図書館・開発の事情
図書館利用のルールを確認後、スズシロは一般常識の書かれている本を読んでいた。
「ふむ」
本に書かれている謎文字の横に日本語の文章が浮かぶので、読書自体は簡単に進んだ。
だが、スズシロの興味は別のところにあった。
(文字は三〇種類と明らかに鉤括弧らしきモノ。文末っぽいモノが句読点の『、。!?』とすれば。これはもしかして)
「文字の種類が違うだけで英語か」
翻訳されている文章の癖から見るに、『アメリカ語』ではなく『イギリス語』だ。
《条件を満たしました》
《スズシロは『大陸共通語の仕組み』を理解しました!》
《特性【大陸共通語話者】を得ます!》
「うん?」
『特性』って、何だ?
メニューからステータスを開く。
~~~~~
名前:スズシロ
種族:エルフ
特性
【大陸共通語話者】
種族スキル
【精霊魔法】【筋力低下】
スキル
【魔力感知Ⅵ】【魔力操作Ⅵ】
【生活魔法Ⅰ】【体術Ⅲ】
【採取Ⅰ】【空き7枠】
~~~~~
「どういうこと?」
ステータス欄の項目が増えていた。
(もしかして、ステータスには『マスクデータ』が存在している……?)
表示されないだけで存在はする『マスクデータ』。それが恐らく、『筋力』等の『能力値』的なモノ以外にも存在しているのだ。
(とりあえず、その前提条件で仮定を立てられるね)
スズシロは考える。
(今読んだ本によると、【精霊魔法】は『精霊に呼び掛けて発動する魔法』と書かれていた。その通りなら、私は『精霊に通じる言葉を話せる』ことになる)
とりあえず、試してみよう。
『精霊さん』
精霊に語りかけるよう、意識しながら言葉を話すと、自分の口から音ではない言葉が漏れた。
そして視界が切り替わった。
「おー」
思わず感嘆の声が漏れる。世界のあちらこちらに、色々な色に光る玉が浮いていて、私を見ていた。この玉が、精霊なのだろう。
『精霊さん、始めまして。よろしくね?』
そう言うと、精霊達は嬉しそうに踊った。
《条件を満たしました》
《スズシロは『精霊との交流のやり方』を理解しました!》
《特性【精霊視】【精霊語話者】を得ます!》
~~~~~
名前:スズシロ
種族:エルフ
特性
【精霊視】【精霊語話者】
【大陸共通語話者】
種族スキル
【精霊魔法】【筋力低下】
スキル
【魔力感知Ⅵ】【魔力操作Ⅵ】
【生活魔法Ⅰ】【体術Ⅲ】
【採取Ⅰ】【空き7枠】
~~~~~
(素敵な仕様だ)
スズシロは思った。
(隠し要素が多ければ、それの解析にプレイヤーが手間取ってゲームの寿命が長くなる)
それはこのゲームを長く遊べることに繋がる。
(それは素敵だ)
せめて高校卒業までは、このゲームを稼働していて貰いたい。でないと、お高い勉強アプリを買うことになる。スズシロは自己中心的な思考から、DFの隠し要素の多さを喜んだ。
「さて」
隠し要素が多いことを解明したスズシロは図書館の机に座ってDFに同期しているアプリを開く。
「勉強の時間だ」
このゲームには、勉強と鍛練と休憩のためにログインしている。スズシロはその目的を違えることはしないのだ。
(【精霊視】をオフに。次のテストでは芥川龍之介の『羅生門』が出る。なら開くべき教科書は……)
とりあえず、と『国語』『歴史』『地理』『倫理』の教科書を開き、アラームをセットして。スズシロは勉強を始めるのだった。
* * *
「でかした!」
新作フルダイブゲーム『Dive to Fantasy』開発の一人、只野太郎はチュートリアルAI『リア』を褒めていた。
《は、はあ……》
リアは困惑している。
「初日で我々の求める人材を見つけるとは! 良くやったぞリア!」
《え、えーと? どなたのことですか?》
リアには思い当たる人物がおらず、困惑するしかなかった。
「『要注意』と送ってきたプレイヤーだ! 本名『鈴木哲也』、プレイヤー名『スズシロ』!」
《……ああ!》
言われて、リアはそのプレイヤーを思い出した。
《あのチート疑惑のあるプレイヤーですか》
リアの反応を、只野は苦笑した。
「チート? 確かに『リアルチート』だな」
《え?》
リアは困惑を深める。
《フルダイブ適性が平凡なのに、あるような反応をする不正プログラムを仕込んでいるのじゃないですか?》
「そんな訳あるか!」
只野は言う。
「このゲームは『不正プログラムを仕込めない』! そのための『時間四倍加速機能』だからな!」
《不正じゃなければ、何なんですか……?》
「言ったろ? 『リアルチート』だ」
只野はニンマリと笑う。
「私は上にスズシロをスカウトするための書類を書く! リアは引き続き、スズシロのような人物を探してくれ!」
《フルダイブ適性マックスの人六人と『ゾナー』四人を提示しましたが、そちらは良いのですか?》
「そんな『凡人』……、いや、一応確保するか。書類書くか」
フルダイブ適性マックスの人とゾナーを『凡人』扱い?
(あり得ない)
リアは思う。
フルダイブ適性がマックスな人物も、『ゾーン』の出入りを操れるゾナーも、希少な人材だ。それを言うに欠いて『凡人』とは。
(凡人はスズシロでは?)
リアは、開発の上の人物に『只野太郎が壊れた』と報告することにした。
ところが翌日。
「「でかした!」」
リアは開発陣総出で褒められていた。
「スズシロは、我々が求める人材だ!」
「これでフルダイブ技術を一〇〇年進められる!」
「いやいや、人類が進化するかもしれんぞ!」
大興奮の開発陣に、リアはひきつった笑みを浮かべるしかなかった。