2日目4 図書館
オババの薬草屋で乳鉢と乳棒をカッパーで購入し。
時間が来たので、スズシロは図書館にやって来た。
「今日もよろしくお願いします」
受付の老爺『サカジ』に冒険者カードを提示して、スズシロは図書館に入る。
「とりあえず『イスタ王国観光案内』だね」
オババお勧めの本を手に取り、まずはパラパラめくる。
「うん」
簡略化された地図や挿絵付きでとても分かりやすい。
「これなら、この本だけで読めるね」
『イスタ王国観光案内』は、とても役に立つ本だった。
「『国有林の木を勝手に伐るのも、枝を折るのも駄目です』あっぶなー……」
そんな国有林が、ファステスを北に半日進んだ街『ラントフヒル』にはあるという。
嫌な予感がして攻略サイトを開くと。
「っしセーフ!」
攻略組はファステス西の街『セグンド』に、釣りガチ勢は南の街『ポートシラーン』へ向かっているそうで。ラントフヒルは名前は知られているものの、行くプレイヤーはいないようだ。
『ベータ時代街の回りの森で戦った攻略組が大勢牢獄に入れられた』
そんな情報が出回っているようだ。
(それって、情報収集せずに森に入ったんじゃ……)
勇敢と常識知らずを履き違えていそうな攻略組に頭が痛くなる。
(とりあえず、攻略組とは関わらないようにしよう)
「『薬草や野草の群生地は荒らさないようにしましょう』。リアルでも当たり前のことだけど、この世界をただのゲームだと思っている人はやりそうだね」
採取出来る有用なモノがあれば乱獲する。それがゲーマーという生き物だ。
「念のため、ゲーム内掲示板の『読書板』にこの本紹介するかあ」
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DF書籍お勧め板vol.1
1.名無しの異邦人
ここはDF内に存在する本をお勧めする板です
面白い本はドンドン推していきましょう
2.名無しの異邦人
立ておつ
3.名無しの異邦人
『初心者冒険者の手引き』
著者:オー・マガッ
モンスターと戦ったり採取したり森歩きしたりする上での注意点が纏められている。
とりあえず読んどけ
4.名無しの異邦人
過疎スレ乙
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書き込むのは、全く住人のいない掲示板だ。
(その方が都合良いし)
スズシロにゲームを攻略する意思はない。
だが人間というものは嫉妬も誤解も恨みもする生き物で。特に攻略組と言われるようなプレイヤーともなると、自分の得た情報は秘匿する癖に、他人が情報を秘匿することを許さない人物が多いと、スズシロは感じている。
だから過疎な攻略組のいなさそうな掲示板に『こんな情報ありましたよ!』と上げておけば、難癖付けられた時に『情報の秘匿はされていない』と堂々と言える訳だ。
なら何故攻略組のいる掲示板に書き込まないかというと。
(なーんか、このゲームの攻略組好きになれそうにないんだよねえ……)
と感じたからだ。
(どことなく傲慢というか、偉そうというか。助ける気になれないよ)
攻略組のいる掲示板の雰囲気から、スズシロはそう感じていた。
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5.名無しの異邦人
『イスタ王国観光案内』
著者:イスタ王国統計部
ファステスやその周辺を統治している国『イスタ王国』の観光案内
イスタ王国での常識も書かれている
これに書いてること守れば理不尽な投獄はされなくなりそう
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「よし」
これで良いだろう。
スズシロはそう判断して、『イスタ王国観光案内』を片付けて別の本を探す。
(一般常識の本はだいたい読めたから、簡単な歴史の本読もうか)
このゲームの中の時間の進みはリアルの四倍。歴史の本なら、あと四冊は読んでも自主勉強の時間を確保出来る。スズシロはそう判断していた。
のだけれど。
「ダメこれ」
一冊読んで時間になった。疑問点が多すぎて読み進めるのが厳しかったのだ。
(歴史を理解出来るだけの、基礎となる知識が今の私にはない)
ただ暗記するだけのことがスズシロに出来たなら、有意義な時間になったろう。だがスズシロは『三平方の定理』を覚えるのに、算数の教科書の他に理科と社会の教科書も必要とするタイプである。
『三平方の定理は古代ギリシャの哲学者ピタゴラスが発見したと言われているが、古代バビロニアや古代エジプトでも発見されていた可能性がある。
バビロニアはティグリス・ユーフラテス川流域、ギリシャはバルカン半島南端エーゲ海沿岸、エジプトはナイル川流域に位置しており。農業向きの豊かな土壌は存在はしていたものの、バビロニアは乾燥地、ギリシャは丘陵・山岳地な上地中海性気候、エジプトは乾燥地と、農業向きの土地は限られていた。
そんな限られた豊かな農地をより厳格に管理するため。農業に不向きな土地を開墾し、また用水路を造るため。測量技術の発展が必要とされていた。
三平方の定理はそんな環境で誕生し、今でも『基礎技術』として使われ続けている数学の定理である』
三平方の定理の公式を覚える前段階として、これだけの情報を必要とするのが、スズシロだ。
そんなスズシロが、今のDF世界の一般常識を多少覚えたところで歴史を学べる訳がなかったのだ。
(見込みが甘かった)
スズシロは苦笑して、計画を立て直す。
(とりあえず、『魔法技術』と『この世界の資源事情』『この世界の食料事情』を知らないと、歴史の本は読めない。なら優先すべきは)
「『食料事情』を調べよう」
スズシロは食料や作物について書かれた本の置いてある場所を探す。
(鉄は最悪なくても魔法があればなんとかなるけれど、食料はそうはいかない。だから食料を中心に『資源』『魔法』『土木』『数学』の不足している情報を追加していくのが、理解しやすいはず)
スズシロは探していた本を見つけて。
「明日はそれをやる。今からは学校の勉強」
このゲームを始めた本来の目的に戻った。
(やるべきことをやってから遊ぶ)
それがスズシロの『鉄則』だからだ。