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2日目

 学校を終えて帰宅後、リアルの鍛練をしてから、DFへ二日目のログイン。

「これは楽だね」

 ゲームの中で、スズシロは学校の勉強に励んでいた。

(私の勉強方法は効率が悪い)

 スズシロにその実感はあった。


 たかがハーバーボッシュ法を覚えるのに、化学の他に数学物理生物地理歴史倫理の教科書も開く必要を、他人は感じないらしい。ただ教科書の『ハーバーボッシュ法のページだけ』を開いて仕舞いだと言う。

 だが、スズシロはそうしないと物事を覚えられない。だからリアルの勉強机はダイニングテーブルだったし、教科書で足りない資料のためにタブレット端末すら置く必要がある程だ。

 両親は、スズシロを『天才だ』と褒めて投資してくれる。だが天才は、同じクラスの藤堂健太のような人物を言うのだ。一を聞いて一〇を理解するような、藤堂のような人物こそが、天才だというのだ。

 自分のように、一〇を聞いて一を理解するのは、凡才ですらない馬鹿か阿呆だ。スズシロは本気でそう思っていた。


 そんなコンプレックスはともかく。

 ゲーム中の図書館とはいえ、本を何冊も開くのは邪魔になる。だからスズシロは、同期しているアプリを使って視界に教科書のページと検索エンジンを開き。図書館の机の上には筆記具と電子化された宿題のプリントだけ置いていた。


 『時間四倍加速機能』は素晴らしく、リアルで一五分しか経っていないのにスズシロの宿題は終わっていた。

「んー!」

 だが、体感で一時間宿題をしていたことは、精神的な疲労となってスズシロに襲いかかっていた。

「さて」

 夕食まであとリアルで四五分、ゲーム内で三時間ある。

「少し遊ぶか」

 昨日図書館で調べたことを実行すべく、スズシロはファステスの街へくり出した。




 向かったのは、ファステスの北の大通りを、西に二本入ったところにある『商店街』だ。

「おー」

 夕日に照らされる商店街は、ガヤガヤと生活感に溢れていて、スズシロはなんだかワクワクしてくる。

「まずは、と」

 スズシロはお目当ての店を探すも、すぐに見つかった。

「お邪魔しまーす」

「あいよ」

 そこは『両替所』だった。胡散臭い笑みを浮かべるおっちゃんに、スズシロは言う。

「『シルバ』を『カッパー』に変えたいんですが。良いですか?」

 おっちゃんは胡散臭い笑みを深めて言った。

「今日のレートは『一シルバ』が『一〇カッパー』、手数料に一割持ってくから、一シルバ毎に九カッパーや。ええか?」

 スズシロは頷いた。

「それでお願いします」


 図書館で調べたところ、この世界のお金は。

・『ダンジョン』のモンスターからドロップする『シルバ』。

・超国家的組織『ギルド連合』が発行する『カッパー』。

・各国が発行する『ゴルド』。

・教会が発行する『ラチナ』。

 の四種類があるという。

 冒険者は主にシルバを使うが、一般人や商人はカッパーを使うらしいので、スズシロはそれに合わせることにしたのだ。

(それに、プレイヤーはこのゲームを始める時一〇〇〇シルバ持たされる。これからダンジョンアタックもする。ならシルバの価値が相対的に下がることもあり得る)

 そこまで読んでの、両替であった。


「とりあえず一〇〇シルバ分お願いします」

「……中々多いな。ほれ、九〇〇カッパーや」

「ありがとうございます」



 両替を終えると、スズシロは商店街をぶらつく。

(八百屋、果物屋、肉屋、薬屋、服屋いや古着屋か)

 歩くだけで楽しい。スズシロはニコニコと笑いながらぶらつく。

「おっちゃん、この干した果物、何て言うの?」

「ああ嬢ちゃん異邦人(プレイヤー)か。それは『ぺサミン』って果物を干した『干しぺサミン』だな。白い粉吹いてる程甘ぇぞ?」

 見た目は完全に小さな干し柿な干しぺサミンを、スズシロは試しに食べることにする。

「一個ちょうだい! 何カッパー?」

 スズシロが尋ねると、ドライフルーツ屋のおっちゃんは目を丸くした。

「異邦人なのにカッパーの存在知ってるのか!」

「まだこの世界の常識は勉強中だけど、それぐらいは、ね?」

 スズシロは(自慢することではなかった)と恥ずかしさから頭をかいたが、ドライフルーツ屋のおっちゃんは感心していた。

「ちゃんと勉強するのは良いことだ! 一個五〇カッパーだが、四五カッパーにまけたる!」

「ありがと!」

 スズシロはカッパーを支払い、干しぺサミンを受け取る。

「ここで食べても良い?」

「おうよ!」

 早速干しぺサミンを食べる。

(ん?)

 味も食感も干し柿だ。だが一点だけが、スズシロの食べたことのある干し柿と違った。

「種がない!」

 スズシロが食べたことのある干し柿は、田舎の親戚から送られてきた『種有り干し柿』だった。だがこの干しぺサミンには、種がない。とても食べやすかった。

「そりゃあ、農家さんが頑張って品種改良してきた成果だな」

 ドライフルーツ屋のおっちゃんは胸を張っていた。

「いいね! そういう話大好き!」

「お? おう? そうか?」

 おっちゃんはドギマギする。


 スズシロは完全に忘れて自然とそれらしい行動をしていたが。

 リアルと違い、今のスズシロは『女の子』だ。しかも、美形なエルフの。

 おっちゃん位の年齢の男の多くは若い子、それも女の子に自分の仕事を褒められるのに弱いことを、スズシロは完全に忘れて素で行動していた。


「ならこの『干しグレープ』の話はどうだ?」

「わっ、大きい!」

 話を聞いてくれるのが嬉しくなったドライフルーツ屋のおっちゃんの話を、スズシロは楽しんで聞いていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 両親が才能を理解してくれているのは救いですね。
[気になる点] 主人公が1割の手数料を払ってシルバをカッパーに両替したのは、市民の店ではカッパーしか使えないということなのでしょうか? (そうでないと手数料を支払ってまで両替をする意味がわからないため…
[良い点] 更新乙い [一言] >>理解 気質が研究者に向いてる感じかなあ >>「とりあえず一〇〇シルバ分お願いします」 >>「……中々多いな。ほれ、九〇〇シルバや」 (手数料で)一〇〇シルバ分お願…
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