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第八話 高すぎるヘイト

 やぁ皆、囮になるためにゴブリンたちの前に躍り出たら普通に無事に帰ってきてそのままディアナに正座をさせられているソウタだよ! そして今、オレの後ろではディアナが「火炎雨(フレイム・レイン)」と叫びながら炎の雨を降らせ、それをゴブリン達がヒーヒー言いながら命からがら避けまくっています。


「チッ、蠅のようにちょこまかと! いい加減当たれ下等生物共!」


「イヤダ、当タッタラ死ヌ! オレタチハ死ニタクネェ!」


(4)ね! 豪炎(インフェルノ・)爆撃(ブラスト)ォォォォォォ!」


「ギャアアアアァァァァァー!!!」


 もうやめて! ここら一体の木のライフはもうゼロよ! これ以上は冗談抜きで山火事になる! せめて火属性以外の魔法を使ってくれ!


劇毒(ヴェノム・)波濤(ウェーブ)!」


「ヒェェアアアアァァァァー!!!」


 ダメだ、ディアナ! 確かに火属性以外の魔法を使ってくれとは言ったがそれは既にライフがゼロになった木たちにトドメをさす魔法だ! なんか樹皮が溶け始めてるよ! というかゴブリンの君たちよく今の避けたな! 生存能力高すぎだろ!


 さて、現状正座をしているオレの後ろではゴブリンの皆々様が必死になってディアナの凶弾、もとい凶魔法から正に一生懸命に避けまくり、周囲の木が巻き添え喰らって死にかけている、というか死体撃ちをされているわけだが、何故こうなったのかを説明しよう。


「ホアアァァァァァ!? 今耳掠ッタゾォ! オレノ耳大丈夫!? 吹ッ飛ンデナイ!?」


「次はその耳の横についてるでっかい顔を吹き飛ばしてやるよぉ! アハハハハハハッ!」


「これ以上はやめろ! 私はこの山を守る精霊! それ以上続ければギャアアアァァァァ!」


「アイエエエエ! セイレイ!? ナンデセイレイ!? セイレイ弱イイイイィィィィ!」


 このとおり後ろでは地獄絵図が繰り広げられているがそれはそれとして説明しよう。ディアナを止めたいところだがここで立てばオレも魔法の標的の一人に早変わりするので無理。ゴブリンたちと同じ状況になるのは嫌なのである。


 はじめにも言ったが囮になるためにゴブリンたちの前に躍り出たオレだが、そこで待っていたのは獲物を見つけていやらしい笑みを浮かべるゴブリンたち、ではなくオレを見てなんでもないという風体を晒しながらも、露骨に集まってひそひそ声で話し合いを始めたゴブリンたちだった。


「ヤベェ、冒険者ダ。逃ゲルカ?」


「イヤデモ上カラ絶対ニ逃ゲルナッテ言ワレタジャネェカ。逃ゲタラ殺サレルゾ」


 この時点で「あれ、なんかおかしいな」という気持ちはあったのだが、待っていても一向にゴブリンが向かってくる気配がないため、近づいてみた。その結果どうだろう、何故かオレはゴブリンたちと共に仲よく酒を飲むことになっていた。


 因みにオレだけは酒ではなくジュースである。これはゴブリンからの差別的なアレではなく、単純にオレは断ったからだ。なぜ断ったかって? 実年齢は分からないがオレの勘が自分がまだ未成年だと囁いたから。


「へー、ゴブリンも大変なんだな」


「イヤイヤ、大変ナノハオマエノ方ダゼ。記憶喪失ナンダロ? ヤベェジャン」


 そんな風に互いに身の上話に花を咲かせていたら、次第に話題はオレがここに来た理由に変わっていき、ゴブリンたちにオレがコウロク草を欲しいときけば、驚くほどすんなりと譲ってくれた。


