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第三話 決断

「えーと、つまりあの三人のチンピラと異常者に襲われて命惜しさに財布を差し出した、と言うことですか?」


「……はい」


「それ、自業自得では?」


「分かってますよぉ……分かってますよそんなことはぁ!」


 そう言いながら歯ぎしりをして地面を叩く。もともと全財産と言ってもほぼ尽きかけていたがそれでもオレの生命線だった。それがごっそり全て無くなったわけだ。あんな状況だったから仕方なかったとは言え悔しいものは悔しい。助かると分かっていたら絶対に渡さなかったというのに。


 だがもう過ぎたことを後悔しても何かが変わるわけでもない。それよりも先のことを考えよう。


「ははっ、これからどうしよう……」


 そして少し先のことを考えて出てきた言葉がこれである。よく考えてみれば今のオレの状態は最悪だった。正にお先真っ暗というやつだ。


 そこに狐耳の魔法使いがオレを慰めるようにして優しく肩を叩きながら話しかけてくる。


「ま、まぁお金なんて大変だとは思いますがまた稼げばいいんです。仕事をしているならすぐに集まりますって!」


「グハッ」


「えぇ!? どうしました!? 私なにか失言でもしましたか!?」


 だがその慰めの言葉は返ってオレの心に刃となって突き刺さる。たしかにそうだろう。ちゃんとした社会人ならばこのくらいのことならばかなり落ち込むだけでまだ修正が効く。だが、オレに限って言えばそうではないのだ。


「オレは、無職です……!」


「え……!」


 狐耳の魔法使いが口に手を当てて悲劇的な物語を見たような悲しげな表情をする。だが、それでもなんとかオレを慰めようとして若干歪んだ笑顔を顔に貼り付けてさらに話しかけてくれる。


「で、でも! 仕事がないなら就活をすればいいじゃないですか! この辺りには結構な数のお店がありますしやればきっと一つは受かりますよ!」


「既にもうやりました。そして全部落ちました、うへへっ」


 また狐耳の魔法使いが口に手を当てて先程と同じような表情をした。ただ、直ぐにオレを慰めようとするがかける言葉が見つからずに口をパクパクさせて手をあたふたとさせるだけで終わる。


 しかし口にすると本当に笑い物にならない状態だ。金もない、仕事もない、就活先もない。よくもまぁここまで自分を追い込めたものである。余りにも絶望的すぎて乾いた笑い声を上げてしまった。


 そのタイミングで狐耳の魔法使いが気まずそうに話しかけてきた。


「あ、あのこういう事を聞くのはダメだとは分かっているのですが……なぜ落ちたのかを伺っても?」


「……単純に経歴です」


「経歴? 学歴などが悪いとか中卒とかですか? それでいてもどこかは雇ってくれそうなものですが……」


「いや、そんなんじゃなくて普通に経歴が無いんですよ」


「経歴が無い? そんなことあります?」


 怪訝そうな顔をして狐耳の魔法使いがそう質問してきた。確かに当然といえば当然の疑問である。この世に自分の経歴が分からないものなどそうそう居ないだろう。


「いやー、実はオレは記憶喪失というやつでして。気づいたらこの街に居た事と自分の名前以外何も覚えていないんですよねー」


「うえぇ!? 記憶喪失ぅ!?」


 すごい驚きようだ。珍しいのは分かるがそこまで驚くものだろうか。リアクションが良すぎてこっちまで驚かされた。「記憶喪失、初めて見た……!」とか「頭の中どうなってるんだろう、見てみたい……!」などとぶつぶつ言っているが気にしない。


「自分の家も親も分からないし、さらにオレを知っている人さえ見つからない。その上過去何をしていたか分からないから就職するにしても経歴に何もかけなくてマトモなところは『信用できない』って取り合ってくれないんですよねー」


 最初はオレの話よりも記憶喪失という状態の方に興味津々、というキラキラした表情を浮かべていた狐耳の魔法使いだったが、オレの話を聞くに連れて次第にその顔も真面目なものへと変わっていき、割と真剣にオレのことを考えている事がわかる。オレを助けてくれたり気を使ってくれたりと、本当にいい人なんだ。困っている人を見たら助けないと気が済まないのだろう。


