
「うん、信じて貰えないとは思ってるけど・・・」
…正直信じ難い。これが涼海や結衣乃では無く他の誰かなら、俺はきっと頭でも打ったのだと思ってほっとくだろう。
だけど、信じて貰えないと言った時の涼海のしょぼくれた顔を見て信じたいと思った。
「いや、信じるよ。涼海も、結衣乃も、変な嘘をつく様な奴じゃない。
…まぁ、実感はねぇけどな」
俺がそう言うと、涼海はほっとしたような顔をし、結衣乃は何故かドヤ顔で言う。
「ね?すずちゃん?言ったでしょ?剣義ならきっと、信じてくれるって」
それを聞いた涼海も、嬉しそうに頷く。
「うん。ありがとう、群星君」
「いや、別に、礼を言う事でも無いだろ。
てか俺はもうちょい細かい話をすんのかと思ってた」
少し照れ臭くなり、横を向きながら話題を変えると、二人は少し照れ臭そうにしながら話を続ける。
「私達は、異世界に行って、その世界を救ってるの」
「救うって…どんな感じに?」
涼海の言葉に疑問を抱いて質問すると、二人は困った様に目を見合わせる。
「口で説明は…しづらいよねぇ…。そうだ!剣義も着いてきなよ!気になるでしょ?」
突然の誘い。まぁ確かに気にはなるけど…。
そこまで考えて、一抹の不安が生じる。
「え?大丈夫?俺生きて帰れる?」
「もー、剣義はビビリだなぁ」
呆れた顔して結衣乃がそう言う。
すげーや、生き残れるか聞いただけでビビリ認定。
そんな俺の様子を見かねてか、涼海が助け舟を出す。
「大丈夫よ、群星君。私達が守るから」
何てかっこいいんだ。絶対俺よりイケメンじゃねーか。
「まぁまぁ、そうと決まれば早速行こっか?すずちゃん、丁度一件あるでしょ?」
「うん、あった筈」
一件?どういうこっちゃ。少し気になり、2人に聞いてみる。
「一件って?」
「あっ、一件って言うのはね、異世界から助けを求められてる数の事。それに応える形で異世界に行ってるのよ」
と、結衣乃が説明してくれる。成る程、つまりはアレだな。
「要するにクエストみたいなものって事か?」
「あー、そう!そんな感じ!丁度良いし、そう呼ぼうよ!ね!すずちゃん」
「くえ…すと……?」
何言ってんだこいつら、訳分かんないよ。
とでも言いたそうな顔でこちらを見る涼海。
…そういやこいつ、この手の話題に疎いんだった。
「うーんまぁ、軽く説明すると…ゲームの用語で、頼まれ事とか、やらなきゃいけない事みたいなもんだ。今度ゲーム貸してやるよ」
うーむ。すげーざっくりとした説明になっちまった。情けねぇっす。
「よし、じゃあ今日は私が開けるね、扉を」
「扉?」
またしても出て来た知らない単語に困惑しつつ、聞き返す。
「そ、まぁ見ててよ」
そう言って結衣乃が手をかざすと、手のひらから、緑色の野球ボールほどの大きさの球体が現れる。
「な、何だこりゃ!?」
「これはね、扉を出現させる為の…まあ、鍵ね、鍵」
結衣乃が俺に説明しながら空中に緑の球体…鍵をかざすと、鍵がワームホールの様なものに変化する。
俺が昨日見たものだ。
「これが扉、じゃあ行くよ?準備は良い?」
「あ、あぁ…」
「さ、入って」
「分かった…よし」
そうしてワームホールに入ると、光に包まれ、意識を失う。
──────
「群星君。起きて」
「…んぁ?ってここは!?」
「異世界。でもここが何処かは分からない」
涼海に起こされ、目を覚ます。
辺りを見渡すと周辺には騎士の様な人や、王様みたいな人が居た。
「…結衣乃は?」
そう尋ねると、後ろから声を掛けられ、驚く。
「こっこだよ〜!ようこそ!異世界へ!」
群星剣義・16歳。人生で初めて異世界にやって来た。…まだあんまり事態を飲み込めてないけど。