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第七話 初めての採集依頼

 木曜日、ACホースを討伐した次の日。その日のオレたちは昨日の夜に調べ尽くしたFランク帯の魔物の中でもACホースのような運次第で死が襲いかかってくるような要素がない魔物の討伐依頼を2つ受け、どちらも完了させた。


 冒険者として生きていくなら毎日最低でも3つ以上は依頼をこなさなければならないとは言ったが、それは普通の生活をするならば、の話である。食費などを極限まで削れば毎日1つずつでも生きていく事はできる。オレもディアナも流石にそれは嫌なのでいつの日か毎日3つずつ片付けられるようにはしたいところだが。


 そして場面は変わってギルドで金を払って軽くシャワーを浴び、昨日と同じ場所で夕飯を食べているときのこと。ディアナがふと思いついたようにオレにとある提案をしてきた。


「ソウタ、明日採集依頼をやってみませんか?」


「採集依頼? 副業冒険者しか行かない報酬マジキチハイキング系依頼とか言われているあの採集依頼ですか?」


「はい、その採集依頼です」


 採集依頼とはその名の通り自然に生えている植物やキノコ、そして虫などを集めるような依頼だ。慣れた人でも最低でも半日は消費する上に、報酬自体も大半が狩猟依頼と同等かそれ以下。完了にかかる時間に報酬が割り合わないので、冒険者を副業でやっているような安全に小金を稼ぎたい人しか受けないような依頼だ。


 それに、もしも報酬が普通の狩猟依頼よりも高かったとしても、その採集依頼を一つ完了するまでにかかる時間で狩猟依頼を複数完了させたほうが金を稼げるという場合が多いのでますます普通の冒険者は採集依頼を受けなくなる。


「なぜ唐突にそんな依頼を?」


「一回くらい受けておいたほうが今後なにかに役立つかもしれない、というのは建前で本当の理由はどのような感じなんだろう、という好奇心ですね」


 何も考えてなさそうなのほほんとした表情でディアナがそう言う。昨日も同じような顔でACホースの依頼を勧めてきてたが大丈夫だろうか。また死の危険がある依頼に無意識の内に脚を踏み込もうとしてたりしてないだろうか。


 そんなオレの考えを疑わし気な表情を見て察したのか、ディアナは少し不機嫌そうな表情をする。


「昨日のように危険な依頼を受けようとしているわけではないから安心してください。昨日とは違ってちゃんと危険度や注意点などは調べておきましたし」


「ふーん……」


 そこまで言うなら大丈夫なのだろう。そもそも、副業冒険者が進んで受けるという時点で採集依頼は安全性の塊だ。そこまで気に負うことはない。


「まぁ、ちょっとした気分転換って思えば確かに……じゃあ明日は採集依頼を受けますか」


「ふふ、決まりですね」




 そして当日。オレたちは朝一に冒険者ギルドで手頃な採集依頼を受け、ちょっとした準備をしてから出発した。目的地はエルヴィン平野を超えた先にあるゲルス山脈の山々の内の一つ。


 このゲルス山脈もエルヴィン平野と同じで地球には元々なかった異星由来の土地だ。その特徴としてはやはり山脈の内部に入っていけば行くほどそこに住み着く魔物の危険度が上昇していくところだろう。


 山の麓の、少し傾斜が急な森のような地点ならばまだ初心者冒険者にオススメできる程度のものだが、その内部である山岳地帯に入ればそこから先はD級やC級の魔物が彷徨く危険地帯と化し、更に奥、ゲルス山脈の深山幽谷へと脚を踏み入れれば最高ランク帯の魔物がゴロゴロいる超危険地帯となっている。


 今までも何グループかの冒険者が最深部に入った事があるらしいがその大半が全滅、あるいは生き残った者たちも腕や足を失っていたり、ほぼ再起不能の大怪我を負っていたりと五体満足で帰ってきた者は一人も居ないのだとか。


 閑話休題。


 もちろんオレたちが向かったのは一番最初に言った山の麓の領域である。その奥に行くなんて冗談じゃない。そんな所に行けばオレたちの実力なら普通に死ぬ。


 そして、採集依頼自体は順調に進み、指定されていた植物も最後の一つを除いて全て集まった。これも全てディアナの下調べのおかげである。昨日からここに行こうとして色々調べておいたらしい。どこか抜けているところはあるがこういう所は頼れる人だ。


