第一話 プロローグ
西暦2023年、地球は異世界の惑星と融合した。何故そんな現象が起こったのかは未だに不明。今も学者の皆様が真相を追っているが理由、そして過程の解明には程遠く、実際ほとんど何も分かっていないらしい。
だが、その融合のせいで地球の環境は大きく変わった。まず、単純に地球の表面積が増え、さらに体積が増加した。詳しく言及すれば、地球と異世界の惑星――今後は異星と呼ぶ――をランダムな大きさで同じくらいの数に分け、それを適当にくっつけた状態になったらしい。
おかげで地理はメチャクチャ、元々あった地図の大半が使い物にならなくなり、異惑星の住民や原生物との争いなんかも起きたのだとか。
また、もう1つ地球にとって大きな変化があった。
それが魔力。異世界もののラノベや魔法系の漫画なんかでよく出てくるあの魔力である。そう、異星には魔力が存在し、魔法が使えた。異星との融合後には地球の住民も魔法が使えるようになり、地球の住民は揃って大喜びしたという。まぁ、オレは使えないのだが。
その後5,6年ぐらい異星人と地球人での戦争があったりしたのだが、それも様々なことがあって最終的には終戦宣言が行われて平和な時代が訪れた。今や地球人の街に異星人が歩いている光景を見るのも日常茶飯事である。
そして、今解説した歴史とは全く関係ないのだがオレ、春宮聡太はとある裏路地の一角にて絶体絶命のピンチに陥っていた。
逃げ場所なんてどこにもない行き止まりでオレをここまで追い詰めた3人のチンピラの内、リーダー格である金髪の男がニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながらオレに近づいてくる。
「言っただろぉ? 逃げても無駄っだってよぉ……オレたちはいつもこの裏路地で人の財布を貰ってんだ。そう簡単には逃げられねぇよ……へっへっへ」
ここでオレを追い詰めた愉快なチンピラ三銃士を紹介しよう。
その一、今オレに話しかけてきたリーダー格の金髪。常に3人の真ん中に立っている男であり、オレの前に現れた時に「へへへ、兄ちゃん。財布だしな」と言いながら持っていたナイフを舌で舐め、次の瞬間には舌を切って悲鳴を上げていたアホだ。
その二、オレから見て右の方に立っているガリガリに痩せた不気味な男。オレの前に現れたときにはまるで辻斬りのようにナイフを鞘から抜きながら「血を、血を見せろ……」と言ってきた異常者である。
そして最後の一人、左側に立つ小太りでメガネを掛けていて何故か常に鼻息が荒い素直に気持ち悪い男。他の二人と同じ様にオレの前に現れた時は「デュフフ、拙者がその服を切り裂いてやるでござるよ」と言いながら懐からナイフを取り出していた異常者その二。
「へへへ、観念しな兄ちゃん。もうお前には逃げ道はねぇぜ。さっさと財布を出しな!」
金髪がそう言いながらニヤニヤとした笑みを浮かべながら最初に会ったときのように舌でナイフを舐める。そしてこれまた最初と同じ様に舌を切って悲鳴を上げた。馬鹿なのだろうか。いや、きっと馬鹿なんだろう。
「血を、お前の血を嗅がせろ、お前の血の匂いをオレに教えろ……血を、血を、血を血を血を血ヲ血ヲ血ヲォォォォ!」
「デュフデュフォクポフォ……この世で服を着ていいのは強者だけなのでござる。よって拙者達に財布を狩られる運命にある貴様が服を着ることは許されないのでござるよぉ……」
異常者、やはり異常者だ。痩せた男はもうオレの血しか眼中にないし、デブ男は意味の分からない超理論を振りかざしている。あれは絶対に関わってはいけない輩だ。異常者二人からの異様な雰囲気に押されて思わず後ずさってしまう。
「へっへっへ、どうやらオレが怖えみたいだなぁ……怯えて後ずさりなんかしてよぉ。安心しな、抵抗しなけりゃ何もしねぇぜぇ……」
いや、お前には全く怯えてない。怖いのはお前の左右に立っている頭のおかしい二人だ。お前だけならともかくその異常者二人に捕まれば絶対にただじゃ済まない。財布を取られる以上のことをされる。
「さぁ、さっさと財布を出しな。というか早く出してくれ。早くしてくれねぇと隣の二人が何しでかすか分かんねぇんだよ。お前もこの二人のヤバさは見て分かるだろ? だから財布を早く出して逃げるんだ。オレがどうにかしてこの二人を引き止めるからよぉ……な? 分かるだろ? は、早くしてくれよぉ」
