第四話 冒険者ギルドの日常
冒険者ギルドへ向かう道中で狐耳の魔法使いとその時まで忘れていた自己紹介をした。どうやら狐耳の魔法使いの名前はディアナというらしく、彼女は地球の医学を学ぶためにこの街まで来たらしい。彼女によるとここでは定期的に異星人だけに向けた医術の講座があるのだとか。
それ以外にも他愛ない雑談をした。例を上げるとなぜ就職先に冒険者ギルドを選んだのかなど。
「冒険者ギルドを選んだ理由? それが一番私に向いてると思ったからですよ。面倒な書類なんかを用意する必要がありませんし、なにより魔物を討伐するだけでお金が稼げるんですから」
「え、私が金欠な理由ですか? 単純に日本に来てから物珍しいものがありすぎて片っ端から買っていたらいつの間にか財布の中にあったお金が無くなっていたからですけど?」
「え、こっちの道は冒険者ギルドとは真反対? うっそだ〜、だって地図にもこっちだって……あ、ホントだ」
そして、その会話の中でディアナが思った以上に大雑把な性格だということが判明した。ついでに極度の方向音痴。地図を持ってるのに全ての分かれ道で目的地とは真逆の道に進もうとしていた時は驚いたよ。
「あの、まだ着かないんですか? もうそろそろ歩き始めて10分ほど経ちますけど。まさかあなたも迷ったりなんかしてませんよね?」
そう言ってディアナがオレに如何わしそうな視線を向けてくる。
「……いや、10分も何もオレたちが出発したところから冒険者ギルドまでは最低でも40分はかかりますけど」
「えぇ!?」
オレが返答を聞いたディアナが素っ頓狂な声を上げて驚く。はて、そんなに驚くようなことだったか。
「う、嘘です! 私が最初に道を聞いた人は10分くらいで到着すると言ってましたよ! それから30分も歩いて到着しなかったのは我ながら方向音痴だとは思いますが少しくらい時間は縮まっていていいはずです! それが何故四倍にもなっているのですか!」
「それ、単純にディアナさんが冒険者ギルドと真逆の道を延々と選び続けていたからでは?」
「う、うぐ……」
普通の人なら考えられないがこのディアナならやりかねない。その証拠に彼女自身も「うぐ」なんて言って反論できていない。そこはなにか言い返そうよ。
それからやはりディアナが全ての分かれ道で間違った方を選び、ディアナが食べ物の匂いに釣られてはぐれそうになったりと色々なことがあったがどうにか冒険者ギルドに到着した。ディアナがまるで冒険者ギルドにたどり着けなかったのも納得である。あのレベルの方向音痴とマイペースさじゃ10分では絶対にたどり着けない。冗談抜きで一日くらいかかりそうだ。
そして、どうにかこうにか冒険者ギルドに到着した際に冒険者ギルドの建物を見たディアナの一言がこちら。
「ほえ〜、これ本当に冒険者ギルドですか? 私の思っていたのと百八十度違うのですが」
かなり酷い言い草だがそう思ってしまうのも理解できる。やはり冒険者ギルドといえばよく漫画で目にする中世の酒場のような場所を想像するだろう。実際オレも最初にこの建物を見る前まではそうだった。
「たっか。まるでトーキョーの高層ビルですね」
そう、冒険者ギルドはそんな中世の酒場とは真反対の綺麗な高層ビルなのだ。結構大きな組織なので現代だとこれくらいの規模になるのは分かるのだが、何も知らずに行くと想像と違いすぎて違和感がすごい。
しかも中には気軽に入れるレストランや小洒落たカフェ、そして大人の雰囲気のあるバーなどの飲食店から書店や銭湯、挙句の果てに映画館まであるという充実っぷり。さらに言えば上の階に行けばそこには部屋の中にあるのはベッドとタンスだけだがその代わりに死ぬほど安いホテルがある。正に至れり尽くせりである。他の企業でもここまでのものは早々見つからないだろう。
ただ、それだけ冒険者という職業が金を儲けやすくそれと同時に死亡率が極端に高いという証拠でもある。冒険者はほぼ毎日魔物との死闘を何度も行う。つまりそれだけかかるストレスも多くなるというわけだ。流石に彼ら彼女らも何もないときには存分にくつろぎたいのだろう。
「それでは冒険者になるとしましょう。受付カウンターはきっとあそこですよね?」
先程まで呆けた面を晒していたディアナがオレの手を引っ張ってギルド内のとある一点を指差す。
そこは一階の中央であり、そこでは円形のカウンターの中でギルドの制服を着用した職員たちがせかせかと働いている。
そしてその円形のカウンターの一角、上に『冒険者の登録の方はこちら』と書かれた看板があるカウンターで眼鏡をかけたショートカットの女性の職員が肘をつけて面倒くさそうに列になった冒険者希望者を捌いていた。
「まぁ、十中八九あそこでしょうね」
「えぇ、それじゃあ早速私達も列に並びましょう!」
列に並んで数分ほど待てば直ぐにオレたちの番が来る。そして未だにカウンターに肘をつけている職員はオレたち、いや正確にはディアナを見た途端顔をしかめた。
「うわっ、外国、しかも異星の方の国からの登録者かよ。クソ面倒くせぇー」
「ソウタ、今すぐこの高慢な職員に魔弾を撃ち込んでもいいですか? いや、撃ちましょう」
「やめてください」
普通に失礼な職員の発言にキレたディアナがニッコリと笑って杖を構えて魔法を行使しようとしたので宥めて止めさせる。この人見た目に反して結構感情的だ。
そして失礼な職員の方に目を向けると手をなにかのボタンをすぐに押せる位置に置いて固まっていた。そしてすぐに顔をオレに向けてキッと睨んでくる。なんかオレ悪いことしたか?
「ちょっと何止めてるんすか! その外国人が私に手を出してれば訴えて慰謝料とか貰えたのに!」
その発言を聞いてオレとディアナが目を見合わせる。先に口を開いたのはディアナだった。
「撃ちます?」
「いや、ギルドにこいつの苦情を送りましょう。きっと愉快なことになりますよ」
「舐めた口きいてスミマセン許してくださいちゃんと真面目に仕事します」
【次回予告】
無事に冒険者ギルドに到着し、早速カウンターへ向かったソウタとディアナ。しかしそこに待っているのはただただ失礼な職員だった。そしてその失礼でウザったらしい職員の発言の数々がソウタとディアナに襲いかかる!
次回ファンタジー化した地球の日常、『すっげぇ晴れやかな気分だぜ』! あなたを侮辱罪と人を苛つかせた罪で訴えます! もちろん理由はおわかりですね?