 彼ら曰く、


「イヤ上カラ『逃げるな、そして戦うな』ッテ、言ワレテテヨォ。コウロク草渡シタダケデ殺サレズニ済ムナラオレラ的ニモ万々歳ナンダ。コウロク草モメッチャ余ッテルシナ」


 因みに、ゴブリンたちが言う上とは、ゴブリンたちとは違う魔物であり、普通の魔物に比べて非常に賢い大きなザリガニのような魔物とのこと。


 そして、ゴブリンたちはその魔物に捕まって逃げられないように首輪をはめられた状態でここで働かされているらしい。俺ではその首輪らしきものは彼らの首には見つけられなかったが。


 コウロク草をゴブリンたちと採取しているときにもちょっとした雑談をした。


「でも驚いたぜ。ゴブリンってもっと凶暴で人を見た瞬間に襲ってくるような奴らだと思ってた」


「実際オレラガ特殊ナダケデ他ノヤツラハソンナモンダゼ? オレタチモ上ニ捕マル前マデハソンナ感ジダッタシナ」


「じゃあなんで今は違うんだよ?」


「ソコハ上ニサレタ英才教育ッテヤツノ効果ヨ。マ、オレラカラスレバタダノ拷問ダッタケドナ。ソレニオレラモ好キデ人ヲ食ッテルワケジャネェ。ココデ働イテレバ食ベ物モ酒モ手ニ入ル。人ヲ襲ッテマデシテ肉ヲ食ベル理由ガネェノサ」


「ほーん。マジで? 性的欲求は?」


「オレラモ一回女ヲ要求シタコトハアル。ソシタラ上ニ全員ノ玉潰サレテ『これで雌が必要な理由はなくなったな』ッテ言ワレタ」


「何それこっわ」


 その時だった。ディアナがこの世全てに絶望し、何も感じなくなってしまった人のような感情の色が見えない無表情で出てきたのは。オレはその顔を見て「あ、やばい」と思ったのだがディアナはオレを冷ややかな目でみているだけだった。


 ただし、次の瞬間にゴブリンが「ワオ、イイ女」と言ったのが全ての始まりだった。その言葉を聞いた次の瞬間にディアナは般若のような形相になり、その杖から繰り出す魔法、いやその威圧でその場を数秒で制圧した。


 そしてオレは「何故ゴブリンなどという下等生物と仲良くしているのですか? あれらを片付けたら説教をするのでそこで正座をしていなさい。立ったらあなたをゴブリンと見なして一緒に殺します」とディアナに言われ、いや脅されて正座をし、ディアナは制圧したゴブリンにトドメをさすために魔法を使い始めて今に至る、という訳だ。


「ぬおおおおぉぉぉぉ! 精霊の底力を見せてやるううぅぅ! これ以上自然を破壊させはせんぞぉぉぉぉ!」


「セ、セイレイー!」


「そこを退けええええぇぇぇぇ!」


 その後もゴブリンが「ア、定時ダ! 帰ルゾオマエラ!」と言って逃げるようにして帰っていくまでディアナと山の精霊の戦いは続いた。息も絶え絶えになって倒れた山の精霊を一瞥した後、ディアナは「チッ、逃がしましたか」と独り言を呟いてすぐにオレに説教を始めた。


 ディアナの説教は小一時間ほど続き、終わった時には既に空は夕方の明るい橙色に変わっていた。女性のゴブリンのヘイト高すぎである。


 ――その帰り道。


「ソウタ」


「……なんでしょう」


「今後一週間私の1ⅿ以内に近づかないでください。ゴブリンの臭いが移る」


「……風呂で体をしっかり洗っても駄目ですか?」


「ダメです」


「はい……」

【次回予告】

 女性のゴブリンに向ける高すぎるヘイトに恐怖し戦慄したソウタと山の精霊をボコボコにしたディアナ。次回はこれまでと違う一風変わった街での日常のお話。ソウタは一人の少女と出会い、その少女の猫を探すことになる。

 次回ファンタジー化した地球の日常、『とある日曜日の日常』! えへへ、ありがとうソウタお兄さん!

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