EP10.黒き霧
黒き霧を倒すべく、結衣乃が考えた作戦は簡単。涼海と結衣乃、二手に分かれて黒き霧を誘き出す。
黒き霧の出てくる場所は基本的に新月の夜、暗い路地裏。
とはいえそんな場所はこの街には沢山あるという事でこの作戦だ。
因みに俺は涼海と一緒に行動している。結衣乃曰く「私だと守り切れるか分からないから」らしい。あいつも充分すぎる程強いと思うが…。
ふと隣を歩く涼海を見ると、堂々としている。あれ?確かこいつって…。
「……何?」
見ていたのがバレたのか、立ち止まり少し顔を赤くしながらぶっきらぼうに聞いてくる涼海。
「いや、そういや涼海って昔は暗いの苦手だったな…って思って」
「…そうね、正直今でも少し苦手よ。でも……今は群星君が居るから」
そう言って笑う涼海の姿に不覚にも見惚れてしまう。
「え?…そうか、俺のお陰か!感謝しろよ〜?」
つい恥ずかしくなって茶々を入れる。すると、涼海は少し嬉しそうにはにかむと、前を向き、歩き出す。
そして暫く歩いていると聞こうと思っていたことを思い出す。
「…なあ、こういう異世界で怪我したら、向こうの世界にも引き継がれるのか?」
「いや、関係無いと思うわよ。私達も昔は怪我したりしてたけど戻ってきたら治ってたもの。
病気とか風邪も恐らく影響を受けないわ」
「ふーん。なら良かった」
「…?」
涼海は不思議そうな顔をしているが、この質問の意図に気付かせる訳にもいかない。
きっと、心配かけるしな。….「消滅のリスクのある強化をしたい」なんて言ったら。だから、言わない。
再び二人とも沈黙が続くも、その時間も長くは持たなかった。どこかから悲鳴が聞こえてきたのだ。…それも、恐らく女性の。
「!今のって…!」
俺と涼海は顔を見合わせると急いで声の聞こえた方に向かう。到着すると、そこには黒い何かと女性の姿が。
あれが…黒き霧…。兎に角あの人を助けねーと。
「涼海!」
「任せて!」
涼海が素早く黒き霧に飛び蹴りを叩き込もうとする。しかし、黒き霧は素早く動いて回避する。あの攻撃を避けるなんて…!
「避けた!?いや、それどころじゃ無い…大丈夫ですか?」
涼海が黒き霧と対峙している間に襲われている女性を助け起こす。
「ゆ、勇者様!?来てくれたのですか!」
そういうと女性が突然抱きついてきた、この声、それによく見るとこの顔って…セルラだ!
「うおっと!セルラ!?どうしてここに?…ってかちょいと離れて貰って良いか?動けねぇ」
襲われていたのはセルラだった。…それにここは定食屋の近く。
混乱して抱き着いてしまったようで、慌てて謝りながら離れるセルラ。その拍子に何かの匂いがふわっと漂う。
この匂いって…。思い出そうとすると、涼海が叫ぶ。
「群星君!危ない!」
反射的に声のした方を見ると、黒き霧が飛び掛かってきていた。
咄嗟に目を瞑り、防御姿勢を取るも、何も起こらない。
ゆっくりと顔を上げると、金色のオーラを纏った涼海が黒い三つ首の犬や狼のような生き物の首の一つを掴んでいた。
そのまま右後ろに投げ棄てると、そのケルベロスみたいな生物は着地し、こちらをにらむ。
…このケルベロスもどきが黒き霧の正体だったのか。
「涼海!そいつとの戦いは任せた!結衣乃が来るまで倒すなよ?」
「分かってる!」
涼海とケルベロスもどきが戦ってる間にセルラから話を聞くと、どうやらセルラは今日の夜から休みで、俺に禁断の果実を届けた後、自宅に帰る前にあの定食屋で食事をしたらしい。
成る程な。そしてさっきケルベロスもどきに襲われた時、微かに…。
そうか!そういうことか!この事件の真相を掴み、涼海に言おうとすると、「ドロップコンボ・ブリザード!」という結衣乃の声と共に巨大な氷柱がケルベロスもどきに向かって降ってくる。
ケルベロ…もう面倒だからもどきでいいや。もどきはそれを素早く躱す。俺が氷柱の降ってきた方を見ると、そこには結衣乃が居た。結衣乃はこちらに向かってVサインを作って見せると、俺の前に立つ。
俺はセルラに対し早く逃げるように言うと、セルラはこちらにペコリと頭を下げて「ありがとうございます!」と言うと、急いで反対方向へと逃げていった。
「お待たせ〜。さーて!いっちょやっちゃいますか!」
「結衣乃!…合わせ技で行くよ?」
「オッケー、任せて!ドロップコンボ・インパクト!」
結衣乃が水を壁のように生成し、もどきを取り囲む。そして、その水の壁を凍らせる事でもどきの行く手を塞ぎ、そのまま涼海が閃光の一撃を放ち、もどきを氷壁に叩きつけ、消滅させる。…強すぎる。すると、涼海の足元に帰還用魔法陣が出現する。
「剣義!乗って!」
「あぁ」
何事もないかのように魔法陣に乗り、懐から禁断の果実を取り出す。
「何?それ」
涼海が聞いてくるが、返事はせずに禁断の果実に勢いよくかぶりつく。
一気に食べると、一瞬体が軽くなり、力が漲るような感覚を覚えたが、すぐに全身から赤黒い粒子が出て体が消滅し始める。
「む、群星君!!?」
「剣義!?何食べたの!?」
「ぐっ、うう…!」
意識が飛びそうになり、全身が灼けるように痛い。…ヤベーな、あと40秒位だろうけど、持つか?これ?
「ちょっ!剣義!!」
「群星君!」
二人の声が聞こえた後、俺は意識を失った。…気がつくと、俺達は学校に居た。




