第五話 すっげぇ晴れやかな気分だぜ
「いやホントスミマセン私思ったことすぐに口にしちゃうサバサバ系の女子でしてこういう所自分でも悪いなーとは思ってるんですけでどやっぱ直せないものは直せないんですよいやまぁ私も直そうとは思ってるんですけどだから上に苦情を送るのだけはご勘弁をお願いしますいやホントマジで」
「あぁうん、分かった。だから早く冒険者登録を――」
「私は許しませんよ下郎。絶対にギルドにあなたの苦情を送らさせてもら――もごっ」
「うん、一旦ディアナさんは黙っててください。話が一向に進まないので。さぁはやく冒険者登録をしてくれ」
なんか色々言おうとしたディアナの口を物理的に塞いで自称サバサバ系女子の職員に早く冒険者登録をするように促す。
「いーや、今の私はやりませんよそこの男の人。私に冒険者登録をさせたいならまずはそこの外国人が上司に私のことを報告しない事を約束させてもらおうか!」
「おう、さっさと冒険者登録しないとテメェの上司に苦情送り付けんぞ」
「スミマセン今すぐやります」
〜〜〜〜〜〜
「まず冒険者になるならばこの書類に個人情報を書き込んでください。ただ、今書き込むのは横に赤色の米印が書かれている欄だけで大丈夫です。その他の情報は書いておいたら便利というだけですし、後でギルドから渡されるギルドカードと呼ばれるデバイス上で変更できるますので。それと……」
開いた口が塞がらないとは正にこういうことを言うのだろう。業務に勤しみ始めた途端に自称サバサバ系女子の職員が打って変わって真面目な口調になり怠け者のダメ人間の雰囲気から清楚な女性という雰囲気に変わった。常日頃からその状態で仕事をすればいいのに。
「あの、早く記入してくれないっすか? 私が激カワサバサバ系女子から激カワ清楚真面目女子に変わった驚きは分かりますけどこっちも定時までの休憩時間がかかってるんすよ」
いや、やはりダメ人間だった。危うく雰囲気に呑まれてこの女をやればできる奴と勘違いするところだった。そうだ、この女はダメ人間、ダメ人間……怠け者のダメ人間……
「そこの男の人、今めっちゃ失礼なこと考えてるっすよね? 女子の勘は騙せないっすよ」
「安心しろ、事実を再確認しているだけだ」
「あれ、そうっすか。ただの勘違いでしたか」
そんな会話をギルド職員としながら必須項目に記入していく。というか必須項目氏名だけじゃないか。本当にこれだけでいいのか?
「はい、書き終わりましたよ」
そんな事を考えていたらディアナさんは書き終わったようでギルド職員に渡された用紙を返している。
「うわ、必須事項以外にも書き込んでるじゃないっすか。私ここだけでいいって言いましたよね?」
「チッ」
ディアナが遂に舌打ちをした。女性がしてはいけないような憎悪にまみれた表情をしている。そんな表情をしていても彼女の美しさが損なわれていないのもすごいところだが。
名前も書き終わったしオレもさっさと出そう。記憶喪失のせいでそれ以外書けないし。
「え、マジで名前以外書いてないじゃないっすか。なに? そんなに秘密主義なの? 怪しすぎるっしょ。信じられねー」
「あ?」
思わずかなりドスの聞いた声が口から出た。そこしか書くなと言ったのはお前だろうがよ、と言いたくなるがぐっと堪える。ここで言い返したらまた長くなる。しかしこんなに気に障る相手は初めてだ。ディアナが舌打ちをしたのも頷ける。
「はー、今日は碌なやつが来ませんねー。片方はいらんところに記入して私の仕事増やすし、もう片方は秘密主義だし。こんな奴らに絡まれる私が可愛そうっす」
我慢。我慢だ。今すぐこの高慢な職員の顔を思いっきりぶん殴ってやりたいがそんなことをすればこいつに訴えられて慰謝料を払わされる。借金は絶対に作りたくない。
ディアナに至ってはもう下衆を見るような目でギルド職員のことを文字通り見下している。よく見たら杖の先が微妙に光っている。もう爆発寸前である。
そうやってオレとディアナが怒りを堪えている間にギルド職員の仕事とやらは終わったらしい。ガラスのような平たい透明のデバイスを持ってきて、そのデバイスを面倒くさそうにカウンターに放り投げるとこれまた面倒くさそうにオレたちに向けて犬や猫を追い払うようにしっしと手を振った。
「ほら、出来たっすよ。さっさと持ってって私の前からどっか行くっす。私にはまだ捌かないといけない人たちが居るんっすから。ほら消えた消えた」
我慢の限界だ。これ以上我慢したら体に悪い。もうディアナの杖も彼女の怒りを表すように強い光を放っている。彼女もどうにか堪えているがそろそろ限界だろう。
「おい」
「おい」
「ん? まだなんか用っすか? なんかあるならさっさと言ってどっか行ってください」
奇跡的にディアナとハモる。だがそんな事に気がつくことなくなくオレとディアナはオレたちの怒りに気づかない職員に向かって、揃って同じことを言い放った。
「ギルドにはしっかりテメェの苦情を送らさせてもらうからな」
「ギルドにはしっかりあなたの苦情を送らさせてもらいますね」
「エッ!? ちょ、待つっす! 私何もしてないっすよ! ちゃんと仕事したっす! あ、私の言動が原因なら謝るから待ってぇ! お願いだから上に報告だけはやめてぇっ!」
そんなことを悲痛な表情で言って騒いでいるギルド職員には目もくれずオレ達は同じように口を三日月型に歪ませた笑みを浮かべる。
「いやぁディアナさん、悪を成敗する瞬間はさぞかし気持ちいいんでしょうねぇ!」
「アハハッ、全くそのとおりだと思いますソウタ! きっとこれ以上ないくらい清々しい気分でしょうよ! さぁ行きましょう! 悪を滅しに!」
そうしてオレたちは二人揃ってあのウザったらしい職員の発言、そして態度をギルドへの苦情や改善点を募集しているカウンターに居た職員さんに事細やかに通報してやった。
その職員さんもオレたちが言ったことを聞き終わったときにはスンッとした表情のない顔になっており、その感情の色が見えない表情のまま上の階へ上がっていった。きっとあの職員のことを上に報告しに言ったのだろう。
ざまぁみろ。
【次回予告】
悪しき自称サバサバ系ギルド職員を通報して勝利の余韻に浸るソウタとディアナ。そして二人は宿代と飯代を手に入れるため早速依頼を受けることにする。そしてその依頼の中で二人がみた衝撃の光景とは!
次回ファンタジー化した地球の日常、『立った、〇〇〇が立った!』! ヒヒーン!