チュートリアル~始まりの街ファステス
今日は投稿開始初日なので2話更新
スライムに触れて。魔力を弄くり回して。スズシロは気付いた。
(このスライムは魔力で出来ている)
厳密には、中心にある、目視可能な『核』から『膨らんでいる』。だからそれを『折り畳んで』やれば、スライムを倒せるのでは?
とスズシロは考えたのだ。だが、問題があった。
(魔力を操る技量が足りない)
だからチュートリアルAIに頼んで時間を区切り、【魔力感知】と【魔力操作】を鍛えたのだ。
今のスズシロの【魔力感知】【魔力操作】のレベルはそれぞれ【Ⅴ】。オープンベータテストでこれらのスキルレベルで最も高かった数値と同じである。
DFはプレイヤーのリアル技量がスキルレベルにある程度反映される。だとしても不自然な数値だ。全てを監視出来るチュートリアルAIの疑念は深まった。
「やる」
一言気合いを入れると、スズシロはスライムボディを【魔力操作】で折り畳んでいく。慎重に、確実に。
たっぷり五分かけてスライムは折り畳まれ。スズシロの手元には、青く透き通った拳大のガラス玉が残った。
《……おめでとうございます!》
チュートリアルAIはスズシロに言う。
《スズシロ様はスライムを『特殊条件を満たして』倒しました! この場合、ドロップアイテムも特殊なモノに変化します!この場合は『召喚石:スライム』と言ってスキル【召喚魔法】を習得すれば、スライムを連れて歩けるようになります!》
「ほほう?」
スズシロは考える。
(弄った感じ、あのスライムは『魔力を蓄える』性質がある。となると、『魔力タンク』として運用出来るかもしれない)
それは便利だ。スズシロの中で【召喚魔法】習得が決まった瞬間であった。
《続いて、生産チュートリアルです。目の前の机の上に、水を張った鍋と『スライムゼリー』、菜箸がありますか?》
「はい」
突然出現したそれらにスズシロは困惑せず答える。
《では、鍋にスライムゼリーを入れて混ぜてください》
言われた通りにする。『スライムゼリー』は水に溶け、水は鮮やかな青色に染まった。
《これでアイテム『スライムジュース』の生産が完了しました。このように、生産は基本的に自分で実際にモノを作る必要があります》
「なるほど」
(つまり制作過程を省略する方法もある、と)
スズシロはそう理解した。
《では、『スライムジュース』を飲んでみてください!》
鍋は消え、代わりに小さな缶コーヒーサイズのガラス瓶に入った『スライムジュース』が六本、机の上に並んでいた。
スズシロはそのうちの一本を取って飲む。
「……ほのかに甘い?」
《だけではありません。視界左上の『HPバー』の下を見てください!》
言われた通りに見ると、白いバーの下に、青色の上矢印の中に『HP・MP』と書かれたマークがあった。そして体内魔力の回復量が増えていることも感じる。
《食事やポーションを摂取すると、このように『バフ効果』が発動することがあります! バフ効果のマークの一覧は公式サイトにありますので、是非確認してください!》
「分かりました」
暇なら確認しよう。スズシロはそう思った。
《チュートリアルは以上です。何か質問はありますか?》
「あります」
《どうぞ!》
「ストレージは、思考入力で開くの?」
《その通りです!》
「そう。ならこの残る『スライムジュース』は持って行っても良い?」
《どうぞ!》
五本のスライムジュースの瓶をストレージに入れる。
「次の質問」
《はいっ!》
「アイテム名はどうやったら分かるようになる?」
《ストレージに入れた状態かスキル【鑑定】を習得していれば分かります!》
何か罠がありそうな言い方だな。スズシロは勘付いた。
「この世界の常識的なものは、どこから分かる?」
《降り立つことになる『始まりの街ファステス』の図書館に、色々な情報がありますよ? その中にあるかもしれませんね!》
(図書館以外も調べろ、と)
とりあえずこんなものかな、とスズシロは判断する。
「質問は以上。ありがとう」
《どういたしまして! では『Dive to Fantasy』の世界に入りますか?》
「『はい』、お願いします」
《では送ります! 是非楽しんでください!》
* * *
降り立った『始まりの街ファステス』は、いかにもゲームにありそうな石造りの中世っぽい街並みだった。
「ふむ?」
降り立ったのは、中央に石柱のある広場だ。
「この石柱は……」
《ポータル登録されました!》
《行きたい場所を指定してください!》
《警告:他のポータルへの登録がありません!》
「なるほど」
これが『ファストトラベル』という奴か。そのうち甘味処巡りでお世話になるかもしれないなとスズシロは思った。
「とりあえず、冒険者ギルド行ってスキル枠増やそう」
スズシロはそう決めて、思考操作で『マップ』を開く。
「ん?」
表示されたマップに違和感を抱く。
(表示されるお店が少ない)
このゲームのNPC『世界人』は普通に食事を摂るらしいのに、パン屋すら表示されない。
(ウィンドウショッピングしたり冷やかししたりして、どの通りにどんなお店があるのか、だいたい把握しよう)
そう決めつつ、冒険者ギルドへゆっくりと向かう。




