第二話 やつらは大切なものを持っていきました
「一人に寄って集って何をしているのですか! その人から離れなさい!」
凛とした女性の声が裏路地に響き渡り、そこにいた全員が思わずその方向を見る。
そこに立っていたのは金属製の杖をこちらに向けて構え、白に金色の刺繍がなされたローブを羽織りフードを被った、いかにも魔術師のような見た目の人物だった。また、そのフードの側頭部にはそれぞれ一つずつ穴が空き、そこから水色の狐耳のような特徴的な耳が飛び出していて、フードの隙間から束ねられた水色の髪が顔を覗かせていた。
それを見た痩せた血狂い異常者とデブの服裂き異常者は明らかに動揺したように体を震わせ顔を見合わせる。
「ど、どうするでござるか! 魔法使い系水色ケモミミ娘が来たでござる! 流石に拙者でも女性の服を切るのはちょっと……」
「お、オレも女性と刃を交えるのは、ちょっと……///」
なんでお前らそんな部分だけマトモなんだ。あと血狂い、赤面するな。手と手を握ってもじもじするな、気持ち悪い。
「あ、そういえば西野山ジョニー君が気絶していたでござる! やはり役立たず! 拙者たちで運びその服を全て切り裂き人往く道のど真ん中に全裸で放り投げなければ!」
「ナニィ!? ジョニーめやはり役立たずかぁ! ここから撤退しお前が起き、さらに全裸で人往く道のど真ん中に放り込み俺たちの元へ帰ってきた暁には瀕死になる程度まで貴様の血を抜き、その血をオレの血液コレクションに加えてやるぞジョニー!」
酷い言われようだ。とても酷い扱いだぞ西野山ジョニー! 本当にお前この異常者二人のリーダーなのか!? 忠誠心とかまるで無いぞ西野山ジョニー! 今すぐその二人から逃げるんだ西野山ジョニー!
そんなことを心のなかで思っていると、異常者二人にそれぞれ片足を持たれて西野山ジョニーは運ばれていった。
二人で腕と脚を持たれて浮かんだ状態で運ばれるのではなく、片足ずつ持たれて引きずられていったのもそうだが、仰向けではなくうつむけの体勢で顔をズルズルと引きずられながら運ばれていった点にも西野山ジョニーの扱いの酷さがよく現れていた。あれは絶対に起きたらしばらくの間顔の痛みで悶絶するやつだ。可哀想に西野山ジョニー。南無阿弥陀仏。
この後ジョニーがどのような目に合うのかを想像しながら運ばれていくのを見ていると後ろから魔法使いの人が澄んだ綺麗な声で話しかけてきた。
「大丈夫ですか? 怪我とかありません? もしあるなら言ってください、治療するので」
「あ、大丈夫です。それよりも助けてくれてありがとうござい……」
そう言いながら振り向いて固まる。狐耳の魔法使いは覗き込むようにしてオレを見ていたのだが、その体勢のせいで先程までフードに隠れていた素顔が見ることができた。
非常に綺麗な人だった。穏やかそうな印象を与える少しばかり目尻が下がったトパーズのような金色の輝く瞳に、小ぶりな唇。痩せすぎでも太り過ぎでもない滑らかな曲線を描く輪郭。まるで人形のように整った顔立ちに思わず息を呑む。
そんなオレの心情など狐耳の魔法使いが知る由もなく、彼女はそのままオレに語りかけてくる。
「無事ならよかったです。しかしあんな輩に襲われるなんて災難でしたね。偶然私が迷っ……通りがかってよかったです」
「今迷った、って言いそうに――」
「いや迷ってなんかいませんから。近道しようとして裏路地に入ったら道が分からなくなったりなんてしてませんから。いいですね?」
そう言って狐耳の魔法使いがニッコリと笑った。何故だろう、ただ笑っているだけなのに威圧を感じる。
「そ、それよりも怪我がなくて本当によかったですね! これは私に恩を感じてくれてもいいのではないでしょうか!」
「え、あぁ、まぁそうですね?」
「そうです、恩に着ってください。着りまくってください!」
なんだろう、急にすごく恩着せがましい。それにさっき話している時はずっとオレの目を見ていたのに今は見ていない。怪しい、とても怪しい。
金でも取る気か? あれ、金と言えば……
「そ、そこで助けたお礼に一つ頼みたいことがあるのですが……ど、どうしました? 急に膝をついて蹲ったりして……あ、もしや先程の輩にやはりなにかされていたんですか!?」
「違う……違う、そうじゃない……」
「え、違う? じゃあなんでそんな風に頭を抱えているんですか。しかもまるで地獄に落とされたような顔までして……」
「有り金全部持ってかれたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その日、裏路地にオレの叫び声が響いた。
【次回予告】
魔法使い系水色ケモミミ娘の手で異常者二人の魔の手から救われたソウタ。だが、ソウタは気づいてしまった。自分が失ったものを、そして自分の致命的な点を。色々と悲しい事実がソウタを襲う!
次回ファンタジー化した地球の日常、『決断』! さらば西野山ジョニー! どんな目に遭おうと強く生きてくれ!