「血、血、血ィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!」
「デュフォフォフォフォフォフォフォ……キリサク! フクヲ! キリサク!」
金髪、お前も仲間の二人に怯えていたのか。というかその異常者二人が完全にヤバい状態になっている。これは本当に金髪の言うとおりに財布を差し出したほうがいいかもしれない。ポケットに手を入れて財布を取り出す。これを金髪に渡せばこの状況は万事解決だ。だが、しかし、しかし……
「く、くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
「ど、どうしたんだよ兄ちゃん。そんな唸り声あげてよぉ。財布よりも命が惜しいだろ? だよな?」
確かにそうなのだろう。今ここで財布を渡さない異常者二人に何をされるか分かったもんじゃない。だがこの財布は……この財布を渡せばオレは……
「……なぁ、金髪」
「ど、どうしたんだよ兄ちゃん」
「この財布の中身、オレの全財産なんだ……」
「マジかよ!?」
衝撃のカミングアウト。この財布を渡せばオレは全財産を失ってしまう。だが渡さなければ異常者にヤバいことをされるのは自明の理。全財産を失って今ただこの瞬間を生き抜くか、ひどい目にあってでも全財産を守り抜くか、究極の選択だ。
「いやでもこいつらに襲いかかられれば結局財布取られるぞ兄ちゃん」
「あ、確かに」
よく考えればそのとおりだ。なら悩む必要なんて無い。何もされずに全財産を失うのとひどい目にあって全財産を失うなら、前者の方が圧倒的にマシである。
「あ、じゃあこれ貰ってください」
「おう、その財布、確かに受けと――」
それは、丁度オレが金髪に財布を手渡した瞬間に起こった。遂に我慢の限界が訪れた異常者二人が奇声を上げながらオレに向かって走り始めたのである。
「血ィィィィィィエエエェェェェェェェェェ!!!!!!!!!」
「デュフォフォフォフォフォフォフォフォフォ!!!!!!!!!」
「え、ちょ、待てお前ら」
金髪がどうにかして二人を止めようとするが二人の異常者は止まらない。痩せた男は「キエエェェェ!」と奇声を上げながら飛び跳ね、デブ男はただただ鼻息を荒くしながらナイフを振り上げて走ってくる。
その狂気的な光景に恐怖を感じたオレが命だけでも守ろうと腕を前にして防御態勢をとり、金髪が狂気に満ちた仲間を止めようとしてオロオロしていたときだった。
「ブフォッ!?」
突然恐ろしい速度で光の玉が飛んできて金髪の横っ面にクリーンヒット。異常者二人を止めてオレを守ろうとしていた金髪をぶっ飛ばす。そして、吹っ飛んだ金髪は狂気の異常者二人を追い越してオレの後ろにある壁と熱いキスをした。可哀想に。
だが、それは狂気の異常者達には効果覿面だったらしい。二人は壁に激突した自分たちのリーダーを見てその場で硬直し、それぞれが個性的なコメントを残した。
「これが、リーダーの血の匂い……! このような形で知ることになろうとは……!」
「西野山ジョニー殿……!? 今なら服を切り裂けるでござる……!」
お前らリーダーまで狙ってたのかとか、金髪、お前そんな名前だったのか、など色々なツッコミが頭に浮かんでくるが、それらを口にする前に凛とした透き通るような女性の声が裏路地に響いた。
「一人に寄って集って何をしているのですか! 今すぐその人から離れなさい!」
どうも、作者です。ノリで考えてそのまま形にした第一話ですが、その後改めて振り返るとかなりひどいことに気が付いたので新しく書きました。前の無駄に長いホモネタばかりのものよりも短く、さらに全年齢対象になったのでずっとマシなものに変わったと思います。面白いと思ったら今後も読んでください。
【次回予告】
まともなチンピラ一人と異常者二人に絡まれ絶体絶命の危機に陥ったソウタ。異常者二人は痺れを切らしてリーダーの制止を聞かずにソウタに襲い掛かる! だがそこに駆け付けたのは……?
次回ファンタジー化した地球の日常、『やつらは大切なものを持っていきました』! えっと、その……げ、元気出してください!