 だが最後の植物を採集する際に問題が生じた。


「……いますねぇー、魔物。それも結構な数が」


 押し殺したような小さい声でオレが呟く。最後の指定された植物、コウロク草の群生地を多数の魔物が占拠していた。


「どうしますディアナさん。他の群生地を探しますか?」


「いや、それは時間的に厳しいでしょう。コウロク草の生育条件は非常に厳しいんです。だからその群生地を見つけるのは最低でも1,2時間はかかるでしょう。そんなことをしてれば夜になってしまいます。そうなれば採集どころじゃありませんよ」


「じゃああの魔物をどうにかするしかない、と?」


「……そうなります」


 オレの発言を肯定しながらもディアナは苦虫を嚙み潰したような表情を顔に浮かべる。その理由は丁度今群生地を占拠している魔物達にある。


 それらの魔物達の名はゴブリン。そう、よくゲームや創作小説で登場する緑色の肌を持ち、小さく弱いが狡猾で卑劣と描かれるあのゴブリンである。実際には違う点もあるのだが、あまりにもそういったイメージと合致しすぎて同じ名前で呼ばれている魔物だ。


 そして、ディアナが苦い顔をしてそんなゴブリンを睨んでいる理由はゴブリンが好んで女性を襲う点にある。そこら辺もイメージぴったりだ。


 某ゴブリンをスレイする物語レベルの残虐性は持ち合わせていないが、人を捕まえれば普通に食べるのでこの世の全ての人間から憎まれている。その上、やつらはオスしかいないため他種の霊長類のメスを犯して繁殖するので、世界の女性からのヘイトは異常なくらい高い。


 その証拠にディアナが親の仇でも見つけたかのような憎々し気な形相で睨んでいる。先程チラッと横からその鬼のような顔を見て、思わず小さな悲鳴を上げてしまった。正面からあの表情で睨まれたら人によっては恐怖のあまり気絶してしまうかもしれない。


「普段の私ならあんな下等生物今すぐに殲滅しているところなんですけど……」


「ここで無暗に戦闘でもしたらオレらの目的の物まで全滅しそうですからね」


 ゴブリンは周りのことなどまるで考えずに戦う。よって、ここで戦えばコウロク草の群生地が大変なことになるのは確定なのだ。だから、どうにかして戦う場所を変えなければならない。ならばオレがやることは一つ。


「ディアナさん」


「なんですか?」


「俺が囮になってゴブリンを引きつけます。だからその間にコウロク草をどうにか採取してください」


「はい!?」


 ディアナが大きな声を上げて驚き、慌てて口に手を当てた。幸いなことにゴブリン達はオレたちのことには気づいていない。


「正気ですか? ゴブリンは一匹一匹は弱いものの、集団となればかなりの脅威になります。初心者が弱いと油断してゴブリンの群れに挑んで死亡なんて話はよくあることなんですよ? そのことを分かって言ってるんですか?」


「もちろん。一昨日二人で調べたばっかなんでそこら辺は十分に理解してますよ」


「じゃあなぜ!」


「どうせここであーだこーだ言ってても状況は変わらないでしょう? なら何か行動を起こすべきだとオレは思いますよ。それともディアナさんはもっといい案があるんですか?」


 オレがそう言い返すとディアナは「うっ」と言って口をつむぐ。まぁ、ある訳ないよな。あるならもうとっくのとうに言っているだろう。


「じゃ、行ってきます。武運を祈ってますよ!」


「あ、待って……!」


 そう言って、オレはゴブリンの群れの目の前へ飛び出した。








 その数分後。


 ディアナが杖の先端を火属性の魔法で赤く光らせながら突き刺さすような冷酷な視線でオレを見下し、そして見下されている当本人であるオレはコウロク草がいっぱい入った粗末な籠を抱えた状態で彼女の前で正座させられていた。


「ソウタ」


「……はい、なんでしょう」


「何故こうなったのか説明しなさい。事と次第によってはここであなたを殺します」


「ヒッ」


 今の恐怖に満ちた短い悲鳴はオレのものではない。後ろでオレと同じくディアナにひれ伏している方々のものである。


「黙れ下等生物共。もしも次私の前でその口を開けば原型が無くなるまで殺し尽くす。いや、やっぱ今殺す」


「ヒエ~!」


 そして、オレの後ろではコウロク草の群生地を占拠していたゴブリン達が五体投地に近い体勢でディアナに恐怖し(おのの)いていた。

【次回予告】

 採集依頼に来て、最後の最後にゴブリンの群れをどうにかしなければいけなくなったソウタとディアナ。だけど最後、なんか様子がおかしいな? さて、何があった!


 次回ファンタジー化した地球の日常、『高すぎるヘイト』! これ以上、自然を破壊するなぁぁぁ!

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