「あの、先程助けたお礼に一つ頼みがあるって言いましたよね、私」


 オレの話をうんうんと頷きながら真摯に聞いていた狐耳の魔法使いだったが、突然途中でオレの話を手で止めてどこか悩むようにしながらそう言った。


「あぁ、あの妙に恩着せがましかったときの……今まで話して分かってると思いますけどオレが出せる金はありませんよ」


「いや、確かに恩着せがましかったのは認めますが別にお金を取ろうとしてたわけじゃありませんからね」


 そうだったのか。じゃあ何を頼もうとしていたんだろう。そしてそんなオレの考えに答えるようしてに狐耳の魔法使いが言葉を紡ぐ。


「案内役を頼みたかったんですよ、冒険者ギルドまでの。流石に知ってるでしょう?」


「まぁ、それくらいなら……」


 冒険者ギルド。異世界物のラノベなら必ずと言っていいレベルで見かける組織。詳細はその小説小説によって違ってくるが、どれも一貫しているのが魔物を倒したり植物や鉱石などを集めたりして日銭を稼ぐ、いわば傭兵もしくは便利屋のような組織。


 そして、魔物と言える生物は今の地球にも存在する。魔物と言っても元から異星に生息していた種だったり地球の生き物が魔力を取り込んで突然変異した種だったりと細かい分類があるのだが今はそこは割愛しよう。


 重要なのは魔物と言える生き物がいるので冒険者ギルドもまた今の地球には存在しているということだ。


「実のことを言うと私も金欠で仕事を探していまして。そこで就職先に冒険者ギルドを選んだわけですが、同じような境遇ならあなたも一緒に冒険者になりませんか? ついでに言えばあそこは常に人材を求めているので経歴とか関係なく雇ってくれますし」


 そう言われてオレは手を顎に当ててどうするか悩む。冒険者、実際オレも一度就職先の候補に入れてはいた。理由は狐耳の魔法使いが言ったように経歴など関係なく雇ってくれるから。ただし、その危険度を知った途端候補から外したが。


 冒険者は魔物と戦う。勿論それ以外の依頼も存在するが冒険者だけで生計を立てていくならば魔物の狩猟をこなすのが一番だからだ。逆に、冒険者を副業で行っている者は狩猟系の依頼ではなくよく採集系の依頼を行う。


 話がずれたが、魔物との戦闘は常に命がけである。最低レベルの魔物でもその強さは獅子一頭に匹敵するという。今まで戦闘なんてものからは無縁だった人間がある日突然獅子と対決して勝てるだろうか? オレの答えは勿論ノーである。


 そして狩猟系の依頼ではそう言った魔物を複数頭狩らなければならない。そして一日に最低でも3回はその類の依頼をこなさなければ冒険者で生きていくのはほぼ不可能。冒険者という仕事は非常にキツイのだ。


 だが、もうそれ以外に選べる職が無いのも事実。それに今行けばこの狐耳の魔法使いとパーティーを組めるかもしれない。だとしたら話は変わってくる。この人は戦える。それは先程の魔法を見れば分かること。この人と同じパーティーを組めるなら生存率はグッと上がる。


「で、どうです? 決まりました? あ、冒険者にならないとしても案内はしてもらいますからね」


 狐耳の魔法使いがそう問いてくる。まぁ、最初から答えは決まっていた。どうせここでノーと言ってもブラックな企業に入るか、先程のチンピラの仲間入りをするかの二択だったのだ。ならば選ぶ道は唯一つ。


「なります。オレも冒険者になります」


 狐耳の魔法使いの目を真っ直ぐ見てオレの答えを告げる。


「そうですか、よかったです。一人では少し不安だったので。それじゃあ冒険者ギルドへの案内はよろしくおねがいしますね」


 そしてそれを聞いた彼女は穏やかな笑みを浮かべてそう言った。

【次回予告】

 ディアナと色々話した後、冒険者になることを決めたソウタ。物語は動き出す、ついに魔法とケモミミ以外のファンタジー要素の登場だぜぃ! さて、ソウタ達は無事に冒険者になれるのか!? あ、今西野山ジョニーが全裸で窓から投げ捨てられた!


 次回ファンタジー化した地球の日常、『冒険者ギルドの日常』! 私は方向音痴じゃない! 信じてください!

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